第12話、おまけ


 この詩論は12話目でひとまず完結となります。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。詩に興味のある人や、これから詩を書こうとする人たちのお役に立てたのならば幸いです。皆さんも、気が向かれたら詩を書いてみてはいかがでしょうか?

 ここからはおまけの「定型の一覧」となります。韻律とその雰囲気・効果を、筆者の主観を多く含んだものにはなりますが、色々と紹介していけたらと思っております。


「七五調」

  七と五の間の休符が短く、八五調という変異体もあるために基本的に十二音、十三音の韻律。軽やかで優しい音色をもたらし、抒情詩などに向きます。大抵何にでも使える律動なのですが、台詞などにも使うと、あまりに「律動」めいていて不自然な感じを与えることもあります。ちなみにですが、同じ七音にも「三四」と「四三」があり、都都逸などの短詩形においてはどちらの七を使うかが、作品のリズムを大きく左右するファクターになり得ます。


「五七調」

  五と七の間に大きな休符があり、七五調よりも慣れと経験が必要になります。また、読む側もうっかり五七調ではなく、ただの十二音で読んでしまうこともあり、五音と七音の間に空白や句読点を挟んだり、切れ字を使ったりして工夫する必要があります。朴訥な印象を与え、硬派な作品に使っても雰囲気が崩れにくいです。


「七七調」

  休符が少ないです。そのため饒舌で冗長な印象を与えます。場合によっては律動であると思われず読み流されることもあるので、うまい具合に緩急をつけると扱いやすいのではないでしょうか。全体的にアクセントが目立たないため、流麗な文体と合わせれば独特のリズムを生み出すことができるでしょう。


「二八五調」

  七五調の最初に弱拍の二音を付け加えたものです。そのため七五調より入り方がぬるっとしたものになり、また、リズムに乗って朗読してみると息継ぎができる休符が少ない印象を与えます。一方、七五調ほどコテコテではなく、より現代的な話題を扱うのに適しているのではないでしょうか。ただ、滅多に使われない律動なので「律動」であると分かるような工夫も必要になります。

 ちなみにサンプルはこちら。

 藤田桜「廃都から掘り出されたアイアンプ - 抒情小曲集」カクヨムhttps://kakuyomu.jp/works/16816700428723200791/episodes/16816927860461759162


「九四調」

  七五調の変異体のひとつです。「らごとたまま くだい」と言った風に、休符が埋められ、アクセントの来る位置もずらされています。こちらは七五調との併用が可能です。リズムの取り方が少し難しくなるので、書く側にも、読む側にも、慣れと経験が必要になる律動と言えましょう。七五調よりもポップな印象を与えます。

 サンプルはこちら。

 藤田桜「あなたがもちあげた ハンマー - 抒情小曲集」カクヨムhttps://kakuyomu.jp/works/16816700428723200791/episodes/16816700429503857498


「七九調」

  五拍子の律動です。「強弱中弱弱」となるため、七五調を始めとする四拍子の律動よりも柔らかな雰囲気を与えます。一音増やして八九調にすることもありますね。書きたいことを九音にまとめるというのは、七音と五音の韻律にどっぷり浸かっていると案外難しかったりします。

 サンプルはこちら。

 藤田桜「破局、またはPrologue - 抒情小曲集」カクヨムhttps://kakuyomu.jp/works/16816700428723200791/episodes/16816927859982477980


「八六調」

 琉球文学によく見られる律動です。七五調のように八と六で一つの塊と言うよりは、八と六それぞれが別の塊として独立している趣があります。第5話でご紹介させていただいた通り、我々が普段慣れ親しんでいる韻律とは一味違った仕組みで成り立っており、七五調のコテコテさに飽きてきた人にオススメです。

 参考はこちら。

「琉歌 - Wikipedia」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%89%E6%AD%8C(2022年3月17日参照)

(一社) 恩納村観光協会 公式WEBサイト「琉歌大賞 | 【公式】恩納村観光協会WEBサイト」https://www.onnanavi.com/ryukyu-poetry-grand-prix/(2022年3月17日参照)


「三三四調」

 八分の六拍子の律動です。休符を短くした三三三三調もありますが、音楽の授業で三拍子のリズムの練習としてよく扱われる「トマトトマトトマトトマト……」や「バナナバナナバナナバナナ……」を思い浮かべると分かりやすいかと思います。他には、唱歌の『ふるさと』などが分かりやすい例でしょう。この律動には、七五調にも負けず劣らずといった軽快さがあります。


「五音三拍子」

 四拍子の五音と区別がつかなくなりやすいので、三拍子だと分かるようなひと工夫が必要です。リズムをイメージしにくいという方は『鐘のキャロル』の『旧支配者のキャロル』の日本語訳版を聴いてみると分かりやすいのではないでしょうか。おしゃれな雰囲気が特徴的ですね。

(「旧支配者のキャロル(キュウシハイシャノキャロル)とは[単語記事] - ニコニコ大百科」https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%97%A7%E6%94%AF%E9%85%8D%E8%80%85%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB)


「平坦韻」

 一行目と二行目、三行目と四行目の組み合わせでそれぞれ押韻します。押韻していると分かりやすい代わりに、連続して同じ音を使わなければならないために難易度は高いです。


「交錯韻」

 一行目と三行目、二行目と四行目で交互交互に押韻します。間に一行クッションを置ける分書きやすいですし、押韻の切れ目が曖昧になり、連全体に統一感を与えてくれますが、押韻していることが分かりにくくなります。


「抱擁韻」

 一行目と四行目の押韻が、二行目と三行目の押韻を包むような形です。交錯韻を真ん中でちょんぎって片方を倒置したものとも取れ、何にせよトリッキーな押韻構成です。ソネットなどでよく見られるので、案外マイナーではないのかもしれません。


三韻句法テルツァ・リマ

 何十行、何百行にも及ぶ長詩を書く際に活躍してくれる押韻構成です。交錯韻と同様、押韻がぶつぎりにならず繋がっていくより複雑な形式を持ちます。一行目と三行目と五行目、二行目と四行目と六行目と八行目、七行目と九行目と十一行目と十三行目、十行目と十二行目と……と言う風に、延々と続けていくことができるのですが、最後の二行だけは平坦韻で押韻するのが特徴です。


 ちなみに、よりたくさんの種類の押韻構成を知りたい場合は、

「押韻構成 - Wikipedia」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%BC%E9%9F%BB%E6%A7%8B%E6%88%90(2022年3月17日参照)や京都大学大学院人間・環境学研究科 小野田 風子「スワヒリ語詩の社会志向性― 19 世紀初頭モンバサの詩人ムヤカ・ビン・ハジに着目して ―」http://web.kyoto-inet.or.jp/people/keiko-ku/Africa/onoda45.pdf(2022年3月17日参照)がオススメです。

 さて、これで一通り主要なところは紹介できたでしょうか。それでは、この二万字ほどの詩論も本当に終わりです。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。またお会いしましょう。

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詩論 藤田桜 @24ta-sakura

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