第169話 合成獣

 マドゥーサ・エストは、突然現れた闖入者の一挙手一投足をつぶさに観察していた。

(欠損を治すじゃと?この魔力といい…一筋縄ではいかん相手か…しかし…あやつ、どこかで…?)

 先程から、ルーファスが放つ濃密で膨大な魔力は、マドゥーサ達の動きを牽制していたため、迂闊な行動に出れなかったというのもあるが…

 マドゥーサは記憶の片隅に、何か引っかかるような感覚を感じていた。

 …

 …


「さぁ、始めましょうか」


「そうか!思い出したぞい。お主…魔王の側近におった高位悪魔じゃな?」

 マドゥーサ達の方へと向き直ったルーファスの姿を見て、ようやく、記憶の糸が繋がったのか、マドゥーサは今、この場に現れた者の素性を正確に把握した。


「ふぇっふぇっふぇっ!魔王が復活しておったという話は聞いておったが…正体さえ分かれば、警戒する程の事でもなかったわい。いや、むしろ獲物が自らやってきたことを喜ぶべきかのぅ?」

「大した自信ですね。あの時の私と同じだと思ったら後悔しますよ?」

「女神の制約のことを言っておるのかの?」

「!!何故それを…!?」

 マドゥーサから思いがけない言葉が出てきたことに、ルーファスは驚いた。

 …

 …

「魔王とか悪魔とか、やつらは何の事を言っているんだ?」

「さぁな?わからん…が、どうやら全く見知らぬ仲という訳ではなさそうだ」

「何にせよ、俺達はここから出られそうにないし、ただ見ていることしかできないってわけか…」

「命が助かっただけでも儲け物と思うべきだろうな。まぁ、あの男がやつらに勝てればの話だが…」

「勝てると思うか?」

「どうだろうな…ただ、一つ言えることは、勝てなければ俺達も死ぬということだけだ」

 断片的に聞こえてくる会話の様子を、結界内に閉じ込められた李と劉は拾いながら、事態の推移を見届けることにした。

 …

 …

「話してもらいましょうか」

 ルーファスは、女神に関する情報が得られるかもしれないと判断し、牽制程度に放っていた魔力の出力を高め、マドゥーサを威圧する。

「そういきり立つでないわ!まぁ、これから死にゆく者に儂の研究成果を聞かせてやるのも一興かの」

 そう言いながら、マドゥーサが語り始めた。


「発端は魔王討伐のあの日のことじゃ…」

 いきなり苦い記憶を引き出され、ルーファスの顔が歪むが、冷静を保ち、続きを聞く。

「当時の勇者リヒトに、魔王を倒すだけの力量レベルはなかった。じゃが蓋を開けてみると、勇者の一撃で魔王は討伐されてしもうた」

 やはり、その程度の実力だったか。と、ルーファスは納得する。

「そこで、儂は勇者に興味を持ったのじゃ。そんな折、教会が勇者を飼いならす計画があるという噂を聞いての。儂もその一端を担うことにした」

(勇者リヒトの隷属には、この魔道士も関わっていた…ということですか…あの男も憐れですね)

「そして、勇者についての研究を始め、気がついたのじゃよ。勇者と魔王の関係に」

「女神の制約…」

「そうじゃ!勇者とは魔王に対する絶対の存在!それが世界のことわりであり、女神様が定めた制約ルールじゃ!それは誰であっても覆すことのできない絶対の真理なのじゃよ!」

 興奮冷めやらぬといった感じで、声高に演説を続けるマドゥーサに対して、ルーファスが話を打ち切る。

「なるほど…よくわかりました。もう結構です」

 この男は女神に関する情報は持っていないと判断した。


「何じゃ?これからが面白いところじゃぞ?」

 もう聞くつもりはないと宣言したルーファスを無視して、マドゥーサは話を続ける。

「儂は実験動物勇者リヒトを研究し続けた。そして、彼奴の細胞を複製し、魔物と掛け合わせて生み出したのがここにおる合成獣キメラなんじゃよ」

 得意気に、自らの研究成果を自慢するマドゥーサに対して、ルーファスは冷ややかな視線を送る。

「なるほど…新たな魔物を生み出す行為に関して、とやかく言うつもりはありませんが…ご自慢の合成獣キメラとやらも今日ここで滅びるのですから、共に過ごす最後の時間くらいは待ってあげてもいいですよ?」

「んん?話を聞いておらんかったのかの?儂の子供達は勇者の因子を受け継いでおるのじゃ。魔王の下僕のお主が勝つことなど不可能じゃぞ?ふぇっふぇっふぇっ」

「御託は結構です。猶予は必要ないと言うのなら、あまり時間もかけたくないので、始めましょうか」

 手のひらを自分の方へ向け、相手を挑発するように動かす。


「やれやれ…死に急ぎたいようじゃの」

「クゥ〜ン」

 呆れるマドゥーサに、獣の魔物が顔を擦り寄せ、甘えた声で鳴く。

「何じゃ?2号や。お前はさっき食べたじゃろうに…まだ足りぬのかえ?まぁ、ええわい。好きにせい」

「ワォン!」

 主の許可をもらい、喜ぶような一鳴きをした2号と呼ばれた獣の魔物の尻尾がぶんぶん!と揺れている。

「2号?それがそいつの名前ですか?」

 ふと気になったことをつい尋ねてしまった。

「名前などただの飾りじゃろ?管理しやすいように番号で十分じゃ」

「そうですか…」

 もう、これ以上の問答は無用だと感じ、戦闘態勢をとった。


 獣の魔物…2号もやる気は十分といった感じに、ルーファスの方を向き、四つの紅い瞳が醜悪に歪む。笑っているのだろうか?

 次の瞬間、2号の姿が掻き消えた。否、高速で動いているため、その姿を捉えることができないのだ。


 ザシュッ!!ドサリ。


 肉を断つような音と共に、何かが倒れるような音がした。

 ―――――――――――――――――

 あとがき。


 うぅ…またもや予告詐欺でごめんなさい…

 3体の魔物達の設定をようやく出せました。戦闘開始です。


 不定期更新ですが、最後ラストまで頑張って書き切りたいと思ってますので、お待ち下さい。


 次回こそは…

 マドゥーサさん退場となります。

 

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