第170話 マドゥーサの最期

 ザシュッ!ドサリ。


 ほんの一瞬の静寂の後、音とした方へ目を向けると…


 そこには…ドバドバと血を流し、首から上を失い、胴体だけとなった四脚の獣が倒れていた。

 ルーファスの手には輝く剣が握られており、もう片方の手には、だらんと舌を出したまま、光を失った四つの瞳の生首が血を滴らせ、無造作に掴まれている。


「何じゃと!バカな!?」

(今、何が起こったというのじゃ…儂の目にも見えんかった…)


 ポイっと、その生首をマドゥーサの方へと投げ捨てるルーファス。

「まずは1匹」


 ドサッ。


 眼の前に落ちた、自慢の合成獣キメラの首を見て、マドゥーサは警戒心を高める。

(何が起きたのかはわからんが…近づくのは危険かもしれん…)


「1号!遠距離から倒すのじゃ!」

「クェェ!!」

 1号と呼ばれたのは、鳥の魔物。

 空中へと飛び上がり、魔法をうまく使いながら上空に留まる。

 極彩色の翼を拡げると、100を超える魔法陣が展開された。

「この私に魔法戦を挑むとは…蛮勇か、それとも愚者か…」

 ルーファスの口角が上がる。


 魔法陣が輝き、そこから色とりどりの魔法が放たれる。

 極彩色の羽は、この魔物が全属性を操れるという証左なのだ。


 ドガドガドガドガ………ズガァーン!!!


 そして、その放たれた魔法の全てが、1

「キュ…キュウン…」

 ダメージを受け、よろよろと落ちてくる鳥の魔物。

「い、1号!」

(どういうことじゃ?…奴が動く素振りはなかった…。まさか、1号の魔法の制御を全て奪い取ったとでも言うのか…?いやいやいや!そんなことは有り得ん!あの短時間にあれだけの数の魔法の制御を上書きするなど…この儂ですら不可能じゃ。そもそも、何故やつは1号の動きを見切れるのじゃ?儂の怠惰領域は完璧のはず…)

 混乱するマドゥーサ。

 すると、床に落ち、伏している1号の身体が突然、血飛沫をあげて斬り裂かれた。

「グェエエエーーーー!!!!」

 断末魔の悲鳴をあげ、鳥の魔物は力尽きた。

「い、今のは…確かに斬撃!?一体何が起きておるのじゃ…お主!今何をした!?」

 マドゥーサは問わずにはいられなかった、考えても答えがでないのだ。

「儂の領域内では【速さ】が著しく低下するはず…儂の目にも見えぬほどの速さで動くなど…できるわけがない!!」

 明らかに狼狽えている。


「答えてあげる義理はないのですが…簡単な話ですよ」

 ルーファスが持つ輝く剣が霧散して消える。どうやら会話に応じるようだ。


「例えどんなに速く動く存在でも、時間を止めてしまえば、ただの動かぬ的です」


「時間を…止めた…じゃと!?」


 いとも簡単に告げられた事実を、マドゥーサは理解することができなかった。

 時を操るなど、どう考えても不可能でしかないと思えたからだ。

 だが、今、眼の前にいる存在は、それが可能だと言う。

「ふ、ふ、ふ、ふざけるなぁ!そんな馬鹿げたこと!できるはず…」

「あなたがどう思おうが勝手ですが、これが事実ですので」

「そ、そんな…じゃが!魔王の下僕が勇者の因子を持つ、儂の合成獣キメラにダメージを与えることなど、できるわけがないんじゃ!」

「それも簡単な話です。今の私は魔王の下僕ではありませんので」

「何じゃと!?」

「我が主は、女神に科せられた魔王という宿業から解き放たれていますので。勇者の因子とやらが我々に影響を及ぼすことはないのですよ。おわかりになりましたか?」

 余裕たっぷりに、ニヤリと笑いながら説明するルーファス。


「何ということじゃ…」

(マ、マズい。マズい…マズいぞ…奴の話が本当だとしたら…今の儂に勝ち目はない…どうにか逃げる隙を作らねば…)

「3号!儂が転移を発動させるまでの時間を稼ぐのじゃ!」

 マドゥーサが、最後に残った巨人へ命令をする。

「イ、嫌ダ…オデ…死ニダグナイ…」

 あろうことか、3号と呼ばれた巨人が命令を拒否する。

「何じゃと!?この木偶の坊がっ!生みの親の言うことが聞けんのか!」

 命令を拒否されたことにマドゥーサが怒る。

「サッサと行かんか!このウスノロ!」


 ドカン!


 と、動かない巨人の足を蹴る。

 マドゥーサへ何かを懇願するような視線を向けた後、3号は渋々と、重い足取りで一歩前へと踏み出した。


「ほぅ。恐怖を感じるだけの知能はあるようですね」

 対峙するルーファスが、再び、魔力を硬化させた輝く剣を実体化する。


「ウウ…オデ勝テナイ…ドウスレバ…」


 3号は怯えている。


「はぁ…どうやら精神もまだ未熟。今まで、その能力の高さで弱者を屠ってきたのでしょうが…本当の強敵に出会ったことなどないのでしょう?せめて苦しまずに終わらせて差し上げます」

 輝く剣を突きつけられ、ビクッ!っと、ルーファスの宣言に3号の恐怖心が極限を超えた。


「力…モット力ガアレバ…力ガ欲シイ…」

 3号の目に狂気が宿る。


(くそっ!くそくそくそ!全く想定外の事態じゃ!合成獣キメラなど、いくらでも作れる。この儂の頭脳が失われることこそ最大の損失じゃ!早く転移を発動させねば…あっ…)

 マドゥーサの意識はそこで途切れた。



 バリボリバリボリ…ムシャムシャ…ゴクン。


「ガァアアアアアアア!!!!!」


 マドゥーサを頭から食べた巨人が雄叫びをあげた。


 ドサッ。

 上半身を失い、倒れたマドゥーサの亡骸に侮蔑の視線を向け、

「子供達などと可愛がる素振りを見せていた割には、最後は捨て駒として見捨てましたか。当然の報いです。あなたには似合いの末路でしたね」

 ルーファスが吐き捨てるように言った。


「力ガ漲ル!オデハ…負ケナイ!」

「足りない力を補うために、今この場でのレベルアップを図りましたか…目論見は成功したようですが…相手が悪かったですね」

 鑑定をするまでもなく、相手の力量を正確に見抜いているルーファスには、巨人のレベルアップも何の脅威にも感じなかった。


「あなたに恨みはないのですが、生まれの不幸を呪いなさい。時間凍結タイムフリーズ


 ルーファスが時を止めた。


黒穴ブラックホール

 せめて苦しまぬように…と、手にした剣による攻撃ではなく、魔法による攻撃でを選択し、ルーファスの指先から、ほんのピンポン球程度の黒球が、3号に向けて放たれた。


 揺ら揺らと周囲の空間を歪ませながら、黒球が巨人に到達した。

 その着弾点から、全てを巻き込む渦が巨人の身体を圧縮し、捩じ切りながら飲み込んでいく。


 止められた時の中で、痛みも苦痛も感じる事もなく、自らが死んだことすら気づかないまま、3号は消滅した。

 ―――――――――――――――――

 あとがき。


 マドゥーサの結末は、実は未定だったのですが、こういう形になりました。

 マドゥーサ・エスト…名前の由来はマッド・サイエンティストです。安易ですね。


 不定期更新ですが、最後ラストまで頑張って書き切りたいと思ってますので、お待ち下さい。


 次回は…

 マドゥーサ編の終了となります。

 

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