17 ビリージュニアロボ
「坊ちゃん、ご卒業おめでとうございます」
俺は17歳にして大学院博士課程を卒業。
ついでにシェルドも大学を卒業した。
毎度恒例のグランツ
祝ってくれたのは、ビリー教官1人だけ。
悲しいことだが、軍の予備役にあるグランツ家の使用人の多くが、現役軍人として復帰したため、我が家からいなくなってしまった。
いつもであれば強面の男たちがズラリと並び、それが一般人の恐怖の的になっていた。
でも、ビリー教官1人だけなら、圧力もかなり緩和される。
「桑原桑原、あそこには近づかないでおこう」
「どうしてこんなところに、黒服がいるんだよ」
「マフィアの人間じゃないの?」
まあ、小声でボソボソ呟いて、警戒している方々はたくさんいらっしゃる。
そしてここからの恒例で、州や市のお偉いさん方が群がってくる……こともない。
キース・グラン連邦周辺の戦況が混迷を極めていて、お偉いさんが呑気にグランツ家のご機嫌取りにはせ参じる余裕がなくなっていた。
というか、一部の議員は既に行方をくらましていて、遠くの国に逃げたという噂すらある。
俺とシェルドの卒業式であるものの、世間は呑気に祝い事をやっている余裕がなくなっていた。
では、きな臭さい戦況の話をして行こう。
去年、隣の超大国に侵入したシャドウウォーカーの軍勢であるが、超大国が膨大な戦力を投入したにもかかわらず、撃退に失敗してしまう。
結果、状況打開に走った超大国は、自国内で核兵器を使用してシャドウウォーカーの軍勢を消滅させる。
核の爆発後も生き残りがいたものの、それらは軍によって殲滅され、超大国内のシャドウウォーカーは一掃された。
なお、核が使用されたのは超大国内でも人口密度の低い地域であったため、住民への被害は最小限で済んだと言われている。
あくまでも言われているだけで、戦時下で操作されている情報が、どこまで正しいかは一般人には分からない。
グランツ
その情報の中身を見て、「こんなの知らなきゃよかった」と、泣きたくなったけどな。
しかし、超大国内からシャドウウォーカーが一掃されたのは、いい方の情報だ。
核を使っていても、まだいい方の情報だ。
去年1年間、超大国が自国内のシャドウウォーカー対策に力を注いだため、他国に派遣している軍事力が極端に低下した。
結果、世界各地でシャドウウォーカーの侵略領域が拡大。
人類側の戦線がさらに後退してしまう。
ヤバいことに、キース・グラン連邦から3つ先の国が、シャドウウォーカーとの最前線になってしまった。
しかもキース・グラン連邦より先にある国々はどれも小国で、持っている軍事力なんてたいしたことがない。
超大国が身動きできない状況で、この方面の戦線を放置するわけにはいかず、キース・グラン連邦を始めとする周辺の国々が、本格的な派遣軍を前線へ送り込むことになった。
この戦線で押し留めることができなければ、小国なんてあっという間に飲み込まれ、キース・グラン連邦が戦場になってしまう。
しかも、うちの国は前世の日本みたいな大国ではないので、軍事力はそんなに強力じゃない。
前世の日本はなんだかんだ言いながらも、自衛隊の兵力を、周辺国が無視していいと考えないレベルだったからな。
まあ、一番の抑止力は、背後にアメリカ様が付いていたことだろうけど。
「ああ、ヤバすぎる。俺は死にたくないのに」
戦争が、すぐ傍に近寄ってきている。
人間、ストレスにさらされると意味もなく無駄な行動に突っ走ってしまう。
例えば暴飲暴食に走って太ったり、破壊衝動に駆られたり、車を暴走させてとんでもないスピードで道路を走ったり、部屋の模様替えを突然始めたくなったり、現実逃避でゲームの世界に逃げ込んだり、あるいは他の趣味に走ったり。
前世が趣味人だった俺は、ストレスが増し加わる環境の中、趣味へと傾倒することになった。
前世の俺の趣味はゲームだったが、今世での趣味は気が付けば研究分野への傾注になっていた。
子供の頃から爺さんの傍にいたせいで、研究が趣味と一体化してしまった。
「ねえ、ウィル。これってどう見ても危険だよ」
「大丈夫だ、突然襲い掛かってくることはないから」
シェルドは、何をビビっているんだ?
研究開発にひどく没頭した結果、俺はシュワルツ型戦闘ロボットを10体ほど作り上げた。
もちろん、人間の
一目見ただけでは、ロボットには見えない。
前世の映画で見た、未来からやってきた殺人ロボットを参考にして作った。
なお、外見はビリー教官を元にしている。
丸パクリはダメだから、完全にビリー教官と同じ姿にしていない。
そんな巨漢のビリージュニアロボが、10体整列して並んでいる。
俺もシェルドも背丈は普通なので、10体の厳ついロボから見下ろされる形になる。
使用人連中が揃っていた頃はいつもこんな感じだったので、勢ぞろいしたジュニアロボに見下ろされると、なんだか安心する。
「ウィルは頭はいいのに、どうしてやることがメチャクチャなんだ。こんなの間違っている」
「……そうだな、男型しか作らなかったのが間違いだ。
次は女型を……」
「作らなくていいって!」
シェルドが指摘している間違いは、性別の事じゃないのか?
もしかして、液状化可能な戦闘ロボを作れと言っているのだろうか?
「流石に液状化は無理……」
「そういう意味じゃないから!」
なぜかひどく反対されてしまった。
そんな戦闘ロボたちだが、この後シンクたちに捕まって、仲良く遊ぶことになった。
「僕たちが先に造られたからお兄ちゃんで、君たちは弟だよ」
「イエス、
「おおっ、僕たちにも弟ができたんだー」
「「「ワーイ、弟だー」」」
俺が作ったので、ジュニアロボはシンクの弟だな。
弟ができて、シンクたちは嬉しいようだ。
兄弟を作ってやれて、
ところで大学院を卒業した翌日、俺にわざわざ会いたいとアポイントを取ってきた男がいたので、会うことにした。
「初めてお目にかかります。私このような者でして……」
そう言って男が差し出してきた名刺には、陸軍研究所に所属していることが書かれていた。
「軍の研究機関ですか」
「はい。実はグランツ君が学生時代に提出していた論文は、軍の研究機関でも注目していまして、ぜひとも陸軍研究所の研究員としてお迎えしたい」
俺が今までに大学や大学院で提出した論文は、軍事関連の技術を書いている。
具体的には、シンクやジュニアロボの開発時に得た知見を元に、論文に仕上げた。
いろいろと公開するとマズいものもあるので、論文は爺さんの添削を経てから提出したが、この国の軍事技術の貢献に役立っているのは間違いない。
それにしても、渡りに船だ。
「願ってもない機会です。ぜひ研究者として働きたい」
「おお、二つ返事で引き受けてくれますか!」
ヤッター、これで危険な戦場からオサラバして、安全な後方で研究者として過ごせる。
俺は嬉しくなってニッコニコ。
男の方も、俺の両手を握って嬉しそうに握手する。
なお、これまでのシャドウウォーカーの侵略速度を考えれば、陸軍の研究所にいようが前線にいようが、国ごと滅ぼされてしまえばお終いだと思ってはいけない。
人間、少しでも長く安全な場所にいたいもののだ。
それに追い詰められた人間というのは、目先の事だけ考えて、将来の事はなるべく考えないようにする生き物。
俺は将来のことまで長く見据えられる賢人ではないので、俗物らしく目先の安全のために、研究員になることにした。
だが、それから1週間と経たずして、この話はなかった事になる。
「ハアッ、どういうこと!?」
俺は勧誘してきた男を前に、一体これはどういうことだと声を荒げる。
「申し訳ありません。
グランツ
「な、なんだと……」
俺の就職が蹴られた理由は、軍内部の政治的なものらしい。
確かにグランツ家は、この国の空軍とベッタリの関係だ。
空軍様のおかげで、我が家は毎日絶えることのない富を得ている。
空軍にとっても、うちは退役軍人の
が、どこの国でも陸海空の三軍は、仲が悪い。
キース・グラン連邦はそんなに軍事力が強い国ではないが、それでも他国の例にもれず、軍隊間の仲が悪かった。
「では、私はこれで失礼します」
「えっ、ちょっと、待って、俺の安全な後方勤務の約束はー!?」
言う事だけ言うと、男はそそくさと逃げ去ってしまった。
かくして、俺の安全な後方勤務計画は頓挫した。
「ウィル、どのみちお前さんは特務機関に関わりすぎとるから、
爺さんにも、そんな風に言われた。
ということは、俺はこれからも爺さんの傍で研究者を続けて行けばいいのだろうか。
ヤバそうな組織の下請けだが、前線に行くよりは遥かに安全だな。
たぶん?
航空機動歩兵は戦場の空を征く(仮題) エディ @edyedy
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