第171話 残された2人
「子は親を選べないなどと言いますが…私は魔王様の下へ生まれた事を誇りに思いますよ…」
3号が消えた後に、ルーファスがボソリと呟くように言葉を漏らす。
そして、3号のいた場所には、黒い魔石が残されていた。
「おや?これは…。どうやら、ここの主はすでに取り込まれていたということですか。手間が省けましたね」
ルーファスがその魔石…迷宮核を拾い上げる。
「さて…、後は…」
パチンッ!と指を鳴らすと、李孔明と劉王威の2人を守っていた結界が砕け散った。
「か、勝ったのか…?」
「なぁ…あんた…」
「ええ。ここの脅威は排除しました。もうこの迷宮に魔物が発生することはないので安心してください」
「なに!?…そ、それは…どういう…?」
突如して宣言された事に、李が聞き返す。
「これが、この迷宮の核です。迷宮核を持っている魔物を倒すと、その迷宮は機能を停止します」
「そういえば…そのような報告は受けたことがある…。その…無理を承知でお頼み申す。
「それは無理ですね。これの回収も私の使命ですので」
「我が国では、迷宮内の拾得物の所有権は国に帰属するのだが…」
「ほぅ…この私から奪うと?」
ルーファスの雰囲気が変わる。
「い、いや!そういうわけでは…」
ポンっと、李の肩に劉の手が置かれ、劉王威は首を横に振った。
「おっさん…あきらめな。せっかく拾った命をむざむざ捨てるもんじゃないぜ」
「そうだな…。申し訳ない。恩を仇で返すような真似をしてしまった…謝罪する。せめて、名を教えてはもらえないだろうか?上に報告せんわけにはいかんのだ…」
「ふむ…まぁ、いいでしょう。我が名は、ルーファス・クロノワール。日本の冒険者、獅童真央様に仕える者です」
「獅童真央…聞いたことがある。確か、数ヶ月前に冒険者ランキングの1位を更新した男の名前だったような…抹消されたという話ではなかったかな?」
「我が主は…冒険者ギルドとは袂を分かち、今は個人として動いておられます。私がここに派遣されたのも、そういう理由からですよ」
「なるほどな…ならば、改めて、そなたと、そなたの主に対して、我々を助けてくれたこと、そして、我が国を救ってくれたことに感謝を申し上げる」
「受け取りましょう。では、私はこれで、失礼させていただきます。では」
そう言い残し、ルーファスはその場から消えた。現れた時と同じように転移によって移動したのだろう。
…
「行ってしまったか…」
「そうだな…」
残された2人が顔を見合わせ、怒涛のような一連の事象を振り返る。
「それで?この後はどうするつもりだ?」
「そうだな…まずは、これか」
李孔明が、懐から一枚の紙を取り出し、破り捨てた。
「これで、貴様は晴れて自由の身だ」
「いいのかよ?」
「ふっ…どうせ地上に戻れば、処罰される身だ。権限があるうちに行使せねばな。課程はどうあれ、この故宮迷宮の事件は解決したのだから、問題あるまい」
「おっさん…処罰は免れないのか?」
「日本人に手柄を奪われたなどと報告すれば、まず間違いないだろう…せめて、あの迷宮核とかいう魔石でもあればな…」
「そりゃあ…無理だな。ん?…なぁ、あれは使えないか?」
「あれ?」
劉王威の指差した先には、倒れている首のない魔物と、血の海に沈んでいる魔物…
「まさか…貴様…そんなことができるのか?」
「やってみなけりゃわからんが…実は、奴らが倒された時にレベルアップしたみたいでな…」
「使えそうなスキルを手に入れたか。だが、いいのか?仮にそれが成功したならば…あれだけの戦力を抱えた貴様を上は手放さんぞ?」
「ふっ…人の手によって生み出された魔物らしいじゃないか。軍に渡せば、喜びそうだろ?」
「確かにな。閣下が喜びそうな手土産だ…しかし、どういう風の吹き回しだ?貴様らしくもない」
「確かに、俺は、俺のスキルに魅了された。強い戦力を集めるために、味方殺しまでやるほどにな…だが、今日はっきりとわかったよ。俺の求めていた強さなど、大海を知らぬ蛙の背伸びでしかなかったということをな」
「ルーファス・クロノワールとその主…か。彼らは一体何者なのだろうな…とても人の到達できる強さとは思えん…」
「そういうことだ。この先どうなるのか、あんたなら想像がつくだろ?」
「我が国の国家主席殿は、どうも、強い中国を諦めきれんらしいからな…いずれ、日本と事を構える事となるやも知れぬ…その時に立ち塞がるのは、彼らというわけか…」
「俺はゴメンだぜ。聞いていただろ?あのルーファスって男は、世界中で同じような事が起きているのを、我々で対処してるって言ってたんだぞ。つまり、奴と同程度の戦力が世界中の危機を救えるほど存在してるってことじゃないか。そんな相手と戦争にすらならないぞ」
「報告とともに進言しておく。聞き入れてもらえるかはわからんが…な」
「ふっ…もしあんたが処断されるようなことになるなら、その後は俺が使ってやるよ」
「新しい就職先の斡旋か?笑えぬ冗談だな」
「そうならないように、上手くやれってことさ。さて、ならやるとするか!
倒れ伏す2体の魔物の死骸に向けて、劉王威がスキルを発動する。
「くっ…これは…思ってたより、きついな…」
劉のSPが急激に消費され、意識が飛びそうになるのを耐えながら、死体の支配に全精力を注ぐ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
全身から汗を吹き出しながら、肩で息をする劉王威の背後に、獣と鳥の魔物が立ち上がっていた。
「どうやら、本当に成功したようだな」
「あぁ。だが、暫くは一歩も動けそうにないぜ」
「慌てることはない。この迷宮には、もう魔物は出ないらしいからな…」
「迷宮の機能を停止させる…か。そんなこと考えた事すらなかったぜ…」
「我々にはまだ知らぬ事がたくさんあるのだろう」
「そういうのはお偉いさんに任せるよ。悪いな…少し眠る…」
…
…
それから、程なくして、魔物の出なくなった迷宮から、彼らは帰還した。
その後の彼らの足取りを知る者はいない…
―――――――――――――――――
あとがき。
この2人がどうなったのか…は皆さんのご想像にお任せします。
不定期更新ですが、
次回は…
舞台はアメリカへ!
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ハズレ職業の召喚士〜かつての魔王は最強の魔物達を召喚します〜 ファマ @farmer-tsune
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