呪われた龍にくちづけを番外編 明珠と安理の留守番ごはん♪

綾束 乙@4/25書籍2冊同時発売!

明珠と安理の留守番ごはん♪


~作者注~

 すみません~っ! KAC参加作ですが、お題の「二刀流」で適当な話題が思い浮かばなかった結果、「呪われた龍にくちづけを」の第三幕の番外編になってしまいました~!(><)

 最新話付近どころか、ちょっと先の裏話という……(;´∀`)

 ネタバレはアウト! という方はまた別の作品でお会いできたら嬉しいなと思います~!(ぺこり)


   ◇   ◇   ◇


 龍華国りゅうかこくと並ぶ大国・震雷国しんらいこくの第二皇子・雷炎らいえんの歓迎の宴に出ていく主の龍翔りゅうしょうを見送り、安理あんりと二人で留守番をしていた明珠の耳に、扉を叩く音が聞こえたのは、留守番を始めてまだ半刻(約一時間)も立たない頃だった。


夕餉ゆうげをお持ちいたしました」


 侍女の声に、安理が「はいは~い」と軽やかな声で答える。


「あっ、私が……」


 安理に働かせては申し訳ない。


 あわてて立ち上がろうとした明珠を、


「いーから、いーから。明珠チャンは座ってなよ♪」

 と押し留め、安理が立ち上がる。


「まあ、十中八九だいじょーぶだと思うけど、もし玲泉れいぜんサマの策だったらアブナイからね~」


 宴に出る前に、龍翔からは決して玲泉に会ってはいけないと厳しく言われている。


 どうやら安理は、夕餉を侍女に運んでくるのを隠れみのにして玲泉が来ている可能性を警戒しているらしい。


 もし、扉を開けた瞬間、玲泉が立っていたら、明珠ならびっくりしてまったく反応できないに違いない。


「すみません。じゃあお任せします……」


 ぺこりと頭を下げると「気にしないでいってば」と、からりと笑った安理が戸口へ向かう。


 侍女と二言三言やりとりした安理が、大きな盆を受け取り、満面の笑みで振り返る。


「じゃじゃーん! 龍翔サマからの宴の料理のおすそわけが届いたよ~♪ いや~っ、さすが明珠チャン! これ、ほんとに宴に出てる料理をそのまま持って来てるんじゃナイ?」


「わぁ……っ!」


 弾むような足取りで戻ってきた安理が持つ盆の上を見た途端、明珠の口からも感嘆の声がこぼれる。


 白身魚と青菜の炒め物に、すり身団子に琥珀色こはくいろあんをかけたもの。

 こんがりと焼き色のついた肉は鶏だろうか。魚を丸ごと使った焼き魚は飾り切りされた野菜で彩られ、色とりどりの野菜と卵が入った汁物に、貝を散らしたかゆなどなど……。


 盆の上には二人では食べきれないほどの多種多様な料理の皿がところ狭しと置かれていた。


「お留守番をしているだけなのに、こんな豪華な料理をいただけるなんて……。なんだか申し訳ないです」


 龍翔の心遣いは本当に嬉しいが、同時に、役立たずの明珠にこれほど気を遣ってくれるなんてと、恐縮してしまう。


 盆から卓に皿を移すのを手伝いながら告げると、安理がにへらと笑みを浮かべた。


「え~っ、そんなの気にしなくていいってば~♪ 明珠チャンはじゅーぶんに役に立ってると思うっスよ~♪ いやもう、龍翔サマと明珠チャンほどオレを楽しませてくれる存在はいないって断言してもいいほどだからっ!」


「はあ……?」


 力強く言い切られても、それが喜んでいいことなのか、とっさに判断がつかない。

 と、卓に料理を並べら終えた安理が、


「あー、やっぱりかぁ……」

 と顔をしかめた。


「どうかしたんですか?」


「いや、予想はしてたんだけど、やっぱり酒は用意されてないんだなー、って。あーもうっ、せっかくのこんな豪華な料理なのに、酒がないなんて……っ!」


 お酒をまったく飲まない明珠には安理の気持ちはさっぱりわからないが、かなり残念なのだろう。安理は哀しげに肩を落としている。


 乾晶けんしょうの総督官邸で龍翔が宴に出て、今日のように安理と明珠で留守番をした時には、瓶子へいしに入れた酒が供されたのだが……。


 もし龍翔の指示で酒が禁止されたということなら、それだけ警戒を強めているということだろう。


 ただでさえ、留守番の明珠に護衛として安理をつけてもらっているだけでも心苦しいのに、その安理にも迷惑をかけてしまうとは、どうして自分はこんなに役立たずなのだろうと胸が痛くなる。


「すみません。安理さん。私のせいで……」


 肩を落として詫びると、安理が「うぇっ!?」と変な声を上げた。


「明珠チャン? 急にどーしたの?」


「だって、私がひとりでちゃんとお留守番をできたら、安理さんだってお酒を飲めたかもしれないのに……」


「えぇっ!? そんなコト気にしなくていいって! いやほら、龍翔サマだってお酒を断ってらっしゃるしさ。オレだけ飲むワケにはいかないってゆーか……。やっぱ、万が一のコトがあった時に、手元が狂うようなことがあったらマズイしね~」


「安理さんも、やっぱり剣の腕が立つんですよね?」


 明珠は安理が戦うところをしっかりと見たことはない。

 だが、龍翔に重用されているのだ。安理の腕が立つのは十分予想できる。


 向かいに座る安理の目をじっと見つめると、


「まぁ、そりゃあね」

 と、安理がにやりと唇を吊り上げた。


「さすがに、真っ向から勝負したら張宇サンには勝てないだろーけど、戦いってのは、いつも正々堂々とは限らないからね~♪ 状況次第じゃ、龍翔サマにだって、勝てないまでも負けない自信はあるねっ♪」


「ええっ!? 龍翔様にもですか!?」


 思わずすっとんきょうな声が飛び出す。


 脳裏に甦るのは、晟藍国せいらんこくへ向かう途中、船の甲板で模擬戦を行っていた龍翔と玲泉の姿だ。


 模擬戦なので、本気の戦いというわけではなかったが、剣を打ち交わす二人の姿は、まるで舞っているかのように凛々しく優美で、見惚れずにはいられなかった。


「玲泉様との模擬戦を拝見しましたけれど……。龍翔様は、《蟲招術ちゅうしょうじゅつ》を使えるだけでなく、剣の腕も優れてらっしゃいますよね。その龍翔様にも負けないなんて……っ! 安理さんって本当にすごいんですねっ!」


 尊敬のまなざしで安理を見つめると、「ふっふ~ん♪」と安理が胸をそらした。


「まぁね~♪ 明珠チャンにもオレの活躍を見せてあげられたらいいんだろうけど……。まっ、危ないことは起こらないに越したコトはないしね♪ どーしても見たいってゆーんなら、帰りの船ででも龍翔サマと模擬戦でもしてあげよっか? 明珠チャンが見たいってことなら、龍翔サマも嫌とは言わないだろーしね♪」


「前に、玲泉様と模擬戦をされていた龍翔様は本当に素敵でしたよね……っ! 戦っているというのに、まるでお二人で舞を舞ってらっしゃるようでした!」


 龍翔と玲泉との模擬戦を思い出し、うっとりと呟く。


「……あ、そういえば。むか~し、一度だけ王城の催し物で一緒に剣舞を踊ったことがあるんスよ、あのお二人」


「えっ!? そうなんですか?」


「うん。二年くらい前だったかな~。二人ともきらびやかに盛装して、こう両手に剣を持った二刀流で……」


 安理が剣の代わりにはしを一本ずつ握って構える。その姿も堂に入っていて見事だ。


「それは……。さぞ素敵だったでしょうねぇ……」


 どんなにか素晴らしかっただろうと想像の翼をはためかせるが、明珠の貧困な想像力では絶対に実際の光景の十分の一にも及ばないだろうということだけは、はっきりわかる。


 うっとりと呟いた明珠に安理が大きく頷いた。


「うん。あの時はほんともー、すごかったよ……っ! 女官どころか高官達も、男女問わずに龍翔サマと玲泉サマに見惚れちゃって……。いや~、顔が売れたのはよかったけど、それ以上に、後始末が大変でさぁ……」


 顔を輝かせていた安理が、何を思い出したのか、最後はげっそりとした顔で呟く。

 よくわからないが、大変なことがあったらしい。


「まっ、気になるんなら、龍翔様に聞いてみなよ♪ まあ、今あの二人に剣を持たせたら、確実に剣舞じゃなくて斬り合いになっちゃいそーだけど♪」


 きしし、と人の悪い顔で笑った安理が、


「それよりも、せっかくの料理なんだから冷めないうちに食べようぜ~♪ 明珠チャンもお腹すいたでデショ?」


 と箸と取り皿を渡してくれる。


「ありがとうございます。すみません、なんか余計な話をしてしまって……」


「いいっていいて。ほらそれより食べなよ♪ おいしいモノを食べたら元気も出るって♪」


 安理に促され、目の前の皿に入っていたきくらげと青菜と揚げた魚の炒め物を口に運ぶ。


「っ! おいしいです……っ!」


 ぱりっと皮まで上げられた淡白な白身魚には香辛料が効き、緑もあざやかな青菜のしゃきしゃきした食感と、きくらげの独特の食感が口の中で調和を奏でる。


 ぷくくっ、と安理が吹き出した。


「いや~っ、ほんっと明珠チャンは見てるこっちが幸せになるくらいおいしそーに食べるよね~♪」


「だって、本当においしいんですもん! 安理さんもどうぞ食べてください!」


 明珠の勧めに箸を動かした安理が、「うん、こりゃあ美味いわ♪」と太鼓判を押す。


「でしょう!? は~~っ、おいしくて幸せです……っ!」


 龍翔に仕えて一番幸せなことはと問われたら、絶対に一番はおいしいごはんを食べられることだと答える。


 幸せに浸りながら舌鼓を打っていると、ふと安理が真面目な顔で呟いた。


「二刀流、かぁ……。もし玲泉サマが明珠チャンを手に入れたりしたら……。まさしく二刀流?」


「安理さん?」


 きょとん、と首をかしげると、安理があわてたように手を振った。


「いやっ、何でもない! 忘れて忘れて! 明珠チャンにろくでもないコトを吹き込んだってバレたら、龍翔サマに叩き斬られちゃうから、オレ!」


「はあ……?」


「あっ、それよりもさ! そんなに料理が気に入ったんなら、龍翔サマに改めてお礼を言ってあげたら? 明珠チャンがこんなに喜んでたって知ったら、龍翔サマも絶対喜ぶから!」


「そうですね! はいっ、ちゃんとお礼を申し上げます!」


 口の中の料理を噛み下し、安理の提案に明珠は笑顔で頷いた。



                          おわり


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