おとこのこキッチン

いつかわカケル

ザクザクころもの肉巻きコロッケ

「火をこわがらんで。男の子やろ?」

「うん……おとこのこ」


 母の言葉に、ぼくは神妙にうなずく。


 フライパンでぷちぷち泡を立てる油に、ころもをまとった小判型のタネをすべりこませる。

 パチパチと、音がはしゃぐように高くなった。

 油に浸かった面が、じょじょにこんがり色づきはじめる。ころもの香ばしい匂いがただよってきたかと思うと、タネに含まれるマヨネーズがぷんと主張する。

 なんてわくわくする時間だろう。

 カラッと揚がったころもと、ホクホクのその中身を想像するだけで、よだれが出そうだ。

 料理って、こんなに気持ちが高ぶるものだったのか――

 目、耳、鼻――あらゆる感覚が、いっせいにおなかを刺激した。


 子が親に料理を教わる。

 それ自体、なんの変哲もない光景かもしれない。

 ただひとつ違っているのは――

 母が「幽霊」だということだ。


☆ ☆ ☆


 もちろん、受け入れるまでには時間がかかった。慣れないキャンパスライフに都会のひとり暮らしで、幻覚でも見てるんじゃないかと最初は思った。幽霊なんかより、よっぽどありえる話だ。


「ジロちゃーん。母ちゃんよー。おーい」


 治郎(じろう)だから、ジロちゃん。確かに、生前の母のぼくへの呼び名ではある。

 最初の三日間は無視した。

 連日の夜更かしがたたったのかもしれない。幻覚なら、早寝早起きを心がけていれば、自然と見なくなると思った。

 でも、それは甘かった。

 四日目の夜のことだ。


「あちゃー、今日もからあげ弁当ね」

「………」

「野菜もちゃんと採らんば」

「………」

「そげんぶりぶりマヨネーズかけて」

「………」

「母ちゃんがレモンかけちゃろっか」

「ちょっ! まっ!」


 母がレモン汁の小袋に手を伸ばした瞬間、ぼくもあわてて手を伸ばす。バンッ! 幽霊の母の手をすり抜け、ぼくはテーブルを叩くはめになった。

 このお節介なところ、生前とまったく変わっていない。

 ぼくは観念して話しかける。


「マジで母ちゃん?」

「ようやく気づいてくれたとね」

「マジ?」

「そげん疑わんでもよかやない」

「なんで?」

「さあ。母ちゃんにも分からん」

「マジかよ……」

「マジ、マジって。すっかり東京の人になりんしゃったねえ」

「いやいや……で、いつまでいるの?」

「さあ。母ちゃんにも分からん」

「マジかよ……」


 母は、ぼくが部屋でご飯を食べているときに限ってあらわれる。

 これは不幸中の幸いだった。

 出現タイミングさえ分かっていれば、ある程度心の準備もできる。大学だったりバイト先だったり、外では一度もあらわれていないのがせめてもの救いだ――今のところ。


「いただきます」

「あちゃー、寝起きにカップラーメンね」

「いいじゃん別に」

「今日は大学は」

「休み。これからバイト」


 今日も今日とて、適当にあしらいながらずるずると麺をすする。

 だんだん慣れてきたものの、このままでいいとは思っていない。母には早く成仏してほしい。それが自然の摂理というものだろう。

 でも正直、たまにあらわれる母の幽霊のために、あれこれ手を尽くすほどの時間は、今のぼくにはなかった。

 学生は、なにかといそがしいのだ。


「ごちそうさま」

「はあ、早かあ。もうちょっとゆっくり食べんね」

「バイトに遅れちゃう」

「バイトって、なんばしょっとね」

「カフェのバイト。じゃあ、行ってきます」


 そう、カフェのバイト。

 嘘は言ってない。


☆ ☆ ☆


 嘘は言ってないが、秘密にしていることはある。

 母にも、大学の友人たちにも。

 秋葉原駅から徒歩10分。

 とある路地裏の地下にある店で、ぼくはバイトしている。

 その名も――


【おとこのこカフェ ドルチェ・ヴィータ】


 控え室の鏡のまえに座る。

 ぼさぼさ髪に黒縁メガネの、小柄な男子がそこにいる。

 メイド服に着替え、メガネをはずし、カラコンをつけ、髪をセットし、メイクを施す。

 この間、およそ30分。

 大好きな魔法少女みたいに、一瞬でとはいかないけれど。

 ぼくはゆっくりと「変身」していく。

 この店で働きはじめて、美容にもメイクにもくわしくなった。


 ――あなた、かわいくなる「覚悟」はある?


 店長の小枝(こえだ)さんから、面接のときに言われた言葉だ。この鏡のまえに座るたび、思い出してはその意味を噛みしめる。


「これでよし、と」


 最後に名札を整える。それがぼくの、ホールに出るまえのルーティンだった。

 黒髪ショートボブの、ちょっとアンニュイな雰囲気のメイドさんがそこにいる。

 だいじょうぶ、ちゃんとかわいい。

 だいぶ垢抜けてきたとは思う。でも理想の「かわいい」にはまだまだほど遠い。


【チロル】


 それが、ここでの、ぼくの名前だった。


☆ ☆ ☆


「ねえねえ、チロちゃん。次は何がいいと思う?」


 カウンター席の常連さんと話していたぴのちゃんが、とつぜん話を振ってきた。


「えっ、次?」

「ほら、先週ここで縁日イベントしたじゃない? 焼きそば焼いたりさ。ほかにも、ホットプレート活用できないかなーって」


 キッチンではなく客席の一角を利用して、ホットプレートで露店を再現して盛り上がった話は聞いていた。


「あれ、そういえばあのときチロちゃんいなかったっけ。チロちゃんの浴衣見たかったのにぃ。ねえ、いっちーさん」


 ぴのちゃんに同意を求められた常連さんは、激しくうなずく。

 派手髪ツインテールのぴのちゃんは、見た目からしぐさに至るまで、本当に女の子にしか見えない。

 お店限定のぼくとは違って、ぴのちゃんは普段からフルタイム女の子として過ごしている。キャッチやナンパもしょっちゅうらしい。

 ぼくもぴのちゃんの浴衣姿は見たかったし、自分もできることなら浴衣でお給仕したかった。でも――


「ホッ……」

「ホットケーキとかベタじゃない? ほかに何かないかなー」


 先手を打たれてしまった。困った。ほかの料理はぜんぜん思い浮かばない。

 そもそも、ぼくが縁日イベントの日に休んだのはたまたまじゃない。どうしても気が進まない「個人的な事情」があった。


「じつはぼく……料理が苦手で……」

「えー、そうなの? 意外。チロちゃん、メイクとかお絵描きとか上手だし、てっきり料理も得意なのかと思ってたよぅ」


 ぴのちゃんは、くりくりの目をさらに丸くした。

 オムライスにケチャップでお絵描きしたり、チェキに「らくがき」と呼ばれるデコレーションを施すのは、われながら上手なほうだと思う。

 なにより「かわいい」をこの手で生み出すよろこびがある。


 でも、料理となると、てんでダメだった。


 ひとり暮らしを機に、料理やお菓子づくりにも挑戦してみたのだが、苦手意識が先に立って、まともに完成したためしがない。


「ほんとは、いろいろつくってみたいんだけど……」

「そっかー……でもだいじょうぶ! あたしも昔は、絵が大の苦手だったけど、今はこんなに得意だもん! ねえ、いっちーさん」


 常連さんは激しくうなずく。

 ぴのちゃんは、その独特すぎる画風から、畏敬の念をこめて「画伯」とか「邪神絵師」と呼ばれているのだった。

 ぼくの料理コンプレックスを察しつつ、場がなごむような方法ではげましてくれる。こういうところが、ぴのちゃんの人気のひけつなんだと思う。

 でもそうか、「ほんとは、いろいろつくってみたい」のか――

 自分のことながら、新鮮なおどろきだった。


「お冷のおかわりおつぎしますね、いっちーさん」


 ぼくは笑顔で言った。


☆ ☆ ☆


 閉店作業も終わり、控え室の鏡のまえでメイクを落とす。

「変身」が解ける時間。

 いつも名残り惜しい気持ちになる。


「明日台風来るらしいよー」


 メイク落としの必要がないぴのちゃんが、スマホをいじりながらつぶやく。終業後、こうやってとりとめのないおしゃべりをするのが恒例になっていた。


「そんなあ。また洗濯物たまっちゃう」

「コロッケ買って帰らなきゃ」

「コロッケ?」

「台風といえばコロッケでしょー。あー、おなかすいたっ」


 確かに。午後9時閉店で、なんやかんやで帰る時間は10時ごろ。

「おなかすいた」はもはや合言葉になっていた。

 以前はまかないも出ていたらしいのだが、「食欲」ならぬ「食べさせ欲」の強いキッチン担当・丸大さんの絶品料理は、キャストの体重を軒並み増加させてしまい、泣く泣く封印されたという。


「おつかれさま。ちょっといいかな」

「どうぞー」


 ノックの音に、ぴのちゃんが返事をしてくれる。

 丸大さんだった。その名のとおり丸くて大きくて、森の熊さんみたいだ、といつも思う。


「こないだの縁日イベントの食材の残り。よかったら持って帰らない? ふたりとも、ひとり暮らしだろう?」

「えー、あたしパス。実家から仕送り来たばっかりだし。チロちゃん、もらっときなよ。食費浮くよ」


 ぴのちゃんの実家は農家で、定期的に米や野菜が大量に届く。


「でも、ぼく料理は……」

「食材って、キャベツとか豚バラでしょ。適当に炒めとけばいいんだって。らくしょーらくしょー。らくしょー味塩こしょー」

「なにそれ」


 丸大さんは、食材の入ったビニール袋を持って所在なさげにしている。大きい体を縮こまらせている姿が、余計に哀愁を誘う。


「じゃ、じゃあ」

「本当かい? よかった! ちゃちゃっと野菜炒めでもいいし、酒蒸しにしてポン酢をかけてもおいしいよ。お好み焼きもいいなあ。ああ、それから……」


 この店のみんなは、食べものの話となると、途端に饒舌になる。

 それがぼくには、ちょっぴりうらやましい。 


☆ ☆ ☆


 食べることはきらいじゃない。

 むしろ好きなほうだ。

 おままごとでも、なぜかひたすらごはんをつくっていた。架空のおむすびをみんなでむしゃむしゃほおばるのは、とても楽しかった。

 母に頼んで、手料理も教わっていた。ぶかぶかのエプロンをつけて。包丁を握ったのは、かなり早いほうだと思う。

 ところが、ある日――

 小学生になっても女子とまざって遊ぶことが多かったぼくは、休み時間に手づくりのお菓子を持ち寄って、おしゃべりをしていた。それを、クラスの男子からひどくからかわれた。

 ショックだった。

 でも、なにも言い返せなかった。

 思い出すたび、あのときのクッキーの苦さが口のなかでよみがえる。


 ――もういい! 料理なんかきらい!


 母からの料理の誘いも、そう言ってはねのけた。もとはといえば、自分から頼んだことなのに。母はただ無言で、ぼくに手渡すつもりのエプロンを握りしめていた。


「しゃっさっせー」


 アパートの近くの、いつものコンビニに立ち寄る。店員の謎のあいさつが不思議とほっとする。


「台風……コロッケ……」


 ぴのちゃんの言葉を思い出して、レジ横のホットスナックのコーナーを横目に通り過ぎたが、あいにくコロッケは売り切れのようだった。


「コロッケ……」


 ぜんぜんそんな気はなかったのに、こがね色のアイツのことが頭から離れなくなってしまった。

 かといって、わざわざほかのコンビニに行くほどの元気はない。

 けっきょく、カップの天ぷらそばとポテトサラダと缶チューハイを買って店を出た。


「あじゅじゅしたー」


 あとは、もらったキャベツでもかじるか。

 なまぬるい夜風をほおに感じながら、ぼくは家路を急いだ。


☆ ☆ ☆


 プシュッ――テーブルにつくなり、まずは缶チューハイのタブを開けた。お湯を沸かすのもめんどくさい。まずはポテサラをつまみに一杯やるか。そう思っていたところに、例によって母の幽霊がにゅっと姿をあらわした。


「あちゃー、またそげん強かお酒ば飲んでから」

「いいの。ストレス発散なの」


 とはいうものの、缶チューハイの空き缶が散らばった部屋というのはたしかにかわいくない。「かわいくなる『覚悟』」――店長の小枝さんの言葉が頭でリフレインする。


「毎日飲んどったら発散にならんやないの」

「うるさいなあ」

「こげな食生活じゃ長生きできんばい」

「幽霊に言われたくないんだけど」


 ぼくはレモンチューハイをあおった。チクチクと、すっぱさがのどを刺激する。


「だったら、母ちゃんが手料理つくってよ。わざわざ化けて出るくらいならさ」

「そ、それは……」


 それが無理なことは、ぼくも知っていた。母は幽霊。体は半透明で、物体をすり抜ける。無理を承知で、ついふっかけてしまった。

 ハタチで絡み酒なんて、ますますかわいくない。

 ぼくがまた缶をかたむけようとした、そのときだった。


「じゃあ、あんたがつくればよかやないね」

「そ、それは……」


 こんどはこっちが口ごもる番だった。


「母ちゃんが教えてやるけん。昔みたいに」

「いや、でも、ぼく料理なんか……」

「ちなみに、なんば食べたかと?」

「今日はもうこれで……」

「いいけん、なんば食べたかと?」

「コ、コロッケ、とか?」


 どうせ無理だ。うちには食材がない。

 あきらめるだろうと思いきや、母は引き下がらなかった。


「よかやないね、コロッケ。ちょっと、その袋の中身ば見してみんしゃい」


 カップの天ぷらそば、ポテトサラダ、職場でもらったキャベツに豚バラ――てんでバラバラな組み合わせだ。とても料理になるとは思えない。


「上等上等。さっさくはじめようかね」

「えっ、でも、ジャガイモも挽き肉もパン粉も……」

「そげなもんなくても、コロッケはつくれる」


 母は言い切った。


「マジかよ……」


 ぼやきつつ、ぼくは立ち上がる。

 どうせダメで元々だ。それに――


「コロッケ……」


 その誘惑にはあらがえなかった。


☆ ☆ ☆


「まずはカップそばを開けて」

「えっ? コロッケをつくるんじゃ……」

「その天ぷらをこなごなに砕きんしゃい」

「母ちゃん……」

「なんねそのヤバイものでも見るような目は」


 幽霊は、じゅうぶんヤバイものとは思うが。

 ぼくは半信半疑のまま、百均で買ったごはん茶碗にカップそばの天ぷらを割り入れ、指でつまむようにこなごなにしていく。


「もしかして……これがパン粉のかわり?」

「次は、ポテサラを開けて」

「はいはい」

「いい感じの小判型にする」

「いい感じね」

「おー、そうそう。上手やないね」


 どろんこ遊びのようなものだが、褒められて悪い気はしない。できたタネを、これまた百均で買った皿のうえに置く。


「そしたら、それに豚バラを巻く」

「巻いちゃうんだ?」

「挽いてダメなら巻いてみな、ってね」

「いやいやいや」

「あとは水溶き片栗粉で、さっきのこなごなの天ぷらをまぶす」


 お菓子づくりに挫折してそのままになっていた片栗粉が、こんなかたちで役に立つ日が来るとは。

 最初はどうなることかと思ったが、だんだんサマになってきたような気がする。


「まだまだ気は抜けんよ。フライパンに油をひいて」

「ど、どれくらい?」

「ドバドバ、やなくて、とぽとぽくらいやね」

「とぽとぽ? こんなもんでいいの? 揚げ物なのに?」

「よかよか」

「う、うん」

「中火にして、油があたたまったら、さっきのタネを焼く。片面1分くらいかねえ」


 ここは母の言葉を信じるしかない。おそるおそるフライパンにタネを入れると、じゅっと音がはじけた。


「火をこわがらんで。男の子やろ?」

「うん……おとこのこ」


 母の言葉に、ぼくは神妙にうなずく。


「天ぷらのエビの香りがしてきた」

「いい感覚やね。料理は五感でするもんやけんね」


 1分ほど焼いて、フライ返しで裏返す。


「わあ、こんがり!」

「豚肉に火が通っとうかどうか気をつけて」


 また1分ほど。


「そろそろよさそう」

「キッチンペーパー……は無かやろうけん、油はよーと切って」


 揚げたての熱々を、皿にのせる。

 すごい。

 できた。

 料理が。


「どげんね! 名づけて『ザクザクころもの肉巻きコロッケ』!」


 幽霊のドヤ顔というものを、ぼくははじめて見た。


☆ ☆ ☆


「いただきます」


 焼いているときから、かぶりつきたくて仕方なかった。ぼくはこんがり焼けた小判型のそれを、割りばしで口に運んだ。


「んー! ほんとだ! ころもがザクザクで香ばしい!」


 まずは食感の先制パンチを食らった。


「ポテサラはクリーミーで、巻いた豚バラはカリっとしてて……ポテサラにしっかりマヨとコショウで味がついてるから、ソースなしでもぜんぜんいけるよ!」

「そうねそうね」

「あっ、そうだ」


 あっという間に半分ほど食べてしまったところで、あわてて電気ケトルでお湯を沸かす。今日ほどこの文明の利器に感謝したことはない。

 お湯を入れて3分。カップそばの出来上がりだ。

 コロッケをひとかじり。

 つづけてそばつゆをすする。


「んんー! ジャガイモとしょうゆの風味が絶妙にマッチしてる! もともところもが天ぷらだし、合わないはずないよね! コロッケがまた口の中でよみがえるみたい。ああ……しみわたる……」


 夢中でそばをたぐり、コロッケをさらにひとかじり。ひとつしかないのがすごく悔やまれる。2、3個はいきたいところだ。

 お酒を飲むのも忘れて、いつの間にかぼくはコロッケそばを堪能し尽くしていた。


「ふう……ごちそうさま」

「よか食べっぷりやったねえ。今のあんた、活き活きしとうよ」

「そ、そうかな」

「というか」

「というか?」

「なんか、かわいらしか」


 それは、思ってもみない言葉だった。 


「か、かわいい……ぼくが……」

「ごめんね、母ちゃん変なこと言って」

「ううん、うれしいよ。ありがとう、母ちゃん」

「またあんたに、こうして料理を教えられる日が来るなんてねえ」

「母ちゃん……あのときは……」


 あのとき、とつぜん、母から料理を教わるのを拒絶したことが、のどに刺さった小骨みたいにずっと引っかかっていた。


「よかとよ。人はそうやって成長していくものやけん。一歩一歩、あんたの歩幅で進んでいきんしゃい。こうして立派に育ったあんたを見られただけで、母ちゃんは……」


 心なしか、母の姿がだんだんと薄れていき――

 やがて完全に――


「消え……たりはしないのね」

「そうみたいやね」

「なんか、感動のお別れみたいな雰囲気だったけど」

「まだまだ。母ちゃんのレシピは山のごとあるばい」

「勘弁して!」


 言いながらも、内心、次のレシピを期待している自分がいる。

 こんど、かわいいエプロンでも買ってこようか。

 母の成仏は、もう少し先になりそうだ。


―終―

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おとこのこキッチン いつかわカケル @itsukawa_kakeru

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