店を立て直してくれ!ってまだ一番弟子でしかない僕に何ができるんですか⁉︎
ゴローさん
すまない!お前だけが頼りなんだ!あとは任せた!
俺、
そんな、適当に決まった今の職場だが、決して嫌いなわけではない。味もそこそこいいし、スタッフのみんなもあたたかい。大将は職人気質で、何か作り始めると、集中して周りの音が聞こえなくなるのか、話しかけても言葉が返ってこない。自分からも話しかけてくることはないので、基本的に無口だが、スタッフのことを大事に扱ってくれるいい人だ。
しかし、そんな『華神楽道』も今、閉店の危機に瀕していた。
店は、大阪の繁華街から少し外れたところにあって、人通りもまばらだ。また、大将をはじめ、スタッフがみんな揃って、SNSをしていないので、常連客以外の客があまりいないのだ。
そんな現状を打開するべく、大将は来る日も来る日も新作メニューを考え続けていた。たまに、メニュー入りするものも作った。でも、客足はあまり変わらなかった。
そして、そのタイミングで、大将の口数が少ないことに気づき、異変を察知するべきだった。しかし、いつも口数が少ない大将の異変に気づいたスタッフは一人もいなかった。
ある日、僕が朝、店に訪れたら、大将が厨房で倒れていた。急いで救急車を呼んだ。結局、倒れていたのは、眩暈がして倒れただけだったらしい。
ちなみに眩暈がしたのは、自律神経失調症という病気で過度のストレスが原因らしい。きっとメニューを考案しても考案しても売れ行きが改善しないことに責任を感じていたのだろう。
そんなこんなで医者の説明を受けた僕は、今大将が寝ている病室のベッドのそばに座っていた。医者の方は一日あたり二時間くらいしか寝ていなかったんじゃないかと言っていたから、相当な寝不足でもあったんだろう。
そう考えていると、ベッドの上の大将が目を覚ました。そして
「ここは、、、、、、どこじゃ?」
「あ!大将!目を覚ましたんですね!よかったです!ここは病院ですよ!」
「、、、そうか。でもこうしてはおれん!新メニューの開発の続きをしなくては!」
そう言って、起き上がろうとする大将を必死に押さえつける。今度無理すると意識不明になる可能性だってあるのだ。
「大将!もうやめてください!新メニューができる前に大将の体が壊れちゃいます!」
「しかし!この2代前から続いているこの店を、ワシの代で終わらせるわけにはいかんのじゃ!」
普段は口数の少ない店長が必死にまくしたてる。それだけ追い詰められているのだろう。
そんな店長に向かって、俺は冷静に口を開く。
「少し厳しいことを言いますが、、、その状態でいいアイデアが出るわけがありません。追い詰められた時ほど人は自分の真価を発揮する、なんていいますけどその大将の状態では無理です!」
「な、な、なんでそんなことを言うのじゃ!人が一生懸命になっているときに!証拠はあるんか?」
「はい。だって今、食べ物がのどを通っていないですよね?そんな状態で味見ができるわけがないでしょう?」
「ッ⁉なんでそれを⁉」
「自律神経失調症の基本的な症状の一つです。味見ができないのにメニューに出すのはお客さんに対しても失礼でしょう?」
「、、、そうだな。有田くん。君の言う通りだ。さっきはかっとなってしまって申し訳なかった。許してくれ。」
「いえ。僕も言いすぎました。すいません。 ということで、メニュー開発はいったん中止して店を存続させるように頑張りましょう!」
そうして、話が終わった。いや、俺が終わらせようとした。早く大将に休んでほしかったのだ
しかし、
「だけどな!新メニューは存続に必要なんだ。だからすまない!お前だけが頼りなんだ!あとは任せた!」
―――エーーーーッ⁉まだ一番弟子でしかない僕に何ができるんですか⁉︎
◇◇◇
店に帰って厨房にあった食べ物を並べてみる。
牛肉や豚肉などの肉。海鮮類。ラーメンの麺。シュウマイや小籠包の皮。メンマなど普通のものから始まり、ツバメの巣や、ふかひれまで、貴重なものがそろっている。
ただし、そこから新メニューを考えるのは、あまりにも難しかった。
そうこうしているうちに夜の10時を回ってた。
「もう帰るか。」
そう呟いて店を後にした。
◇◇◇
翌日。
店を他の人に任せて、俺は厨房の奥で新メニューを試していた。
今試してるのは、エビを甘い味付けで炒めるエビチリならぬ、『エビスイート』たるものを作ったのだが、、、
「、、、、、、不味いな、普通に。」
甘ったるい味になってしまい、一口で食べる気が失せた。これなら、まだドラ◯もんのジ○イアンのカレーの方が、まだマシかもしれない。
「みりんの量を少なくしようかな、、、」
そう言って、何度か作り直したが、新メニューになるほど美味しくなることはなかった。
◇◇◇
そうして何日も何日も新メニューを考え続けて、作り続けた。
汁なしラーメン、皮を生春巻の皮にした手巻き生小籠包。考えた時は名案だと思ったが、作ってみると酷かった。
汁なしラーメンは、麺が伸び伸びで食べる気が起こらない。
手巻き生小籠包は、冷めている上に、中の肉汁が包む際に漏れて、ただのシュウマイになってしまう。
そんな感じだった。
そうして気づけば一週間が経っていた。
◇◇◇
「大将。申し訳ないですが、新メニューはまるで思いつきません。」
今日は大将のお見舞いに来ていた。
そして新メニュー開発があまりうまく行ってないことを告げると、大将は苦々しく笑いながら、一言
「もう、、、店を畳む覚悟をした方がいいかもな。」
と、ポツリと口にした。
その顔にあまりにも悲しい表情が表れていて、いたたまれなくなった。
そのタイミングで突然、
「こんにちは!銅だこです!出前を持ってきました!」
「あー。ありがとう。そこに置いておいてくれ。」
「はい!かしこまりました!失礼します。」
そう言って急に現れた男性は、去っていった。
「まあ、あれだ。有田くんも疲れたじゃろう。たこ焼きを出前で取っておいたから、これを食べてリフレッシュしてくれ。」
「はい。ではお言葉に甘えて、、、」
そう言って、一口食べる。うまい。たこがあったかくて、ソースと合っていて、本当にうまい。
「美味しそうに食べるのぅ。その感じじゃ、自分で作った試作品しか食べてなかったんじゃないのか?」
「アハハ。バレましたか。そうなんですよ、、、」
美味しくないやつも、材料を無駄にしないように全部食べたからな。たこ焼きは久しぶりに中華以外で食べたものってことになるんだよな。って、たこ焼き?中華?試作品?
「アッ!」
「どうした⁉︎」
「試作品思いつきました!ちょっと作ってきます!」
そう言って、俺は『
◇◇◇
並べた材料は、イカ、ホタテ、あんかけ、焼売の皮。これだけで、今、俺は中華風たこ焼きを作ろうとしている。
とりあえずイカやホタテを細かく刻んで、火を通す。
それに調味料で味を整え、餡にあたるものを作る。
それを今度は焼売の皮で包み、今度はフライパンの蓋を閉めて蒸し焼きにする。
それにあんかけをソースに見立ててかけると、、、
「できた!」
とても美味しそうな香りの中華風たこ焼きができた。
早速、それを一口食べると、、、
「美味しい!ただ、もっとカリッとした方がいい気がするんだよな、、、」
そう思いつくとまだ餡をかけていない焼売を素揚げする。
表面をカリッとさせると、、、
「うん!完璧だ!これは売れるぞ!」
そう言って、和彦はほっとしたようにコンロの火を消した。
あとは、、、みんなに食べてもらうだけだ。
◇◇◇
翌日
テーブル、コンロ、フライパン、鍋、そして中華風たこ焼きの材料を、店の外に出す。
そして店の外で中華風たこ焼きを作り始めた。
しばらくすると、匂いに釣られて、繁華街の方から人がたくさんやってきた。
「おい!青年何を作っているんだい?」
「はい!今、
「ほう、わかった。それじゃ一つくれるかな?」
「はい!承りました。」
そうして、初めて客に渡した。
絶対にうまい。昨日自分で食べて、確認しているんだから。
それでも、お客さんの口に合わないのではないか、と一抹の不安を覚える。
そしてそれが、
「う、うまいな!これ、あと2個くれ!」
、、、当たることはなかった。
「はいっ」
◇◇◇
「販売初日が終わって、、、150個もの売り上げを記録しました!」
こんなに売れるとは思わなかったが、店頭販売にしたことによって、匂いで人を釣ることに成功したようだ。
そして、今、病院の大将に今日の売り上げを報告しに行ったのだ。
「本当か⁉︎」
「はい」
「そうか、、、!」
喜びを噛み締めるようにそう呟いた大将。
「本当にありがとう。君には感謝してもしきれない。」
「とんでもないです。」
俺は大将に微笑みかける。
そして突然、
「そういえば、有田くん。君は、自分の店を持ちたいって言っていたよね?」
「はい。」
「どうだろう?ここの店をついでくれないだろうか?」
以前の和彦なら、そんな責任の重いことを継ぐなんて言わなかっただろう。でも、今回の新メニュー開発で少し自分に自信が持てた。
だから、、、
「はい!任せてください!」
和彦は頼もしそうに笑った。
店を立て直してくれ!ってまだ一番弟子でしかない僕に何ができるんですか⁉︎ ゴローさん @unberagorou
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