ジキルとハイド エンパス❗

淡雪 隆

第1話

   一 殺人症の始まり


 『ふあっ、ふあっ、ふあっ。先ずは一人目だ。この学校を瀆す奴らはみんな❗ みんな殺してやる。それが俺に与えられた天啓だ!』どうせ俺はいくら踠いても脇役で一生終わるのだ! 畜生、俺の人生は脇役さ。脇役は脇役でいい。脇役がいるから、主役がいるのさ。

 真っ暗な部屋の中で、低いだみ声で宣言する人影。もしこの部屋が明るければ、部屋の中には色々な凶器が並べられていたのが確認できたろう。   チェーンソー、ナイフ大小、刀、ノコギリ、金槌、薬物等もある。この家に棲む人間は、人を殺すことを天命と考えていた。

『人を殺すことは美しい。芸術だ。楽しい。この学校を瀆す奴らは誰でも万死に値する人間なのだ。け、け、け、け』不気味な笑い声が部屋に響き渡った。その人影は『人を殺したい。人を殺したい! 誰でもいいのだが、先ずはこの学校の生徒だ。さて、二人目はと……』と呟きながら、部屋の中をくるくると歩き回っていた。


 師走も深まり今年とも、別れを告げる時季に、この地方では珍しいほどの雪が夜中から降り始めた。深々と静かに降り続け、街はすっぽりと白化粧がなされた。その朝、街は全ての穢れを覆い隠すように一面真っ白に覆われた。それでも10cm位の積雪である。大袈裟なことはない。しかも、明け方からは空が晴れてきた。

 この街にあるD県立花町にある県立清瀬高校も例外ではなく、学校自体が白い幕に覆われたようになっていたが、ただ、今は冬休みの期間であったが、生徒用の学校B棟の側にグランドが少し盛り上がって雪が積もっている。

 冬休み中ではあるが、研究のため出勤してきた四十五歳位の細身だが筋肉質の身体をした男子高校教師がそれを見つけ、違和感を覚え近づいていった。彼は物理教師の相良教師と言うが、その雪山に手を掛け、そっと搔き出し始めると頭らしきものが見えてきた。この学校の生徒だ! 仰向けに身体が潰れているようで、頭は地だらけになっていたが、学校で見たことのある生徒だった。た、た、た、大変だ! 警察に、警察に連絡しなくっちゃ。と大慌てで、自分の懐を探りスマートフォンを取り出すと警察に連絡をした。


 早速通報により立花署から警察車両が清瀬高校のグランドに終結した。鑑識は昨夜からの積雪により死体の上の雪を全て取り除き、遺体がグランドに仰向けの姿で全容を表した。雪解けで流石に足跡等は流れてしまって、取れなかった。飛び降り自殺の場合も考え屋上にも調査に上がったが。屋上もびちゃびちゃで、何も痕跡を見つけることは出来なかった。遺体の側に立った刑事課の刑事達も第一発見者の相良教師より事情聴取を取り始めた。


   二 殺人事件


 校長、教頭、主任教師、等々。そこで伊丹係長が聞いた。

「この遺体は、この学校の生徒に間違い有りませんか?」と問うと、

「はい、うちの学生に間違い有りません。二年三組の庄司正人君です。直ぐに両親に連絡をとってきます」言いながら本校舎へと駆けていった。

「鑑識さん、頭以外に身体に損傷がありますか?」

「いいえ、他には傷はないようです」

「と言うことは、自殺かな? おーい屋上に何か痕跡はあるかー」と屋上の鑑識に向かって大声を出した。

「いえ、別に変わったところはありません!」伊丹係長は、腕を組みながら

「う~む、自殺かな?」と呟いたとき、滝山主任が、

「でも、係長自殺だったら、死体はうつ伏せになるんじゃないですかね?」

「それも、そうだな。う~む」

「それじゃあ、殺しか?」その時、生徒の庄司正人君の両親が駆け付けてきた。

「正人❗ 正人❗」大声を出しながら遺体に駆け寄り抱き付く二人が来たかと思うと、

「誰が❗ 一体誰が❗」と伊丹係長に詰め寄ってきた。

「庄司正人君のご両親ですか? どうですか正人君に間違い有りませんか?」係長が尋ねると、

「あぁ、間違い有りません。どうしてこんな!」

「どうやら、この屋上から飛び降りたみたいですね、何かご両親に心当たりはありませんか?」主任が、いかにも自殺したかのように問うと、

「いえ、自殺だと言うのですか? それでしたら全く見当がつきません」

「いじめとかで自殺する子どもも多いのですが」

「家の正人がですか? とんでもない。家の正人はやんちゃ坊主で、どちらかと言うといじめる側の生徒じゃなかったろうか。昨夜も夜七時頃出掛けてくると言って、出ていって、こんな遅くにどこに行くんだ! 怒っても、うるせいジジイ! と言って出ていったくらいですからね。もう私らの言うことは全く聞きませんくらいで」

「そうなんですか。何処に行くとは言ってなかったですか?」

「イイエ、黙って出ていきました。今朝になっても帰ってこないので、警察に届けようかと思っていた位です」

「おい、何かポケットに持っていないか?」

「イイエ、特にスマートフォンも有りません」

「ヤッパリ、殺しの線が強いか。よし課長に連絡しよう。担任の先生はいませんか?」係長が声をかけると、

「はい、私が担任の和田と言いますが」と三十歳位の黒淵メガネを掛けた太り気味の先生が答えた。

「先生には何か、思い当たることは有りませんか?」

「イイエ、別にありませんね」上目遣いで考えながら答えた。係長が被害者の両親に向かって、

「どうも殺人の可能性が強いようなので、司法解剖をして構いませんね」

「家の息子は殺されたのですか。それでは仕方有りませんね、よろしくお願いします。そして必ず犯人を捕まえてください」

「殺人の可能性が高いので、鋭意捜査に全力を尽くします」

 そして色々と捜査を行ったが、容疑者さえ浮かばない状態で、県警からも捜査一係が駆け付けたが、なかなか犯人像は浮かばないまま日にちだけがイタズラに過ぎていった。


   三 浮かばぬ容疑者


 遂に年も明け、街は正月一色気分で盛り上がっていたが、捜査は一向に進まなかった。そして冬休みも終わり、生徒が登校を始めるようになった。始業式が終わると、各学年の各クラスで担任の先生から、昨年の末起こった事件についての報告があった。生徒達みんなはテレビや新聞である程度は知っていたが、改めて先生から悲しみの報告があると、新しい悲しみが込み上げてきたようだ。二年三組の庄司正人君の机には誰が飾ったのか、花が添えられていた。先生の一同黙祷の掛け声と共にクラスのみんなは一分間の黙祷を始めた。黙祷を終えると、

「皆さん、今警察が捜査をしておりますが、早く解決できるように祈って、皆は、皆で、これからの行動に充分気を付けてください」先生からの言葉は終わった。


 立花署では、殺人事件として捜査本部が立ち上げられ、県警からの須藤管理官のもと捜査が続けられていた。しかし、目撃者なし、動機もハッキリしない。犯人の痕跡も遺留物もあの大雪のお陰で何もない。司法解剖の結果を見ても、死因は飛び降りによる頭蓋骨骨折であり、他には特に外傷もないときたもんだ。管理官は苦虫を噛み潰したような顔で、

「どうだ! 何かしら手がかりはないのか? 伊丹係長! 一番最初に現場に立ち会ったのだろ。何か意見はないのか?」

「一つだけ。何故犯人は携帯電話を持ち去ったのでしょうか? 鑑識係と一緒に広範囲に探したんですけど、見つかりませんでした。高校二年生のスマートフォンですよ。友達ぐらいしか登録はしてないと思われるのですが。


 それに自宅も捜査したのですが、正人くんの部屋には遺書もなく、パソコンも最初から持っていなかったのです。犯人に繋がるものがあるとするならば、容疑者は清瀬高校の生徒、または教師に絞られるのではないでしょうか? しかし、捜査員がいくら生徒や教師に話を聞いても怪しい人物の噂も話も出てこないんですよ」

「だったら、もっと徹底的に学校内の人物に当たりをつけろ❗ 誰も思い当たることはないと言うのか。おい、白戸係長県警の刑事でもう一度全員を当たってみろ!」全員が「はい!」と答えた。


   四 エンパス❗


 ここはまた例の暗闇の部屋で、黒いマントに通行止めなどに使われるコーンのような先のとんがった黒のマスクをつけ、目のところと鼻と口のところを少し開けた、被り物であった。

「ふあっ、ふあっ、ふあっ。次はこの前買った獲物でやってやるか。音が静と言うのは本当かな? しかし、その前に試し切りをして見るか」いつものように部屋の中をくるくると歩き回りながら、呟いた。


『ふ、ふ、ふ』不気味な含み笑いが部屋の中で響いた。私はイギリスで生まれた、ロバート・ルイス・スティーヴンソン著書の「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」を初めて知ったときから尊敬している。何度読み返したことか。あの二重人格の美しさ。素晴らしい! とずっと尊敬していた。イギリスで生まれた小説の人格が、遂に憑依したのだ❗ いや憑依ではなく、毎晩のように見る夢その夢に二人が毎日のように現れ、私と論議を交わすのだ。そうしているうちに、エンパス! 強烈な共感を感じ、憧れてしまった。普段は優しい一般市民であり、怒りを感じると、激しい性格が現れてしまう。もう私自身ではコントロールができなくなった。私はハイド氏の生まれ変わりなのだ。

『ふ、ふ、ふ』不気味に含み笑いをした。この人物の空想は止まらない。


 翌日、異常なことが起こった。正門の正面には本校舎棟が立っており、そこに職員室や校長室二階から上は特別教室等があり理科室、音楽室、科学室、工芸室、生物室等があった。本校舎の左側には、体育館、武道館、プール館があり、さらにその奥には各倶楽部室があった。そして本校舎の裏に、動物(ウサギやいわとりの飼育小屋)大きな池には鯉や鮒等沢山の魚を飼っていて、隣には畑で色々な野菜を育て、花壇では季節の花を育てていた。その日の朝、女子学生の大きな悲鳴が響き渡った。絹を裂くような悲鳴とはこの事だろう。教師達が飛んでいき、各学年の生徒がやじうま状態で沢山集まっていた。

「一体どうしたんだ!」と校長先生が叫ぶと、沢山の女学生が畠を指差した。なんと、そこには首を跳ねられたウサギ三羽の頭が三つ転がっていた。切り口はノコギリで切ったように見えたが地だらけになっている。集まる野次馬の生徒達を教師は教室に戻らせ、警察に連絡をした。


駆け付けた刑事達は兎を眺めながら、

「なんてことをするんだ! 悪魔の所業か」と苦々しく言葉を吐き捨てた。何でウサギの頭を? 伊丹係長も県警の白戸係長も首を捻るばかりだった。これは昨年の殺人と関係があるのだろうか?二人とも不思議さを感じた。とにかく本部の須藤管理官に報告を入れた。そして、その三日後。


   五 再度悲劇


 夜、小雨降るやはり七時頃、一人の男子生徒が本校舎の裏庭の池の縁に立っていた。誰かを待っているようである。その生徒の後ろに黒い装束を着た人物が影のように立っていた。手にはチェーンソーを持っているが、音は静だった。しかし、背中にその気配を感じた生徒は振り返り、その姿を見て悲鳴を上げようとした瞬間、そのチェーンソーがうなりをあげ生徒の首を跳ねた。その首は大きく飛び池の中にプカリ、プカリと浮いていた。黒装束の人物は、くるりと踵を返すと、その場をそろそろと離れていった。そして・・・翌日。


 やはり早朝早く登校してきた数人の女子生徒がそれを見つけた。「ギャー、ギャー」再び絹を裂くような声が本校舎の裏庭から聞こえてきた。慌てて教師達が駆け付けると、女生徒の指差す方向を見た。教師も同じくボーゼンとして膝を落とした。

 そこには鯉が群がっている男子生徒の頭が浮かんでいた。首から下の身体は池の側に倒れていた。

「おい、誰か早くあの頭を池から引き上げろ」田中学年主任が言った。仕方なく相良先生が網を使って引き上げると、


「おい、これは二年二組の沢田裕也君じゃあないのか?」すると担任の長谷川教諭が頷いた。

「間違いない。沢田裕也だ!」

教頭先生と長谷川先生は、急いで職員室に戻り警察と両親に連絡を取った。 さわ! 警察本部から鑑識と刑事達がすっ飛んできた。鑑識係も伊丹係長も白戸係長も、現場を確認した捜査員は皆苦々しい顔をした。白戸係長も、「何て残酷なことをするんだ! これ以上被害者は、絶対に出さないぞ!」鑑識係も、こんな残酷な殺しは見たことがないと言う風に、それぞれに悪態をつき始めた。早速引き上げた頭部を見ると、鯉に齧られ血だらけである。しかし、やはり昨夜からの雨のためか足跡などは流されて取れなかった。


 そこで白戸係長は、先生を全員職員室に集め、事情聴取を取り始めた。鑑識さんの報告によると、何の痕跡も見つけられなかったそうです。昨夜の雨のせいですね。凶器はチェーンソーらしいと言うことで、やはり携帯電話は見つから無かったそうです。

「全員揃ってますかね。いいですね。これで二人目です。これ以上の被害者は絶対に出すことはできません。校長先生以下教員の皆さんに何か思い当たるようなことがありませんか? あるいは何か起こったことでもいいのですが。校長先生何か教師からの報告でも無かったですか?」校長が考えている間。学校の生徒や近所の住民など沢山のやじうまが集まってしまった。これを整理する警察官も規制線を張るなど忙しく動いていた。学校の周辺は騒然となった。また、マスコミも噂を聞きつけて沢山やってきた。校長を始め教師皆の意見では何も思い当たることはないと言うことであった。しかし、白戸係長には、一つの仮説が出来ていた。


「それでは質問を変えたいと思います。先ずは、被害者である庄司正人君と池田裕也君とはなかが良かったですか?」三組の担任である和田先生が、「はい、二組の故池田裕也君と三組の故庄司正人君は、とても仲が良かったですね。やんちゃばかりやってましたけど」すると、白戸係長は続けて聞いた。

「二人だけですか? 仲が良かったのは、他にはいませんか?」すると三組の担任和田先生は、

「いますよ、うちのクラスの叶孝吉君です。亡くなった庄司正人君が中心になった三人組ですね」 

「それで、叶君は今日は登校してきていますね?」

「はい、登校してきていますが」

「すぐに此処に呼んでくれませんか」

「解りました」と言って、クラスの方へ飛んでいった。


   六 本部会議


 和田先生は、直ぐに叶君の腕を引っ張って、職員室に帰ってきた。白戸係長は、叶君の両肩を両手で抱き、

「君が叶君かね? 亡くなった二人とはとても仲が良かったんだね」叶君は小さく頷いた。不安そうだ。それもそうだろう刑事に呼ばれるなんて始めての経験だった筈だ。係長は、

「実は君に頼みがあるんだ。君は携帯電話を持っているかい? 今なんだが」すると叶君はやはり頷いた。

「そうかい、実はねこれは個人情報の問題もあるので君の任意なんだが、もし良かったら君の携帯電話を見せてもらえないかい?」そう言われた叶君はおずおずとスマートフォンを取り出し刑事に手渡した。


「うん、有り難う。スマートフォンの中身を見てもいいかな?」叶君は頷くばかりだった。白戸係長は早速スマートフォンの中身、電話帳を見た。同級生の名前ばかりのように見えた。庄司正人君や沢田裕也くんの名前もあった。

「この電話帳は、皆この学校の生徒かな?」

「そうです。あと和田先生の電話番号が入ってます」なる程と係長も頷いた。次に写真のフォトブックや動画ブックをゆっくりと見ていったが、別におかしな写真や動画は何もなかった。

「う~む、何もないなメールボックスも見ていいかな?」はい、叶君は言ったが少し恥ずかしそうだった。

「あの~、女性とのメールも入っていますので、内緒にお願いします」

「解ってるって」と言いながらメールを順番に見ていったが、やはり高校生らしいもの以外はなかった。


「ふう、何も特別なことはないな。はい、スマートフォンを返すよ。有り難う。もういいけどさ、こんなことが学校で起こっているから、充分自分でも気を付けてくださいね」と言ってスマートフォンを帰すと生徒もクラスに帰した。白戸係長は腕組みをしてう~むと唸った。

「何も出なかったな。じゃあどうして殺人犯は携帯電話を持ち去ったのだろうか」

「とにかく、捜査本部に一度帰ろうか」と捜査員や鑑識係に言った。立花署に有る捜査本部に引き上げ、管理官に白戸係長が、経緯を報告をした。犯人は何故携帯電話を持ち去ったのか?う~む。みんな考え込んだ。

「しかし、今度は二年三組の叶君が狙われる恐れも大いにある。彼の周囲に捜査員を張っていてくれ。油断は許されない」管理官が言った。

「それにしても、手懸かりがあまりにも無さすぎるな。鑑識さん凶器のチェーンソーの線はどうだ?」

「はぁ、それが量販店で幾らでも売っている型で最新の音の静なやつで、それからは一寸手懸かりは難しいかと」

「しかし、他には何もないのだろ? お手上げか。誰か何かを気付かないのか? 動機の方はどうなんだ? 何かでないのか」


 捜査本部で悩んでいる頃、例の暗闇の部屋には、黒装束の影が、

『ふあっ、ふあっ、ふあっ。私の第一目標もあと一人だな。早く済ませよう。武器は何にするかな。警察どもには平凡なことを難しく考える傾向があるからな、まだ私の正体は明かせない。ふ、ふ、ふ、ひ、ひ、ひ、ハイド様。ばんざーい』不気味な影は消えていった。


 捜査本部では、有効な手懸かりを掴めぬまま数日が過ぎた時、とんでもない事件が飛び込んできた。三人目だ‼️


   七 三人目の惨劇


 その夜も雨が“じとじと”と降っていた。

 学校の中庭に有る花卉栽培用のビニールハウスの入り口に、傘をさした一人の男が人待ち顔でいそいそしていた。するとその男の背中に黒づくめの格好をした影が近づいてきた。その影の右手には、キラキラと輝く長刺しを持っていた。気配を感じた男は「やっとやってきたか。金を出しな」と言いながら振り返ると、その黒ずくめの影を見て、

「だ、誰だお前は」と大声を出しそうになった瞬間。その黒ずくめの影の右手に持っていた日本刀が勢い良く振り下ろされた。切られた男は血吹雪を上げながらその場に倒れた。所謂袈裟斬りである。そしてその影はビニールハウスの入り口を開け、男の死体を投げ捨て、手斧に持ち帰ると、肢体を手足バラバラにした。

『ふあっ、ふあっ、ふあっ。これで第一目標は仕上がった。次の仕事だな』そう呟くと、出口に向かった。


「た、た、た、大変です管理官! また、高校生が殺られました❗」

それを聞いた捜査員全体が震撼とした。白戸係長は、

「まさか、清瀬高校の叶君じゃないだろうな❗ 彼には捜査員を張り付けているんだぞ。何かあれば直ぐに解る筈だ。何も報告はなかったぞ」

「係長、そうではありません。殺人があったのは。隣町の迫田町に有る県立黒岩高校の二年生です。しかも、うちの管轄になります」

「なんだって! 黒岩高校だって、じゃあ叶君は無事なんだな。今張り付いている刑事に確認してみろ」

「了解しました」と携帯電話で連絡を取ると、

「間違い有りません。叶君は今朝高校に登校しているとのことです」

  ――じゃあ、一体誰が?――

「とにかく、黒岩高校にみんな急行だ! 急げ」と号令をかけると、みんな本部から飛び出ていった。


 ――どう言うことなんだ?――


 黒岩高校に駆け付けた、捜査員達は早速殺人現場に駆け付けた。中庭のビニールハウスに、遺体をバラバラにされた生徒が転がっていた。集まっている校長先生以下教師達に向かって、

「この生徒は誰ですか?」と訪ねると、担任教員の一人が、

「二年二組の山元元気君です。」

「どうしてなんだ? 二年生と言うのが一緒なだけじゃないか。俺の推測は間違っていたのか!」白戸係長が、呟いた。

「しかし、何て残虐な殺し方をするんだ。これで三人目か! まだまだ続くのだろうか? そうなるともうこれは異常者の殺人なのか?」何にもの刑事が教師達に事情聴取をしている。第一発見者は、女学生の一人で花卉部の一人だと言うビニールハウスの入り口が開いていたので、不思議に思いなかを覗いたところ肢体を発見したそうである。周囲には学生達が大勢集まってきていた。白戸係長は、

「どうだい、鑑識係長さん。死因は? 何か物は落ちていたかい?」

鑑識係長は、首を横に降りながら、

「何も無し、死因は日本刀のようなもので袈裟斬りにされて、その後手足を斧で切り離したって感じだな。携帯電話が見つからないのは前例と一緒だ」

「そうかい、不思議だな、何故携帯電話を持ち去るのか?」事情聴取をしていた捜査員からも何も手懸かりが得られなかった。そこで、捜査本部に連絡をして、県警の阪本主任を呼ぶと、

「一寸、確認してほしいことがあるのだが、電話してみてくれ」と阪本主任に耳打ちした。

「これで繋がりが見つからなかったら、お手上げだな」


   八 惨劇の終焉


 『ふあっ、ふあっ、ふあっ。』これで第一目標は終わったな。疲れたので、一休みしようと眠りについたとき。

 その夜も雨が“じとじと”と降っていた。

 学校の中庭に有る花卉栽培用のビニールハウスの入り口に、傘をさした一人の男が人待ち顔でいそいそしていた。するとその男の背中に黒づくめの格好をした影が近づいてきた。その影の右手には、キラキラと輝く長刺しを持っていた。気配を感じた男は「やっとやってきたか。金を出しな」と言いながら振り返ると、その黒ずくめの影を見て、

「だ、誰だお前は」と大声を出しそうになった瞬間。その黒ずくめの影の右手に持っていた日本刀が勢い良く振り下ろされた。切られた男は血吹雪を上げながらその場に倒れた。所謂袈裟斬りである。そしてその影はビニールハウスの入り口を開け、男の死体を投げ捨て、手斧に持ち帰ると、肢体を手足バラバラにした。

『ふあっ、ふあっ、ふあっ。これで第一目標は仕上がった。次の仕事だな』そう呟くと、出口に向かった。


「た、た、た、大変です管理官! また、高校生が殺られました❗」

それを聞いた捜査員全体が震撼とした。白戸係長は、

「まさか、清瀬高校の叶君じゃないだろうな❗ 彼には捜査員を張り付けているんだぞ。何かあれば直ぐに解る筈だ。何も報告はなかったぞ」

「係長、そうではありません。殺人があったのは。隣町の迫田町に有る県立黒岩高校の二年生です。しかも、うちの管轄になります」

「なんだって! 黒岩高校だって、じゃあ叶君は無事なんだな。今張り付いている刑事に確認してみろ」

「了解しました」と携帯電話で連絡を取ると、

「間違い有りません。叶君は今朝高校に登校しているとのことです」

  ――じゃあ、一体誰が?――

「とにかく、黒岩高校にみんな急行だ! 急げ」と号令をかけると、みんな本部から飛び出ていった。

  ――どう言うことなんだ?――

 黒岩高校に駆け付けた、捜査員達は早速殺人現場に駆け付けた。中庭のビニールハウスに、遺体をバラバラにされた生徒が転がっていた。集まっている校長先生以下教師達に向かって、

「この生徒は誰ですか?」と訪ねると、担任教員の一人が、

「二年二組の山元元気君です。」

「どうしてなんだ? 二年生と言うのが一緒なだけじゃないか。俺の推測は間違っていたのか!」白戸係長が、呟いた。

「しかし、何て残虐な殺し方をするんだ。これで三人目か! まだまだ続くのだろうか? そうなるともうこれは異常者の殺人なのか?」何にもの刑事が教師達に事情聴取をしている。第一発見者は、女学生の一人で花卉部の一人だと言うビニールハウスの入り口が開いていたので、不思議に思いなかを覗いたところ肢体を発見したそうである。周囲には学生達が大勢集まってきていた。白戸係長は、

「どうだい、鑑識係長さん。死因は? 何か物は落ちていたかい?」

鑑識係長は、首を横に降りながら、

「何も無し、死因は日本刀のようなもので袈裟斬りにされて、その後手足を斧で切り離したって感じだな。携帯電話が見つからないのは前例と一緒だ」

「そうかい、不思議だな、何故携帯電話を持ち去るのか?」事情聴取をしていた捜査員からも何も手懸かりが得られなかった。そこで、捜査本部に連絡をして、県警の阪本主任を呼ぶと、

「一寸、確認してほしいことがあるのだが、電話してみてくれ」と阪本主任に耳打ちした。

「これで繋がりが見つからなかったら、お手上げだな」


 黒づくめの男に対して幼い少女が出てきた。

『もう、止めて❗ 私はこんなことを望んではいないわ。お願い、もう罪を重ねるのは止めて❗ お願いお父さん! お母さんを悲しませないで❗』と言われた。

『それでいいのか? 私だってまともな人間だ! 君が言うのならもうお仕舞いにしよう。ジキル氏の最後は解っているさ。奈津子! 解ったよ安心してくれ』


 さて、捜査本部で白戸係長から須藤管理官に報告が終わり。再度事件を一から考え直そうとした。

「そうだ、阪本主任私が頼んだことは解ったかな」主任は立ち上がって、

「はい、白老係長の推測通り、庄司正人君と池田裕也君と山元元気君は、同じく中学で、立花町立第一中学校の出身です。叶君は原田中学校で違いました。つまり叶君は高校には入ってから、庄司くんと友達になったようです」

「なる程、やっぱりそう言うわけか、となると今回の事件の元凶は中学時代に有りそうですね。それでスマートフォンを持っていったんだな」

「どうしてですか?」

「きっとそのスマートフォンの中身を見れば、誰の仕業か解るようになっているのさ」


 その時、捜査員が世話しなく捜査本部に飛び込んできた。

「大変です。また死体が出ました。ただし、今度は高校生ではありません」何だって! 会議室の誰もが立ち上がった。須藤管理官は、

「誰が亡くなったのだ?」

「そ、そ、それが、清瀬高校の相良先生なんです。場所は自宅です。先生の奥さんから電話が入りました」

「何だって❗」全員が叫んだ。まさか、まさかと思いながら、白戸係長以下捜査員が家に急いだ。

 自宅に着いた捜査員達は、奥さんの許可を得て家に上がり込んだ。

「先生が自殺したと言う電話をいただいたのですが。場所はどこですか?」

「主人の部屋です。誰も入ってはいけないと言われていたのですが。今朝はいつまで足っても起きてこないので、部屋を覗いたら、主人が部屋で倒れてまして、救急車を呼んだのですが、隊員の人が、『もう既に亡くなってますね、警察に電話してください』と言われ、電話したわけです」鑑識さんと捜査員が部屋に入ると、相良先生はうつ伏せてなって倒れていた。微かにアーモンドの香りがした。鑑識さんは、

「青酸を飲んでいますね、後部屋野中を見てください。凶器の山ですよ」

「流石にこの状態では、相良先生が殺人犯と断定せざるを得なかった」

 白戸係長と伊丹係長は、遺体を詳細に調べると、

「じゃあ、後は頼んだよ捜査本部で報告を聞こう。裂きに帰ってるから」と二人で差から先生の自宅を引き上げようとし、今の横を通りかかった時、白戸係長の目に仏壇が目に入った。

「すみません、奥さん。この仏壇なんですけど……」正面にかわいい女の子の遺影が飾ってあった。

「あぁ、それは私共の一人娘の奈津子です」と元気の無い声で答えた。

「娘さんですか? まだ若そうですが、病気か何かで………」

「いえ、自殺したのです。陸上橋から飛び降りたのです。まだ中学一年の時でした」最後は涙が溢れて言葉になら無かった。

「えっ、そうなんですか!」二人は絶句した。

「原因は、学校での苛めなんです。何度も何度も学校や教育委員会に申し立てをしたのですが。聞き入れてもらえませんでした。あの人(夫)の嘆き様は、尋常ではありませんでした。私だってそうです。此処に奈津子の日記があります。これを読めば、どんなに苛めにより心身に傷をおって苦しんでいたかが良く解るのに・・・誰も信じてくれなかった」と奥さんは泣き崩れた。二人の係長は頷いて、

「奥さん。申し訳有りませんが、その日記帳を貸してもらえませんか? 事情が解り次第直ぐに返しますので」

「はぁ、捜査の役に立つのであればどうぞ持っていってください」二人は深く頭を下げて、線香を上げ、冥福を祈って、日記を借りて、捜査本部へと帰っていった。


   九 悲哀の動機


 捜査本部に帰る車中で白戸係長は、その日記をずっと丁寧に読んでいた。捜査本部に帰っても読み続けていた。そうしているうちに、みんなが引き上げてきた。鑑識係長が、台の上に押収物を並べていた。無くなったスマートフォンも三台見付かった。捜査員がその三台のスマートフォンを検視していると、

「管理官❗ 何とも酷い動画が納められていますよ。若い女の子が、国道の上に有る陸上橋から飛び降りる瞬間と、落ちて車に引かれて人形のように撥ね飛ばされる場面がそれぞれ三台違うアングルで撮られていますよ❗ 何て非情な動画なんだ。それにその動画をネットで流すぞ! 等と脅して、親の相良先生に脅迫しているメールもあります。日付を見ると、あいつらが高校に休学してからですね。どこそこに何時に五千円持ってこいとか。一万円持ってこいとのメールもありますね。ろくな奴らじゃないな! 偶然二人が入学した清瀬高校に相良先生がいたんでしょうな。小遣い稼ぎのつもりで脅迫していたんでしょうな」と捜査員の一人が言った。白戸係長は、「なんだって、それもそうだが、何と言っても奴等の苛めが彼女を奈津子って言うのだが、自殺に追い込んだのが、今回の事件の大きな動機だ。家に仏壇があったので拝んできたよ。そして娘さんの日記を借りてきた。読んでみたが毎日酷い苛めをあの三人に受けていたんだな。俺は涙が出てきたよ。こんなことを言っては刑事失格だが。俺にも同じくらいの娘がいるんだ。同じことをされたなら、俺だって何をするか解らんな!」すると伊丹係長も同じようなことを言った。

「先生や生徒達の相良先生の話を聞いたが、とても優しくて、授業も解りやすくて、とても皆に評判の先生だったんだ。まさか、と思ったよ。沢山いる先生達の中でも影の薄い存在だったらしい。苛め問題にもっと真剣に取り組んでいたら、こんな事件も起きなかったし、相良先生も親子三人平凡で幸せな家庭を築いていた筈だ! 残念でなら無い」そこで管理官が締めた。

「相良先生の苦難も解るが、殺人はどんな理由があっても、有ってはならないことなのだ❗ 正に残念だが、被疑者死亡で、送検してくれ。もうこんな事件は懲り懲りだ❗ 二度と係わりたくないな」そして捜査本部は解散となった。


             (了) 




   



 

 


  




 



   








 










 

 

 


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