シックスセンスはありまああああす!
アサミカナエ
シックスセンスは、ありまああああす!
「虫の知らせ」という言葉をご存知でしょうか。
例えば「猫は死ぬ姿を見せない」というふうに昔から言われていますが、不思議と猫は自分の死期を悟ることができ、死ぬ前に家を出て軒下などでひっそりとこと切れるのです。例えばカラスは死期が近い人の家の屋根に集まってくるという都市伝説もありますし、なまずだって地震を予知するなどと言われています。ええ、ここまでぽんぽん例を出しておいて、ひとつも“虫”が知らせていないことに私もいささか「まずいな」と思いはじめていますよ。
さてこの「虫の知らせ」。英語ではシックスセンスと呼びます。この五感を超越した不思議な心のはたらきは、国内外問わず古くから語り継がれているものなのです。
そう、シックスセンスは特別ではありません。
もしかしたらあなたも、シックスセンスを経験したことがあるかもしれませんよ。
「シックスセンスはあるんです」
「おやおやどうしたい、藪から棒に、うるさいねえ」
「シックスセンスは、ありまああああす!」
「どこぞの理系みたいに言い直さなくていい。シックスのセンスなんて下ネタを大声で叫ぶんじゃないよ」
「誰が下ネタだよこの野郎。知らないのか、シックスセンス。第六感と言えばわかるだろう」
「ワンピースの?」
「そうそう、船上レストラン・バラティエでミホークに敗れたゾロが『俺はもう二度と負けねえ!』とルフィに誓う超感動的な六巻の話はしていない」
「その話は逆に続けたいような気もするけれど、一旦続きを促そうか」
「理解が早くて助かるよ。第六感はね、人間に備わる視、聴、嗅、味、触の五つの感覚“五感”を超越した心のはたらきで、“霊感”などがそれにあたいする。おいらはそれをあると主張しているんだ」
「わっはっはっは。霊感だって? きみは意外と子どもじみたところがあるんだねえ」
「そう言うなよ、昨日恐ろしいことがあったんだ。聞いてくれるか」
「下ネタを大声で叫ばないと約束するなら、聞いてやろうか、どれどれ」
「だから下ネタではないのだと言うに――」
……
…………
………………
“なあ、なんでこんな早くいっちまったんだよ。”
“おいら、あんたとは一生を共にする付き合いになると思ってた。”
“なのに、こんなことってあるかよ……。”
「うん、ちょっと待ってくれないか」
「なんだい、まだ話は序盤だよ」
「なぜ唐突にモノローグがはじまったんだろうか」
「それはもう少しおいらを信じて聞いていてくれ」
「仕方ねえな」
“部屋の机の上を見て、呆然と佇むおいらの後ろに気配がしたんだ。”
“『誰だッ!?』”
“『あたしよ』”
“『お、……おっかさん!?』”
“――なんだ、あの笑みは。まるで何もかもお見通しだというような。”
“『幼なじみ』”
“――え”
“『放課後の教室』”
“――ちょっと待ってくれ”
“『生足』”
“――そ、それ以上はやめ……”
“『ポニーテールとうなじ』”
“ぎゃあああああああああああ!!”
「おいおめえ、さっそく叫んでるじゃねえか」
「どうしておっかさんという人種は、誰にも見つからないように隠した秘蔵エロコレクションをめざとく見つけてくるのだろうか……」
「ああ、ようやく話が見えてきたな。おおかたきみのベッドの下に隠していたエロ本が親に見つかり、机の上にきれいに並べられていたというのだろう? それをシックスセンスと? ちゃんちゃら可笑しいやい」
「馬鹿野郎、そんな平成・与太話を、おいらがわざわざ声を大にし、モノローグを入れてまで語るとでも? もっと恐ろしいものの……片鱗を味わったんだぜ」
「なんだって?」
「おっかさんはおいらのパソコンのパスワードを突破し、さらにドキュメントフォルダの奥に紛れこませたフォルダの最深層にフェイクのフォルダ名で置いてあった秘蔵フォルダを見つけ出し、すべてに目を通したのち勝手に消去していたのだ!」
「なに? 『母親がエロコレクション絶対見つける
「だから先人から言わせてもらう。おまえも充分に気をつけるんだぞ」
「そうかわかった、ありがとう。じゃあ俺からも最後に言わせてもらう。結局シックスセンスは 下 ネ タ の 話 だ っ た じ ゃ ね え か 」
おあとがよろしいようで。
シックスセンスはありまああああす! アサミカナエ @asamikanae
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