第5話
泣きじゃくり落ち着いた僕だが、しばらく時間をおいて、スパムに興味津々のプロフェッサーが味見を所望した。
「!」
ビックリしたような顔をするプロフェッサー。
「お口に合いませんか?」
「うむ、なんというか、辛い、な。」
話を聞くと、塩も貴重なら、香辛料自体が存在しないようだ。食べ物の味付けはどうしているのか、と聞くと、苦い葉が味つけに使われるぐらい。そもそも味付けという発想はなく、素材の組み合わせで味を感じるが、基本的には食べられればそれでいい、そういう世界なのだ、という。
「だったら、これをいろんな食べ物にちょっとずつ乗せて食べれば、おいしいと思いますよ。」
「美味しい、か。氷人は美味しい、のために食事をするのだ、と聞いていたが、そうか。美味しい、か。」
「普段食べる料理に、ちょっとずつのせてみましょう。」
集落の人数は、全部で70から80名か。これでもそこそこ大きいのだという。
集落の周りの草や木の皮、昆虫や小さな動物が、彼らの食べ物なのだという。
ほとんどが、そのままか、焚き火に放り込むだけの食事。ここにくるまで食べていたのは、旅用の携帯食だと思っていた僕は、それが普通の食事だと知って、改めてショックを受けた。
無理でしょ、これ?
プロフェッサーから改めて氷人と紹介され、さきほどのスパムを見せた僕にみんな興味津々だ。
ちょっとずついろんなご飯にのせて食べてみて、と言って、僕が見本を見せる。
単なる木の皮や草も、随分と食べやすくなるなぁ、とご満悦の僕だけど、大半の住人には不満のよう。
そっか。そうだよね。香辛料を食べたことのない人にはキツかったかも知れない。
でも、何人かは食べ進むにつれて、美味しく感じ始めたようで・・・
最終的に、「もうこれなしでは食べられない」なんて、涙目になっている人まででたみたいだ。
一応、成功、ということで、いいのかな?
僕は、缶詰を収納している洞窟に来ていた。
いったいどれだけ持ってきたのか、あの人数なら年単位でまかなえそうな数だ。
マヤによると、これらは、あちこちから見つかっていて、他にもまだたくさんあるのだとか。
ひょっとしたら、備蓄用のものが残っていたのかもしれない。
疎開地では、けっこう食べ物は余っていたんだ。
というのも、もともと農業や漁業といった一次産業がさかんな地で、本来なら都会に出荷していた。けど、戦争が始まって物はあるけど輸送が出来ない、なんてことも増えてきて、地方に在庫として残ってきたんだ。
都会に運ぶためにも、また戦争時に食材を無駄にしないためにも、保存食のラインを相当増やしたらしい。もともと閉めた工場なんかも実はたくさんあって、それが政府の肝いりで復活しつつの備蓄を作れ!作れ!の大合唱。ちょっと前まで強引にマスクの生産を行っていたようなラインまで使って、急ピッチで干物やら缶詰、瓶詰め、真空パックなんかが作られてる、というローカルニュースを見た気がする。まぁ、儲かるぞ!というようなノリでの話だったけどね。
そんな風にして作られた物が、とくに缶詰なんかは、爆弾の恐れあり、として残っていたのだろう。もしかしたら、そもそもが立ち入り出来ないようなところになってしまっていて、人が入り始めたのがつい最近だから残ってる、ってだけの話かもしれないけどね。
ただこれらは食べ物の可能性が高い、そう知ったみんなの行動は早かった。
マヤを中心に、集落の強者らしき人達が、発見されている缶詰のもとへと旅立っていき、次々と持って帰るようになったんだ。
僕も時折一緒にでかけて、あるところで真空パックのライスと、数種の植物の種、そして種芋なんかも見つけたんだ。
ある種のビニールは触れるまでは大丈夫だったみたいで、全部じゃないけど、半分ぐらいは中身を救出できた。
種、の発想もなかったみんなだけど、結構野菜の種が多かったみたいで、とにかく畑をつくろう、と、集落の外に記憶にある畝もどきを作って、チビチビと植えることにした。野菜が出来れば食料も潤うしね。
まさかの種芋が元気なのにもビックリだ。
よく知らないけど、痩せた土地には芋だ、なんていう小説を読んだ気がする。
僕は都会ッ子で畑仕事は、疎開した先のじいちゃんたちを手伝ったくらい。でも、そんな小さな経験でもないよりはましだった。
僕は、こうして、食材を作る、という、みんなになかった発想を、現実の物にしていったんだ。
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