第10話、ストーリー


 物語詩のみならず、抒情詩にも「ストーリーを持つ」ものはあります。例えば、「君を信じていたいから」のしばらく後に「裏切ったのは君じゃんか」「何をしてでも取り返す」「これで、ずっと、一緒だね」と書いていけば何となく何が起こったのかイメージできる人は多いのではないでしょうか。他にも「昨日までいた君の温もり、今では空虚に寒いだけ」と言えば過去の点と現在の点を結んで物語を想像する余地があります。

 抒情とは、物語ナラティブを排するものではないのです。むしろ、物語は感情の契機となり、抒情詩を支える大きな要素であると言えるでしょう。

 私は、こういった感情を扱う類の詩には三つ種類があると考えています。まずは「物語が懇切丁寧に繋がれているもの」――この類は物語詩に分類されるでしょうが、抒情的性質もあるていど持ち得ます。次に「物語を断片的に描き、間を読者に想像させるもの」――抒情詩でストーリーを持つものは、大抵がこれであるのではないでしょうか。最期に「物語を持たず、雰囲気だけで読者を魅了するもの」――時折、ストーリーを持ちながら詩人のミスまたは意図によって物語の存在を感じられるほどの情報が開示されていないものも含みますがその他は、物語ではなく世界観の美しさ、感情の見事な描写のみによって支えられている作品だと言えますね。

 こうした「物語」は必ずしも必要なものではないのです。抒情詩においては、描かれる感情、情緒、思想を表すためのテクニックであり、目的ではない。例え読者が正しい解釈でストーリーを読み取ることができなかったとしても、それはあくまで手段でしかないのですから、「情をむ」という作品の目的さえ達成すれば何も問題はありません。むしろ詩の多義性は惜しむことなく利用すべきだと言えるのではないでしょうか。

 一方、物語詩においてはストーリーが主軸となる以上、読み取れるストーリーをあるていど詩人の意図のもとに制御できることが理想です。こちらは、抒情詩とは逆に、物語から読み取れる感情を限定、制御することは滅多にありますまい。

 とは言ってもすべての詩が両極に属するわけでもなく、両者が渾然一体となったものもあれば、行ごとに両者が入れ替わるものもあるでしょう。また、物語に支えさせるのではなく、景色や象徴に仮託して抒情する類の詩もあるのですから、実際の分類はより複雑であるはずです。


 参考

「モンタージュ -  Wikipedia」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5(2022年3月15日 参照)

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