うちのケモミミモフッ子が、真面目顔で悩んでる。

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第1話 必殺★二刀流が、必ずしも正解じゃない



 宿屋・天使のゆりかご。

 そこに併設されてる客で賑やかな食堂に、ケモ耳少女が座っていた。


 金色の毛並みのキツネ耳とモフ尻尾。

 お気に入りの赤いコートがよく似合うの8歳のその女の子は、今日もいつもの特等席で足をブラブラさせながら晩ごはんに舌鼓を打って――いない。


 先程からずっと険しい顔で、まだ鉄板がジュージュー言ってるコロコロステーキとデザートプリンの二つを並べて睨めっこをしているのだ。


「ねぇアルドくん。どうしたんだい? 今日のクイナちゃん。あ、もしかしてちょっと体調不良なのかな」


 宿屋の店主でこの食堂のコックでもあるグイードが、俺にこっそりと耳打ちしてくる。



 彼が不審に思うのも、全くもって無理はない。

 だって今彼女の目の前にある2つは、紛れもない大好物。

 いつもなら、来た途端にかっ喰らい始めるくらいなのだから。


 が、彼女に健康上の問題なんて微塵もない。

 それを知っている俺は、思わず苦笑してしまいつつ「いえ、そんな事はないんですが……」と応じるしかない。

 

 

 そんな俺の反応に、グイードは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 が、俺が説明する前に、クイナがブツブツ自白した。


「うーん、大好きなお肉と大好きなプリン……どっちから食べるべきなのか。究極の選択なの……」

「いやまぁそんなに悩まなくても、プリンはデザートなんだしさ、普通に肉食べた後に食べればいいじゃないか?」


 というか、今まで何も疑わずにそうして来た事である。

 今後もそれでいいじゃないか。


 俺はそう思うのだが、どうやらクイナは違うらしい。


「クイナ、気づいてしまったの。いつもお肉が先だけど、それじゃぁプリンに失礼なの。プリンもとっても大好きなの!」


 別にお肉を贔屓したい訳じゃないの!

 そう言って、クイナはキツネ耳としっぽをピピンッと立てる。


 うーん、なるほど。

 クイナ的には、どうやらいつも肉が先、プリンが後という食べ順が、プリンに対する不公平だと思えるらしい。


「一体それで誰が困るのか……」


 口の中でそう呟きつつ、「はぁ」と小さく息を吐く。



 正直言って、どっちでも良い。

 それよりむしろ、せっかくグイードが焼いてくれたコロコロ肉が冷める方が、問題のような気さえしている。


 が、見ればクイナはあくまでも本気で悩んでる様子だ。


「今までで一番の難題なの……」


 彼女にしては珍しく、眉間に皺を寄せて真面目顔でムムムッと唸っている。

 それを見れば、少なくとも彼女にとってはかなりの難題なのだろう。

 

 その真面目な顔をどうしても邪険にする気にはなれなくて、仕方がなくジュージューと焼けている肉を前に、俺も解決策を模索する。


「いつも肉を贔屓(?)してるなら、今日はプリンを優先すれば?」

「でもそうしたら、お肉への裏切りな気がするの。『いつも先に食べてたのに』って」


 そんな裏切りを働いても誰も何も言わないぞ……とはやはり言えず、俺は「うーん」と次を考える。


「じゃぁ食べる順番を毎日変えるのは?」

「今まで何回食べてきたか分からないから、平等がとっても難しいの……」


 えぇー、そんな所まで気にするのかよ。

 ……なんて言葉をギリギリなところで飲み込んで、「えーっと」とまた首を捻る。

 が、そう簡単に新たな案など出てこない。


 これ以上を言い淀んでしまったところで、クイナの耳がヘチャンとなった。


「それもそれも、クイナが一等賞を決められないからいけないの……。クイナはきっと、ゆーじゅーふだんでダメなヤツなの」


 そんな言葉、一体どこで覚えてきたんだよお前。

 出来ればそう突っ込みたかったが、尻尾までヘニョリンとなったクイナにそんな茶々入れられない。



 ――とりあえず、何か案を。

 そんな気持ちで考えに考え、しかしやはりこれ以上のものは出てこず、その結果絞り出したのが、この言葉。


「もうこうなったら、肉とプリンを同時に口に入れるとかしか……」


 いや、何も本当にそうすれば良いとは思ってない。

 これはただ「こんなしょうもないボツ案しか思いつかない」というお手上げ感を示したい。

 そんな意志の現れだった。



 だから、次のクイナの反応に思わず驚く。

 

「目から鱗、飛び出ちゃったの」


 それを言うなら『落ちちゃった』だろ……って、そうじゃない。


「アルドとっても名案なのっ!」


 本当にやるつもりか、このキツネっ子。

 思わずそんな驚愕の目を向けてしまった。


 自分で言っといて何だけど、それは辞めとけ。

 だって絶対――。





 

「じゃん! なの!!」


 クイナは今、左手にフォーク右手にスプーンを持っている。


 そう、結局止められなかった。

 一応やんわりと忠告したが、キラキラの目をしたクイナはもう止められない。


 ……え?

 何をするのかって?

 そんなの分かりきってるだろう。


 クイナから向かって左にお肉と、右にプリン。

 そしてるんるんクイナの両手には、フォークとスプーンという装備である。

 あとはもう、察してほしい。



 装備を整えたクイナに、「おっ、クイナちゃん二刀流だな!」「かっこいいぞぉ〜!」なんて囃し立てる声が掛かる。


 見れば、常連連中だ。

 この飲んだくれども、無責任にもクイナを楽しい酒の肴にしようとしている。

 

 クイナはそれに、ノリノリだ。

 酔っ払い共に「にとーりゅー!!」なんて言いながら、決めポーズをするなんてサービスをして、おっさん連中を湧かせている。


 先程までの悩みようなんて、何処へやら。

 右に左にふよんふよんと揺れる尻尾が、実に上機嫌だった。


 そんな彼女を「あ~ぁ」と思いながら見守っていると、ついにその時が来てしまった。


 左で肉を一刺し右でプリンを一掬いして、準備を完了。

 そして。


「いただきますなのー!」


 パクン。

 二つを同時に口の中へと入れたのだ。



 モグ。

 クイナは笑顔で咀嚼する。


 モグモグ。

 その顔が少しずつ曇っていき。


 モクモグゴックン。

 口の中の全てを飲み込んだ後のクイナは、何とも微妙な顔をしている。


「どうだったよ? クイナちゃん」

「……お肉とプリンはあまり仲良しにはなれなさそうなの」


 おそらく吐き出すほどのマズさでは無かったのだろう。

 が、基本的にものを食べてる時には笑顔のクイナがこの顔でそう言うのだ。

 やはり美味しくはなかったらしい。



 そんな少女の感想に、酔っ払いどもは楽しげに、ガハガハ笑って乾杯する。

 さぞかし楽しい肴だろう。

 が、ちょっと子供相手にひどい。



 しかし人のことは言えない。

 俺も分かってて止められなかった口である。

 ヘチョォンと垂れ下がったモフ尻尾に、ちょっと良心が痛む。



 すると、おそらくそんな気持ちが顔に乗ってたんだろう。

 グイードにポンッと肩を叩かれた。


「子供っていうのはね、一度良さそうと思った事はやってみないと気が済まないから」


 そうやって失敗しながら成長していくものなんだよ。

 そう言った彼の顔は、まさしく『父親』のものだった。



 ――そう言えば、既に成人した子供が何人か居るって言ってたな。

 そんな風に思い出し、思わず感心してしまう。

 

「経験者が語ると言葉の重さが違いますね」


 思わずそんな感想を零すと、少し照れたような笑みが俺にフッと向けられた。

 


 

 ――二刀流。

 実にカッコいい響きだが、それが必ずしも良い事だとは限らない。

 

 そんな世界の真理と共に「美味しいものと美味しいものを掛け合わせても、必ずしも美味しくなるとは限らない」という現実も学び、クイナはまた一つ賢くなった。



 そして『好きな食べ物に対して、如何に好きを示すのか』という論争については、だ。


「食べ物の好きは一つに絞る必要はない」

「うんなの!」

「美味しく完食する事で、食材に敬意を示せばいいんだよ」

「それなら毎日やってるの!」


 という事で、どうにか納得させられたのだった。



 〜〜Fin.



――――――


 お読みいただき、ありがとうございました。

 楽しく読んでいただけたなら書いた甲斐があったというものですが、どうでしたか?


 本作はKAC2022と第一お題、『二刀流』参加作品として書きました。

 評価(★)にて応援してくださると、作者がとっても喜びます。


 また、この作品を気に入ってくださった方がいらっしゃれば、本編へのリンクがあらすじにありますので、よろしければそちらからどうぞ。


 本作と同じく、いえ、それ以上にわちゃわちゃほのぼのなライフをしながらお待ちしています。


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