花咲くまでの物語〜外伝〜 王子様の推し活

国城 花

王子様の推し活


ここは、私立静華せいか学園。

家柄、財力、才能を持ったエリートたちが集まる、実力主義のお金持ち学校である。


静華学園の高等部には、「つぼみ」という名の生徒会がある。

静華学園に通うエリートたちの中でも、特に才能に秀でた者たちが集まる。



その「つぼみ」のメンバーの1人に、「王子様」と人気な男子がいる。

太陽の光を受けてサラサラと輝く金髪に、南国の海のような碧い瞳を持つ美男子である。


その王子様が、最近「推し活」をしているらしいという噂が学園に広まっていた。



「推し活ねぇ…」

「あのはるが?って感じはあるよねぇ」


噂の渦中にいる王子様と同じつぼみのメンバーである皐月さつき凪月なつきは、耳に拾った噂に首を傾げていた。


「推し活って、好きな芸能人とかキャラクターを推す活動をすることでしょ?」

「ライブに行ったり、グッズを集めたり、推しの良さを広めたりすることらしいね」


推し活をしたことがない2人が知っている知識は、そのくらいである。


「晴に推す相手がいたなんて、ちょっと意外だよね」

「そんな素振りなかったもんね」


推し活をしているらしい仲間の名前は、晴。

金髪碧眼の完璧な容姿を持ちながら、少し天然なところもある女子に人気な王子様である。



「気になるなぁ。晴の推し」

「聞きにいってみる?…って言ってたら、あそこにいるね」


凪月が指差した方向には、女子生徒の群れがある。

その中心に金髪が見え隠れしているので、間違いなく晴だろう。


向こうもこちらに気付いたらしく、女子たちの群れの中から金髪碧眼の美男子が現れる。

女子生徒たちの落ち込んだ声や不満げな様子を見る限り、晴に同行を断られたのだろう。



「あれも推し活っていうのかな」

「そうなんじゃないかな。あの女の子たちは、きっと晴が推しなんだろうね」


推しと少しでも近くにいたいと願ったり、一言でも言葉を交わしたいと思うことも何かを「推す」ということなのだろう。



そんなことを話していると、優しげな顔に「助かった」と書かれている王子様が2人のもとへやって来た。


「2人とも、これからお昼ご飯?」

「うん。そうだよー」

「晴も一緒に行こうー」

「うん。ありがとう」


どうやら、女子に囲まれすぎて大変だったらしい。

王子様ならではの悩みである。


しかし最近その数が多いのは、やはりあの噂のせいだろう。



「晴が推し活してるって噂あるけど、本当?」


前置きも一切なしに尋ねる皐月に、晴は少し照れたように微笑む。


「本当だよ」


噂は本当だったと知り、2人は少し興奮する。


「え!誰を推してるの?」

「もしかして、女の子だったり?」

「え?何で知ってるの?」


キョトンとしている王子様に、2人は顔を見合わせる。


女子生徒から絶大な人気を誇っているこの金髪美男子が推している相手が異性という事実が広まれば、この学園は阿鼻叫喚に包まれそうである。



『…いや、晴のことだから推し活を誤解してる可能性もあるかも』

『それに1票』


目で会話をした2人は、何気ない雰囲気で会話を続ける。


「推しってことは、その人のことが好きなの?」

「うん。そうだね」

「応援したいとか?」

「うん。昔から応援してるよ」


どうやら、本当に「推し」らしい。

しかも、ここ最近ではなく昔からときている。


『パンドラの箱だったらどうしよう…』

『でも、好奇心が止められない…』


どうしても晴の推しが気になる2人は、少しずつ情報を聞いてみることにした。



「えーっと、その推してる人って人間?」

「うん」

「何かのキャラクター?」

「ううん。違うよ」

「…実在してる人?」

「うん」


『『まじかー…』』


2人は頭を抱えそうになった。

「推し」が実在している人物よりはキャラクターの方が周囲へのダメージが少ないと思ったのだが、どうやら晴の推しは実在する女性らしい。



「えぇと、どんな推し活してるの?」

「出演する番組とか作品を観たり、グッズも買うよ」


思っていたよりも、ちゃんとした推し活である。


「あと、会いに行ったりもするし」


「「えぇっ!」」


まさかそんなに熱狂的とは思わなかった。

しかし、晴は2人が何故驚いているのか分からない様子である。


「そんなに驚くことかな?」

「いや、ちょっと意外だったというか…」

「晴にもそんな相手がいるんだなって」


少ししどろもどろになる2人に、晴は不思議そうに首を傾げる。



「何か、プレゼントとかあげたりするの?」

「おれはあげたいんだけど、貰うことの方が多いんだよね」


それを聞いて、皐月と凪月は顔を見合わせる。

推しというのは、ファンに何かを与えることもあるらしい。


「何を貰うの?」

「最近だと、服とか、楽器とかかな」


ということは、結構高価なものを貰っているらしい。



「やっぱり、見てると格好いいんだ。おれも、ああいう風になりたいなって思うよ」


そう語る碧い瞳は、憧れと尊敬の色に満ちている。

晴は、本当にその人のことが好きらしい。



晴の推しが誰なのか興味津々だった皐月と凪月も、そのキラキラとした瞳を見ていると推しが誰かなんて問題じゃない気がしてきた。



「晴が好きなら、きっと素敵な人なんだね」

「僕らも会ってみたいなぁ」


「え?2人も会ったことあるよ?」


「「え?」」


どうやら知らずのうちに晴の推しに会っていたらしいと知り、驚く。


「え、誰か聞いてもいい?」


恐る恐る尋ねる皐月に、晴はこくりと頷く。



「母さんだよ」


「「………」」


皐月と凪月は、何とも言えない顔を見合わせる。


「えーっと、晴のお母さんっていうことは…」

「女優の、サラ・ノーラン?」

「うん」


晴は、少し誇らしそうに頷く。

晴の母親は、ハリウッドでも活躍する世界的女優である。



皐月と凪月は、一旦晴を放っておいて情報を整理する。


「えーっと…確かに、実在してる女性だね」

「お母さんだからね」


「番組とか作品を観たり、グッズを買ったり」

「世界的女優だからね」


「会いに行ったり」

「アメリカで活動してるから、休暇の時に会いに行ってるんだろうね」


「服とか楽器を貰ったり」

「そりゃ、息子に買い与えたりするよね」


うん、と2人は頷く。



「まぁ、こんなオチなんじゃないかと思ってた」

「晴だからね」


「どうしたの?」


何か納得したようにうんうん頷いている2人に、晴はついていけない。



「晴には、そのままでいてほしい気持ちもあるよ」

「うん?」

「もちろん、推しができたら応援するけどね」

「うん」


話が通じているような通じていないような会話を終えると、その後は晴の推しについての話をずっと聞いていた。



分かったことは、晴は「推し活」の意味をちゃんと分かっていないことだった。


それでも、晴にとって「推し」というのはとても大切で、尊敬できて、どこまでも応援したい存在であることは違いないようだった。


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