第14話 月白

 月の色がどんどん白くになるにつれ、心は寂しくなっていく。


 月は黄色だと教わったのに、目の前にある月は冷たい色をしていた。


 闇の中に穴を開けるかのように輪郭のはっきりとした月は欠けていなかった。


 微動だにしない光は真っ直ぐ私の心を貫いた。


 全てを見透かすように。


 というより心を奪い去るかのように。


 空っぽになってしまった胸に手を当ててみれば、それはもう何も共鳴しない。


 私の手には無限の力があると思っていた。


 せめて自分の胸に手を当てれば、何を感じているかくらい分かると思っていた。


 慰める事も癒す事もできると思っていた。


 でも心がなくなってしまえば、もはや手は要らなかった。


 空に預けた心は、次の曇りなき満月に戻ってくるのだろうか。


 それとも満月の夜すら忘れて生きていくのだろうか。


 今日は取り戻せないと悟ったから、次会う時まで大事に持っていてくれないかな。


 宝を奪った相手に力で勝てないせめてもの願いを、私は涙にして伝えた。


 どうか、捨てないで欲しい。


 こんなものでも生きた証がそこには詰まっているから。


 この白さは冷たいが故と分かっていても。

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彩と世界 布袋アオイ @A_hotei

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