現在カクヨムでは推し活が推奨されています

烏川 ハル

現在カクヨムでは推し活が推奨されています

   

「推し活……?」

 聞き慣れない言葉を耳にして、彼は眉をひそめた。

 隣のテーブルの女子高生たちが「今日も推し活がんばってるね」「もちろん!」みたいな会話をしていたのだ。

 女子高生なんて、彼から見れば、娘どころか孫みたいな年齢だ。若者言葉ならばわからなくても当然だが、現代用語の一つと思えば、知らなくて良いものではないだろう。


 退職後の趣味として、彼は小説投稿サイトに登録。小説執筆を楽しむ毎日だった。

 家でも出来る趣味だが、ノートパソコン持参で喫茶店やフードコートなどに出向いて、そこで書くことにしている。自分の世界に閉じこもるのではなく、今時の世間を肌で感じたい。それが小説執筆の上でもプラスになるはず。そう考えているからだった。


 聞き慣れない言葉を勉強するのも、その一環だ。

 目の前のノートパソコンで、早速検索してみる。

「なるほど……。推し活とは、要するにファン活動のことか……」

 アイドルやスポーツ選手などの有名人、アニメや漫画のキャラクターなどを応援することらしい。応援といっても、たとえば運動会の声援みたいに無料で出来る行為ではなく、グッズを買ったりコンサートに足を運んだり、かなりの金額を費やすのだろう。

「フフフ……。私も若い頃は、そういうのをやったなあ」

 一人のアイドル歌手の熱烈なファンになり、CDやプロマイドなどを買い漁ったものだった。さすがに「アイドルはトイレに行かない」とまでは思っていなかったが、結構それに近いくらい、そのアイドル歌手を神聖視していたかもしれない。

「若気の至り、ってやつだな」

 今の自分には関係ない話だ。

 そう思って彼は、『推し活』については忘れて、小説執筆に戻る。

 いつもの小説投稿サイトを開いて……。

「おお、そうだ。まずは今日も、これをやっておかないと」

 お気に入りの作家のページへ行き、最近導入されたサポーター制度を利用して、追加ギフトを送るのだった。


 この時、彼は気づいていなかった。

 サポーターのギフトという形で課金するのも、立派な『推し活』であることを。




(「現在カクヨムでは推し活が推奨されています」完)

   

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現在カクヨムでは推し活が推奨されています 烏川 ハル @haru_karasugawa

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