イカサマ

第1話

「じゃあ、」

俺はそういって、友人の差し出した二枚のトランプの上で手を彷徨わせる。

大きく深呼吸して、精神集中。

そして、

「ひらめいた!こっち!」

俺はそう叫んで左側のトランプを引き抜いた。

「おいおい、またかよ」

友人はそう言って俺がカードを確認する前に自分の手元に残ったカードを放り出した。

そいつが持っていたカードに描かれているのは、こちらをあざ笑うかのようなピエロ。

ジョーカー、つまり、ババ、だ。

俺の方はと言えば、綺麗にそろったハートとダイヤのエースを捨て札の山へ置いた。

「すっごいね、百発百中じゃん」

俺らの勝負を見ていた他のメンツがそういって俺をほめる。

学校の昼休み、教室にたまたま残っていたクラスメイトでババ抜きをしていた。

何ゲームかやって、今みたいなシチュエーションにも何度かなって、その都度勝ってきた。

「こいつさー、ババ抜きだけじゃないんだよ。ポーカーだって、大富豪だって負けなし」

「マジか」

外から戻ってきた連中まで寄ってくる。

昼休みの終わりの時間が近いせいか教室の中の人口密度が徐々に上がってきた。

以前に同じように俺とゲームをしたやつもいる。

「トランプだけじゃないだろ。花札だって麻雀だって負けたことないじゃん」

「まあね」

俺はちょっと得意そうに笑って見せた。

「イカサマ?」

誰かの言葉に、一瞬、場が凍り付いた。

声の主は、人の輪からちょっと遠い所に居た、頭良い系クラスメイトのメガネ君。

俺はすっと立ち上がって、人の輪を掻き分けてそいつの目の前に立った。

他のクラスメイト達のあからさまな「ヤバい」という空気の中、俺は逆ににっと笑ってやった。

「そんなみみっちいことするかよ」

そういってメガネ君の首に後ろから腕を回す。

「ちょーっとばかりカンが良いのさ。それだけ」

メガネ君のうしろからひらひらと手を振りながら言うと、ええー、と言ってみんなが笑う。

とりあえず、雰囲気を和やかにするのは成功したようで、俺は内心ほっとした。

(まぁ、イカサマと言えば、イカサマ、なんだけどな)

俺は、眼鏡君の顔の、奥の顔を見た。

優しそうな女性がそこにはいる。

ちょっと困ったような笑顔をして、俺に口パクでありがとう、といった。

そんな彼女の姿は半透明で、向こうが透けて見えている。

そう、つまり。

俺には、この世でないものが見える。

守護霊とか、指導霊とか、地縛霊とか、浮遊霊とか、言い方はいろいろあるだろう。

それのどれにあてはまるとか、そういう難しいことは、俺は知らない。

けれど、とにかく、どうやら他の人間には見えていないものが見えているようなのだ。

それを通じて、一緒にゲームに興じている奴らの手を知ることが出来る。

だから、勝てる、って寸法だ。

これも俺の能力だと思えば、能力を生かして勝ってるわけだから、いいだろう。

俺が心の中で呟いた瞬間、メガネ君が意味ありげにため息をついた。

「なら、僕が君の『イカサマ』に気づいたのも、能力を生かしてのことだから、いいよね?」

俺の腕の下、眼鏡の奥の瞳が怪しく光った。


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イカサマ @reimitsuki

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