第11話、潮流


 さて、文学の「目的」ですが、これは歴史上さまざまな主張がなされてきたものであると言えましょう。とはいえ、どの主義主張も永遠に王座を独占することはできませんでした。古典主義はロマン主義に破られ、ロマン主義は自然主義に嘲われ、自然主義もその限界を露呈する……国や地域によって細かな違いはあるとは言え、時代の変化に伴う読者層とその好みの変遷の前では、どんな理論もいずれ「唯一の正解」ではなくなってしまうのです。

 さて、乱暴な分類にはなりますが、こういった潮流にはおよそ二つのタイプがあります。一方は「厳格であり」もう一方は「奔放である」。教条主義や古典主義、写実主義などは前者に分類されるでしょうし、バロックやロココ、ロマン主義やマジックリアリズムは後者と言えましょう。また、象徴主義のような、後者の流れを引き継ぎながらも整然とした理論を持つものもあります。(それぞれの潮流の概要を知りたければネットで調べてみてください)これらは歴史の流れに大きな影響を受けてきました。啓蒙主義などはその最たる例でありましょうし、フランスやスペインの古典主義は権力者の庇護のもとに伸長しました。芸術至上的な思想は芸術家の自立に伴って生まれてきましたし、ナショナリズムの影響のもとに生み出された作品もあるわけです。

 また、現代においても、作品の流行り廃り、創作の教科書と言った形で文学の「目的」を示すものは数多くあります。いわゆる「ハリウッド脚本術」といった類のキーワードの付く指南書に書かれた法則の羅列は古典主義めいたものを感じさせますし、オクタヴィオ・パスの『弓と竪琴』は取り扱う内容が内容なため、神秘主義めいた何かを感じさせます。かく言うこの詩論もそういった手合いですね。なるべく応用の利く形での解説を試みましたが、どの要素を重んじて取り扱うかについては偏りがあったと言えましょう。これを読んでくださる方が、この詩論から丁度いい感じに養分を抜き出してくださることを願います。


参考

 ユゴー生誕200周年記念「ヴィクトル・ユゴーとロマン派展」カタログ 編集・発行:東京富士美術館 発行日:2004年10月30日 デザイン:谷口勝 翻訳:岡田朋子 印刷:凸版印刷株式会社 Musèe Fuji de Tokyo,Tokyo,2004*

 佐竹謙一「スペイン文学案内」(岩波書店 2013年2月15日 第1刷発行)

 ラシーヌ作 渡辺守章訳「ブリタニキュス・ベレニス」(岩波書店2008年2月15日 第1刷発行)

 訳者 松本仁助 岡道男「アリストテレース 詩学・ホラーティウス 詩論」(岩波書店 1997年1月16日 第1刷発行)

 訳者 牛島信明 オクタビオ・パス著「弓と竪琴」(岩波書店 2011年1月14日 第1刷発行)

 編者 河上徹太郎「萩原朔太郎詩集」(新潮社 昭和二十五年十二月十日 発行)

「象徴主義 - Wikipedia」出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%A1%E5%BE%B4%E4%B8%BB%E7%BE%A9(2022年3月16日参照)

「ロココ - Wikipedia」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B3(2022年3月13日参照)

「マジックリアリズム - Wikipedia」出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B8%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0(2022年3月13日参照)

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