前世の記憶を持っている側近が、悪役令嬢に面会した時の会話の記録


 さて、お嬢さん。答え合わせと行こうか?


 えぇ? オレが誰だかわからない?

 あー、攻略対象でもない、ただのモブの顔は覚えてないって?

 あ? 違う?

 いやいや、そんな今更取り繕わなくたっていいんだぜー?


 まあね、アンタが婚約者を気づかって、執務室に差し入れにでも来てくれてたら、ご紹介にあずかる機会もあったと思うんだけどねー

 アンタは、全然、まったく、これっぽっちも婚約者のことを気づかわなかったからなァ

 というわけで、オレは殿下の側近だ。ついでにあいつの乳兄弟でもある

 だからね、アンタには言いたいことが山ほどあんの

 まったく、人の弟分になにしてくれてんのさ!


 あいつは、流行りものにも装飾品にも、全っ然キョーミないってのに、アンタに恥をかかせたくないからって、そりゃあもう、猛勉強して作らせたドレスも、花言葉まで調べて贈った花も、吟味に吟味を重ねて贈った宝石も、ぜぇーんぶ、アンタはドブに捨てるように扱ってくれたよなァ

 おまけに、もらった者の義務だから仕方なくって顔で、一度だけ身に着けたらそれっきり、お礼状も不敬にならないギリギリを攻めるみたいなそっけないもんしか返してこないし

 婚約者にそんな態度をとられて、あいつが傷つかないとでも思った?

 それとも、どーせ将来、自分を捨てる男だからどう扱っても構わないって?

 そういう態度が周囲からどういうふうに見られるのか、感じ取れなかったのがアンタの敗因だよ


 そう、敗因

 アンタは負けたの。オレに

 まー、びっくりするくらい簡単だったぜ?

 なにせ、アンタ、王命に真っ向から逆らってたからな!


 は? 心当たりがない?

 いや、何言ってんの?

 王太子の婚約者って、つまりは『王太子妃に任命された』ってことでしょ?

 なのに王太子と良好な関係を築く努力をしないどころか、全力で遠ざかってたじゃん?

 陛下、すっごい怒ってたぜー

 この身分制度ガッチガチの世界で、陛下の決定に逆らってんだからなー

 心証サイアク

 不敬罪まったなし!


 しかも、王妃様からの覚えも悪かったなァ

 ま、それは仕方ない、つーか、当然だけどなー

 前世感覚でのお姫様やってりゃ、貴族令嬢としては無能にしかならないだろーし?

 身分が高いってのはな、チヤホヤされるってことじゃねーんだよ


 そういうわけで、アンタを守ろうって思う奇特なヤツは殿下あいつしかいなかった

 は? あいつだけはマジでアンタを守ろうとしてたんだけど?

 あの時言った、「死ぬつもり」はあいつの本心だぜ?

 そもそも聖女サマとの浮気だって、アンタの思い込みだしな


 いや、マジだって

 聖女サマは王弟殿下の婚約者なんだよ

 もともとは普通に後見人をするだけのはずだったんだけどさぁ

 聖女サマいわく、王弟殿下は「好みドストライクのイケオジ」らしくてな

 なんだかんだで上手くいって、正式に婚約したんだよ

 つーか、フツーに考えて、アンタっていう婚約者がいるのに、あいつに話が行くわけないだろ?

 だから、学園で行動を共にしてたのは世話係としてだし

 アンタに女子寮での世話を任せるためにって、あえて婚約者持ちのあいつが世話係を任されたんだぜ?

 なのに、アンタは全然仕事しなかったからなぁ……そのせいで王妃様からの「無能」って印象が確定しちまって自業自得!

 ザマァ!


 とはいえ、アンタ以外の王太子妃がつとまりそうな令嬢は、軒並み婚約済みだったから

 その中から次の王太子妃を選んで、婚約解消をさせて、となると

 派閥の問題やら、力関係の調整やらで、破談になるのは1組や2組では済まなかったんだよな

 それもあって、「婚約者に弁明の機会を与えたい」っていうあいつの提案が受け入れられたわけだ

 ま、失敗するってわかりきってたけどな!

 アンタの行動基準、前世知識だって分かってたし


 は? 助言? アンタに?

 するわけないだろー? 寝言は寝てから言えよ?

 ――いや、目を開けたまま寝言が言えるほどのバカだから、こんな状況になったのか……?


 あー、はいはい。なんで助言しなかったのか、な

 あいつの願いは「このまま愛のない結婚をするくらいなら、死にたい」だぜ?

 弟分にそんなことを望ませた奴を、オレが助けると思う?

 ま、当たり前だけど無理だよな


 あ、ちなみにな。王太子妃の問題も片付いてっから、安心しろよー

 続編のヒロイン、で通じるか?

 そう、帝国の第六皇女サマな

 実力主義だからこそ、長男長女じゃなくても皇帝になれる、ってことで

 後継者争いから逃れるために他国に避難して

 けど、皮肉なことに避難していたからこそ

 祖国で疫病が流行った結果、唯一の皇族として国を治めることになる、ていう、あの皇女サマだ

 避難先の国って、実はウチだったんだよなー


 それで彼女、あいつに惚れてたんだって

 きっかけは「異国の地で不安だった時に優しくしてもらえて……」ていうよくある話な

 その上、アンタという婚約者がいたから諦めていたけどー、てのも、よくある話だよなァ?

 というわけで、逆プロポーズが来た

 ウチとしてはこれ以上ない話だし、このまま進めると思うぜ


 は? 疫病?

 未来の皇帝と、王太子では結婚できないんじゃないか、って?

 アンタって、本当に真正のバカなの?


 帝国の薬草マニアに、特効薬の原料となる薬草を送っといたんだよ

 いただろ? 続編の攻略対象に「特効薬を作ったけど、一歩間に合わなかった」て後悔してるヤツ

 早めに研究を始めたことで、流行が致命的になる前に薬ができたってさ

 だから、この世界の皇帝一家は、みんな無事だぜ

 つまり、この世界の第六皇女サマは好きな相手に嫁ぐことができるってワケ

 前世の知識ってのはな、こういうふうに使うんだよ


 ――さて、ここでクエスチョン!

 国内では、最大派閥の公爵家とはいえ、国外には大して影響力のない家の令嬢と

 支配地域も広く、影響力の及ぶ国も多い、帝国の皇女サマ

 この国にとって大事なのは、さて、どっちでしょう?


 ああ、その顔は、ちゃんとわかってくれたんだな?

 弟分に「死にたい」なんて願わせたアンタには、ちゃんと破滅してもらいたいからさ

 オレ、根回し頑張ったんだぜ!


 ま、そういうわけだから、残り少ない余生は、自分を大事にしてくれた婚約者をないがしろにしたことを後悔して生きろよ?

 別に、逃した魚は大きかった、でもいいけどな?

 ――アンタが身に着けていた【婚約者からの贈り物】を見て、アンタが愛されていないなんて思う奴は、一人としていなかったんだぜ

 なのに、アンタは「自分は将来、浮気されて捨てられる」って吹聴してたんだってな?

 だから、今、この国にアンタを助けようって人間は一人もいない

 誰もが、みーんな【可哀そうな王太子様】の味方だ

 前世知識の通りに進めば『ざまぁ』ができる、なぁんて思わず謙虚に生きてりゃ、アンタは今頃【幸せな王太子妃】として、国中から祝福される立場だったろうになァ

 残念だったなごしゅーしょーさま

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はめられた悪役令嬢と、ヒロインに騙されたわけではない王子様の話 影夏 @eika-yaga

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