私の小説が読まれた!

ふさふさしっぽ

本文

 私は工藤あかり。深夜アニメの主要キャラである青年魔導師をこよなく愛する二十八歳の女だ。ちなみに三次元の彼氏なし、貯金もなしだ。お給料は青年魔導師の「推し活」にすべてつぎ込んでいる。


 二か月ほど前からパソコンでせっせと小説を書きはじめ、Web小説投稿サイトにアップしているのだけれど、当初全く読まれなかった私の作品が、ついに読まれるようになった! 私はパソコンの前でガッツポーズした。


 小説の内容を、いつもと違った趣向にしたからかもしれない。


 私は今まで、二段ベッドから転がり落ちた拍子に異世界転生した平凡な女子高生と、六人の兄弟たちから魔力がない、という理由で虐げられている第四王子の甘く切ないラブロマンス長編小説を執筆していた。

 きっと出版社から声がかかり、プロデビューすると思っていたので、サインの練習もしたし、単行本の作者紹介に載せる写真も撮った。

 アニメ化を見越して、登場キャラクターの声優一覧表まで作った。声優さんも忙しいだろうから、各キャラ第三希望まで書いた。OPテーマとEDテーマの作詞もした。


 でも全く読まれなかった。タイトルが「二段ベッドから転がり落ちたその先は兄弟にいじめられて心を閉ざしたイケメン第四王子の腕の中でした。二人は見つめ合い、そして運命の歯車は回り出す――」だったからだろうか。どう考えても完璧なタイトルだと思うけど。


 とにかくその全く読まれない小説の更新を一旦やめて、飼い猫二匹をモデルにしたコメディ調短編小説を書いたのだ。ちょうど投稿サイトで期間限定の企画が立ち上がっていて、それに参加した形だ。

 参加賞が欲しくて、何気なく書いた。


 そうしたら読んでもらえたー! 嬉しいーー!!


「あんたたちのおかげだよ、ココア、マシュ―」


「にゃあーん」


 すぐ横で、黒猫が私に頬ずりする。黒猫のココアはいつも私の肩に乗って、一緒にパソコンを見てる。画面の内容なんて理解してないと思うけど、一緒に作業してるみたいでなんか嬉しい。


 白猫のマシュー……マシュマロは、ベッドの上で寝てる。だけどきっと「フリ」だろう。耳が動いているから。甘えん坊のココアに比べると、クールでそっけないけど「ちゅるる」に目がないんだよね。


「よし、私ってば、シリアスラブロマンスよりも、コメディのほうが向いてるみたい」


 私は一人暮らしなのをいいことに、大きな声で独り言を言った。


「路線変更だ。異世界転生した平凡な女子高生と、薄幸な第四王子がお笑いコンビを組んで、魔法じゃなく、お笑いで国を発展させ、国を救う……これで行こう!」


 ピピピッと来た。第六感ってやつだ。これで100万部突破、アニメ化間違いなし!


 私は再びパソコンに向かった。


 


 

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