おしかつ!

西紀貫之

おしかつ!

「こんばんは、藤原恵美ふじわら えみの 押勝おしかつです。本日は女性の下着をどう味わうかという議題をお持ちいたしました」


 出オチ感満載で現れた友人が軽くボケをかましつつ、私を呼び出したファミレスに時間きっかりに到着した。テーブルに座るまえに店員にドリンクバー注文してたのか、その手には温かいコーヒーのカップ。

 いやそれよりもだ――。


「聞きたいことがある」

「ちなみに藤原恵美押勝ってのは藤原恵美ちゃんの推し活をするひとってことじゃなくですね」

「そこじゃねえよ。なんだよ、女のパンツの味わい方談義って」

「しゃ(ぶる)? ね(ぶる)? だとしたらどうやる?」


 そっちかー。


「推し活の一環として、もし対象の下着を手に入れたらどうするかのシミュレーションはしっかりとおこなっておかねば紳士的対応は取れない。故にこうして議題があるたびに仲間で集まってだな……」

「もう私だけしか来ないけどな」


 しかし、推しのパンツか。


? ザイ? 洗済センザイ?」

「済」


 となるとパンツ抽選会生下着渡しか。


「体操服のときもいったが、私は推しのものに己が体液や皮脂が付着するのを良しとしない。ゆえに、朝岡実嶺しゃぶりという選択肢はない」

「じゃあ北米真中ねぶらす?」

いな~。完全にいっかいこっきりの消耗品としてステッチ部分を煮出し、出汁を嗜む御仁もいると聞くが、推し活と終活があわさったものとして、晩年の楽しみにしてる部類のものだものなあ」


 ちなみに、こいつの持ってきたコーヒーをチラ見して、ひとこと付け加えておく。


「お前は北米ねぶる派か」

「なぜそれが」

「コーヒーから、オレンジペコの香りがする。オレンジペコねーぶるでアメリカンを作ってきたのは私へのメッセージだったのだろう?」

「慧眼ッ!」

「しかも紅茶という紳士の国の飲み物にくわえ、アメリカンは濃くないコーヒー。濃くないだけに、君は下着を味わっても決して派だ……!」

「慧眼ッ!」


 変態紳士は腕を組み唸る。私もひとつ付け加えるように話のネタを提供する。


「ごくごく少量の生理食塩水を加えナイロン生地に包み、人肌にレンチンし、仄かにたちのぼる蒸気を愛するよ、私は」

「ま、まさに慧眼の極みッ!」

「ドラフト派とラガー派のいいとこ取りをしたいものだ」


 このほうが話が過熱するだろうというニュアンスもある。

 今夜の事件の解決は長引きそうな気がする。

 さて、深夜のファミレスという公共の場でどのような隠語を繰り広げ話を膨らまそうか、私たちは心地よい頭脳体操を想定し、まずはポテトフライ盛り合わせを頼む。


「飲み物おかわりは?」

「ふむ。ではシーシー……レモンを」


 彼の手がピクリと反応する。


「おしっ…………おしかつッ!!」


 さて、私も私とて、このての話題なら容赦はしない。しっかりついてきておくれよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おしかつ! 西紀貫之 @nishikino_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説