センターマイク
杜侍音
センターマイク
お前と俺で天下を取ってやろうぜ、って誓い合ったあの日から。
冬のクソ寒い公園で、二つ重ねたコーヒーの空き缶をセンターマイクに見立てて、何度も何度もネタ合わせしたよな。
俺がボケ。お前がツッコミ。
高校生の時から変わらんこのノリを文化祭で披露して、学校中を爆笑の渦に巻き込んでやったこと覚えてるか?
そっから俺たちは日本一の芸人を本気で目指すようになったんや。
大学なんて行っとる暇ない! とか親に刃向かっていたのに、お前は
「いや、大学は出といた方がええやろ。それもなるべく高学歴の方がええ。東大京大、早慶とか。なんならMITとかならそれだけで話題作りになる」
つって、阪大に一発合格しとった。
いや、そこに行くんかい。十分凄いけどな。
ちなみに俺は浪人したけど、結局ズルズルいって大学受験はせんかった。ほら、俺アホやから。
え? 知ってた? はっ倒すぞお前笑
んで、高校卒業して一年経って、俺らは正式にコンビを組んだ。
コンビ名は『シンジンルドルフ』
父親の影響で競馬好きだった俺が何個か競走馬名を出したら、シンボリルドルフいう馬の名前をもじった上で採用された。
別名〝皇帝〟と呼ばれることから俺らもお笑い界の皇帝になるんやと意気込むのと同時に、新人の気持ちをずっと忘れずにハングリー精神で生きていくと決めて名付けられた。今の新人芸人は謙虚さも大事らしいしな。
それと、名前に〝し〟とか〝ん〟が付いてると売れる都市伝説もあるんやって、知らんけど。
芸人になるんやったらやっぱ吉本やろ! 言うてNSCに入って、色々としごかれながらも芸人にはなれた。
──なれただけやった。
あん時はまだプロとは言われへんし、ましてや芸人とも名乗れるほど自信もなかった。
けどな、お前が作ってくれるネタは世界一面白いのは間違いない。んで、宇宙一オモロい俺とお前なら売れるのも時間の問題なのは分かってた。
劇場には数人のオッサンがネカフェ代わりに来とるだけやけど、俺らに目線を向けたやつらはみんな笑っとったの知ってるか? そう、あとは注目を集めるだけやった。
そして、バイト生活三昧から七年。
ようやっと大阪のテレビでネタを披露できるようになって、売れっ子の先輩やテレビ局の人に気に入られるようになって、少しずつ露出も増えてきた。
と同時に肌の露出も増えてきたけどな笑 なんや、裸ローションでマラソンて笑 地獄絵図か笑
ネット記事でもネクストブレイク芸人! つって特集されて、これからー! 言う大事な時に、ほんま──ドッキリか? これは。
いやー、俺アホやから分からん。なんてリアクションしたらいいか分からんわ。芸人失格かこれ笑
今でも何年もかけた壮大なドッキリやと思ってんぞ。
今さら流行らんぞ、相方死んだドッキリは。
……なぁ、ほんまボケ……。
俺がボケやぞ! なんやツッコミ飽きたんか‼︎
お前がいなくなって、マイクは俺一人で独占するようになった。ワンマンオンステージってわけや笑
まぁまぁオモロい俺やけど、やっぱお前のネタやないと敵わんわ。なんも受けへん。
せっかくバイト辞めた言うのに、また帰ってきてしもうたわこの生活。今、子供部屋おじさんになりつつあるがな。
部屋には幼稚園児が作ったんかいう、色物の小道具や衣装の数々。けど、変なことしたからといって笑われるわけないねんな。嘲笑言うやつならあったけど、欲しいのはそれちゃう。
あん時お前と感じた爆笑タイフーンの目になりたいんや。お前も言ってたやろ?
「お客さんがみんな笑っとってうるさいはずやのに、お前と漫才やってる時はなんか静かなんだよな。集中してるんか緊張してるんかは分からんけど。とにかく落ち着いてネタができるんよ」
大好きな酒飲みながらそう語っとったよな? え? 覚えてない? なんや、酔ったらもう一回同じこと言うやろうから、石頭なお前に酒ぶっかけてやるわ。
今度は証拠として動画に収めといたる。
そや、YouTubeでも始めようか。いや待て、俺アホやからパソコンの使い方分からへんわ。代わりにお前やってくれよ。
──何笑っとうねん。バカにしとるんか。
関西人はアホ言われるのええけど、バカって言われると腹立つねんぞ!
ほんま……バカ野郎やな。子供助けるために道路飛び込んだ?
ったく、その子供は膝から血流してワンワン泣いてたってよ。笑かすのが俺らの仕事やってんのに。
なぁ……だから笑うなや。写真の中だけで笑っても意味ないやろ。イェーイちゃうわ! しょうもないダジャレ言うなや!
……って、ほんま俺がツッコんでどないすんねん。
はよ戻ってこい。
このセンターマイクは俺とお前で挟んで使うものや。真ん中にあるからセンターマイク言うんや。そんなのも知らんのか。
ほんま、お前はアホやな。
もうええわ笑
センターマイク 杜侍音 @nekousagi
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