君が笑ってくれるなら 【KAC2022】-④
久浩香
君が笑ってくれるなら
忠臣達は、もちろんこれを諫めたが、ついに、いかにも見せしめと言わんばかりの理由で、
しかし、宣王が
彼女が後宮に入った頃、彼は
それというのも、宣王が女色に溺れるようになった頃、巷には『月将昇、日将没、桑弓箕袋、几亡周国』という童謡が流行り、それは、女によって国が亡ぶ事を示唆した歌だったからだ。
宣王も、それは自分の事を謡っている歌だと考えていたのだろう。山桑の弓や萁の矢筒を売っている者達を捕らえては処刑させた。
その宣王が、本当に亡霊の手にかかった、とは言わないが、少なくとも矢によって殺害されたのだ。これで、予言めいた童謡は成就し、厄災は去ったと思ったのだ。
その間、彼の后と息子は、王太子の城に留め置かれていた。王の後宮には、宣王の愛妾達が占拠していたからだ。前王の手のついた女達である。そんな場所に愛しい妻と息子を不用意に移せば、義母の風を吹かせ、どんな仕打ちをするか解ったものではなかった。
しかし、彼女達を粗略には扱えない。彼女達も、それが解っているので、これまで通りの暮らしを謳歌していた。
つまり、出家を促しても愚図る愛妾に向かって、
「国を亡ぼす“月”は其方であったか?」
と、幽閉を言い渡した。
彼女達に仕えていた者や、愛妾となるために連れて来られた女達だけになると、数こそ多いが、処理は速やかになった。
出家に付き添わす者、国へ帰す者、臣下に下賜する者、このまま後宮に留まらせ、后に誠心誠意仕えさせる者と、身の振り方を振り分ける最中、外の空気を吸いに外廊に出た彼は、重々しい曇天の薄暗い中庭にて、そこにだけ月明かりが差しているかの様に浮かび上がる、白梅の化身の如き
「あ…っ」
破瓜の痛みに、声を漏らしはしたものの、彼女の体は冷たいままであった。
だから、
(自分は父とは違う。后を愛しているのだ。この女を抱くのは、今だけだ)
と、自分に言い聞かせながら、
(何という事だ。私は
体が馴染んでくれば、
「ん…」
と、息をつめ、
「は…ぁ…」
と、しどけない声を漏らす。眉間に皺を寄せ、涙で滲んで潤む瞳に、欲情をかきたてられ、痛くしてやれば、哀れめいた高い声を響かせ、なんとも辛そうに喘いで絶頂を迎える。
だが、それだけであった。終わってしまえば、空虚が残った。
彼女のあまりに美しすぎる顔の虜になるあまり、それまで気が付かなかったが、
(あれほどに美しい顔だ。笑った顔は、どれほど素晴らしいのだろう)
それからというもの、
その第一歩として、
女として、最高の栄誉を与えたのだ。
(これで喜ばぬ筈が無い)
という
ある時、余興として、酒を運んできた侍女の一人を、
その夜、いつもなら、いたす前には彫像のように冷たい
「何事か!」
と、狼煙台へ向かうも、それは間違いであった。
そんな事を露知らぬ諸侯は、次々と軍兵を率いて都へと馳せ参じてくる。
「フッ」
と笑い声を零した。一度、零れてしまうと、それを抑えられなくなったようで、
「フフフッ、ホホッ、」
と、唇に指先を添えて、
「!?」
「可笑しゅうございますね。
その香りが強く漂い、わざわざ嗅がなくとも、
「可笑しいといえば、どうしたものか…私、体が火照ってしまって…」
そう言って、
顔が上気しているのは、当たり前だ。彼女の体からは、じっとりと靄がかったようになっていて、はだけた胸元まで淡いピンクに色づいていた。
「アアアッ!!」
どんな淫売でも、これほどあられもなく乱れはしないだろう、と思わせる程に、彼女はあえかな体を揺らし、
しかし、それは1日だけの事だった。
翌日にはもう、
同じ
だが、もう最初の時のように、諸侯と会おうともせず、
二人のあげる嬌声は、諸侯の耳にも届き、彼等の憤懣がまた、
さて、廃された
紀元前771年。
★☆★
「ねぇ。『“お笑い”の文章を書いた』って言ったよね?」
1DKの浩香の部屋を訪ねて来た彼女の姉は、彼女が、彼女自身を知る人間の中で、自分の妄想を話せる、唯一の人間だ。
その姉に、浩香は、“KAC2022”用に書いた文章を読ませたのだ。
「うん。そだよ」
と、突貫工事の妄想を繋げたにも関わらず、どうにか期限内に書き終える事ができた喜びに、嬉しそうなドヤ顔で、座ったまま腕を突き上げ、さながら阿波踊りのように手を動かしながら肯定する浩香に、姉は深い溜め息をついた後、
「これの、どこが、“お笑い”だっつーの?」
と、ヒステリックをギリギリ押さえられたかどうかは微妙な声で、冷ややかな目を向けて言い放つ。
浩香は、キョトンとしながら、踊る手を止めて首を傾け、
「だってぇ。
と答えた。
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