久しぶりに会った幼馴染は――多分このままではヤバイ。

くすのきさくら

知らないにも限度があると思うのだが――。

こう君。娘を助けてー」

「……はい?」


俺のスマホにそんな電話がかかってきたのは数分ほど前の事だった。電話の主は、俺の家のお隣さん。デカい豪邸に住んでいる。幼馴染の母親だ。

ってか。電話とはいえ久しぶり話したのだが――まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、俺はとりあえずお隣へと急いで向かったところだ。


現在は3月。高校の卒業式も終えて数日後には大学生。一人暮らしとなる俺は、実家で準備中だったのだが。そんな時に先ほどの電話がかかってきたのだった。


ちなみにだが。先ほど話すのが久しぶりと俺が言ったのは、幼馴染の母親だけ仕事の都合でここ数年海外に住んでいたからだ。まあとりあえず電話があったのでお隣へと行ってみると。


「あっ、昂くんじゃん。どうしたの?」

「……あれ?」


先ほど母親が言っていた娘に普通に出迎えられた。

顔立ちが綺麗で、とてもバランスの良い身体。腰まで伸びたブラウン系の髪を揺らしつつ。数週間ぶり……かな?に見た幼馴染は、今日もいつも通り美少女だった――ちょっと引っかかることはあったが……。


そうそう、彼女は櫛田くしだ来未くみ俺と同級生だ。中学、高校と学校が違ったので最近は登校時にちょっと会うくらいだったが。お隣同士なので、今も繋がりがあった。


ってか……再度あれ?と俺が思っていると。


――バタバタ。


奥の廊下から足音がしてきて――って走って来てる走って来てる。数年ぶりに見るこちらも美人。モデルかよ。ってくらい美人の母親が俺のところへと走って来て。


「昂君!!私の知らない間に娘がお馬鹿になってた!」

「はい?」

「ちょ。ママいきなり昂くんに何言うの!?」


娘が馬鹿になったといきなり言い出した母親に対して、当たり前だが。来未が文句を言っていた。って何がどうなった?と俺は思いつつ。


「えっと――何があったのでしょうか?」

「それがね――ってこんな所で話してもだから。昂君中入って」

「あー、はい」


俺は言われるがまま、広い廊下を進み。応接間へと案内された。ここに入るのは、数年ぶりか。相変わらずすごい家だな。と俺が思っていると。


「聞いて昂君!」

「……はい」


何だろう。来未の母親がめっちゃ慌てているというか――おかしい。ちなみに、来未は――はてなマークを頭の上に浮かべている状態だった。


「昂君。私が海外言っていたのは知ってるわよね?」

「知ってます。はい」

「数年留守にしてたよね?」

「確か。小学校の4年くらいの時に、でしたっけ?」

「そうそう。でね。最近久しぶりに帰ってきたの。ほら。来未も来月から大学生だから」

「なるほど」

「そしたらよ!あの人」

「あの人?」

「馬鹿夫よ」

「—―あ。はい」


うん。来未の父親ね。知ってますよ。とっても優しいお父さんですね。と俺が思い出していると――って何ぜ馬鹿夫?と思っていると。


「あの人。私が居なくなってから、来未の事を箱入り娘か!っていうくらい甘やかして」

「……」


そういえば、詳しくは知らないが――来未は中学、高校と毎日父親が送迎をしてくれているとか言っていたか。あと――なんでも父親がしてくれると言っていたな。と、前に来未と話したことを思い出していると。


「この子。本当に箱入り娘になっちゃってたの!」

「はい?」

「なってないから!」


本人の前で普通に言う母親。もちろん来未が言い返していたが。


「じゃあ来未。中学のお友達紹介して?高校のお友達は?」

「—―」

「お手伝いさんに助けてもらわないで家事。掃除、洗濯、料理できる?」

「—―」

「高校卒業してから家の外に出たのは?」

「—―」


怒涛の母親からの質問に全く答えられない来未だった。

見ていた俺は「えっ?」だったが。ってかはじめの方の質問。来未って、小学校の時は万人受けというか。普通にみんなと仲良く遊んでいたはずだが――あー、でも来未は中学から学校が違ったので、その後はどのような生活をしていたかは、俺は知らないのだが。

でも俺のイメージでは、まあ普通の子。と思っていた。それに最近でも、たまに話すが、特に変わったところあったっけ?と、俺が思っている間も――母親の質問はまだ続いていた。


「来未。そもそも来月から大学に通うって言っていたけど1人で電車乗れるの?」

「—―」

「……マジっすか?」


さすがに俺も口を挟んだ。先ほどから何一つ来未は反論せず――何故かこちらを見つつ苦笑いをしていた。そこで俺は、先ほどから気になっていた事を聞いてみた。


「あの来未?」

「何?」

「いや――もしだよ」

「うん」

「今から買い物行こうか?って言ったら――その服で出かけるとかないよね?」

「えっ?なんで?」

「「—―」」


来未の返事を聞いて固まる俺と来未の母親。そして、2人でアイコンタクト。数年ぶりだが。意思疎通は多分完璧。そして――。


「「そのハリネズミのTシャツだけで外で歩くつもりか!?(なの!?)」」

「—―ひっ!」


俺と来未の母親は同時にそんなことを言った。

いや、来未は美少女だよ。でもね。今の服装がおかしいんだよ。着ているのは大きめのハリネズミがプリントされているTシャツのみだ。

いや、まさかだが……超部屋着。みたいな感じで外を出歩くのかと思っていたが。ってか、今までは普通じゃなかったか?と俺は記憶を思い出して見ると――。


「—―あー、そういや、最近は制服姿でしか会ったことないか。休みの日とか別に会うことなかったし」


すぐに最近の来未の姿は知らなかったと。俺が1人で納得していると――。


「この子。私が居なくなった後。あの人にかわいい物しかねだらなかったみたいで。そしたらあの馬鹿夫も、来未が欲しがるものしか与えてなかったみたいで。学校はお手伝いさんが制服を着せてくれていたからよかったみたいだけど。いろいろとゾッとしたわ」


頭を抱えつつ来未の母親が言った。すると来未が俺に近寄って来て――。


「えっと、昂くん。私おかしい?」

「うん」

「なっ!?」


俺が即答すると。来未は驚いた表情をしていた。


「だから私が言ったのに――ってことで、昂君」

「はい?」

「ちょっと助けてあげて」

「どのように?」

「とにかく大学に行けるように電車だけでもとりあえず乗れるようになってきて!後は――考えとくから」

「まさかの高校生に電車の乗り方を教えるとは」

「ちょ、乗れるよ?乗れるから。電話したら乗れるんでしょ?」

「「……」」


あー、これはもしかして、タクシー?いや、父親のお迎えの事かな?と俺が思っていると。


「昂君」

「はい」

「ホントごめん。手遅れかもしれないけど」

「ちなみに、来未の父親は?」

「部屋で括り付けてあるわ」

「……聞かなかったことにします」

「来未。とにかく。私がさっき渡した服に着替えて、自分がいかにお馬鹿か実感してきなさい」


そんなことがあって、数十分後。まともな服装になった来未は、俺とともに最寄りの駅へと来ていた――のだが。


……超大変だった。今の来未は見るものが全て初めてらしく。

いやいや、来未の父よ。何をどうしたらこんな高校生が?ってそういえば、来未が着替えている間に聞いたのだが。

部活動や学校行事は危険とかで参加させていなかったとか。ホント最低限の人としか接してなかったらしく。自分の身の回りの事すら怪しいと。もう頭が――だった。

その後も――お金はわかるだろう。と俺は思っていたが。


「久しぶりにお金触ったよ」


みたいな事を聞いた時には――ひやひやだった。まあこの様子から容易に予想できたと思うが。来未は券売機の使い方がわからないから始まり――切符を買っても改札が通過できず。電車の乗り方は――まあ来た電車に乗るだけだが。このあたりの電車は乗る際にドアを開けるためのボタンを押す必要があるのだが。やはり、乗り方を知らない来未。固まったままだった。


本当はもっと細かく。いろいろ俺が言っていたのだが。それを全て言いだすと大変なことになるので、とりあえずざっくりまとめると。


来未は1人では公共交通機関は乗れない。ってか、もうまじか!?という事ばかりで笑うしかなかった俺だった。


ちなみに帰る際に復習ということで来未に1人でやらせてみたら。


「えっと――どうするんだっけ?」

「—―記憶力がポンコツだと!?」


笑う。というより呆れた。だったか。結局。帰りも俺がサポート必須となっていた。忘れるのが早い。本人は「初めてだと覚えられないよ」みたいなことを言っていたが。いやいやである。


短時間だったのだが。俺がどっと疲れて櫛田家に戻って来ると。


「どうだった?」


心配そうに来未の母親がすぐに聞いてきたので。


「1人で電車移動はマジでやめてください」

「ちょ、昂くん酷すぎない?」

「以上です」

「無視された!?」


来未が何か言っていたが。スルーである。


「はぁー。何でこんなことに。ってか、来未。お手伝いさんに聞いたけど。少し前まで下着すらちゃんとしてなかったの!?」

「ふぎゃあああああ」

「—―帰ろうかな」


幼馴染の来未は気が付いたらポンコツ箱入り娘になっていました。ということで俺は、ちょっとだけ関わったが。この後は家族で何とかするだろうと思いつつ。退散しようとしたら。


「そうそう。昂君」

「はい?」

「さっき昂君のお母さんから聞いたんだけど、4月から昂君もあの島にある大学行くんですって?」

「えっ?」

「実は来未もなのよ」

「うん?」


俺は来未の方を見る。来未は「そうなの?」という顔で俺を見ていた。あれ?これはもしかして……俺ヤバイ?と思っていると。


「だから、昂君。4月から来未の子守してあげて!むしろ一緒に住んであげて。昂君ところの許可は取ったから」

「「はい!?!?」」


突然何かが動き始めた。これは始まりまでのお話。この後とってもとっても大変な俺、漕代こいしろこうの大学生活が始まったのだが――それは別の話。


まあ今は――笑っておこう。


「はははー」

「昂くんが……壊れた?」

「来未が原因よ。はぁー」

「えっ!?そうなの?」

「「そうだよ!?」」



(おわり)

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久しぶりに会った幼馴染は――多分このままではヤバイ。 くすのきさくら @yu24meteora

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