第2話

 「ちょっとは落ち着いた?」

 僕は、女の子に渡されたをおそるおそる口に含みながら、ゆっくりと頷いた。


 裸だと気付いた僕は、

 「その汚いもんは髪で隠して、ついてきて。」

 という、その女の子について外に出てきたんだ。


 中、というか、僕が寝ていたのは、どうやら天然の氷の洞窟だったようだ。

 僕の身体の下からは、劣化してバラバラになった服の欠片が落ちていて、僕が動くたんびに、ぽろぽろと崩壊していった。

 何がどうなっているのかさっぱりわからない僕に、「経年劣化ね。」なんていう、訳知り顔で1つ頷いた少女の次のセリフが、さきほどの汚い物を髪で隠せのセリフである。

 髪で、って、と思って鼻で笑おうとしたんだけど、確かに先ほどから身体に触る黒い物が・・・

 !!

 どうなってんの?

 僕の髪はいつのまにか腰、どころか太ももの辺りまで伸びていて、それをかき集めて前に垂らし、ちょっと恥ずかしい前屈みの恰好で息子を隠せば、ほとんど他の人から、息子を隠すことはできそうだった。

 で、スタスタと歩いて行く女の子に、股間を押さえつつ、前屈みでついていく僕。

 う・・・・

 完全に、ヤバイ奴です。



 どうやら、本当に洞窟、だったようで、外に出ると、怪しい森?の中。

 いったいここはどこだ?

 キョロキョロしていると、女の子は近くにあった切り株のところに僕を座らせ、せっせと乾いた枝を集めると、焚き火を始めたんだ。

 そして、どうやら近くに隠してあったらしい、でっかいから、コップを2つ出すと、腰に吊した水筒(だよね?)から、この水みたいなのを出して、コップに注ぎ、そのコップを焚き火の中に突っ込んだ。

 その水が湯気を立て始めると、あちこちに落ちている木の皮らしき物を見繕い、それに包んでコップを僕に1つ渡してくれた。自分用にも同じように木の皮で包むと、躊躇なく、その茶色い白湯をすすり始める。


 僕が、その白湯をちびりちびりと飲み始めるのを見た女の子は、僕をジッと見つめた。うん。遠慮会釈なく、ガン見してきたんだ。


 「ねぇ、あんた、なんであんなところにいたの?」


 それは、僕も不思議だ。

 だって、裸で氷の洞窟に寝るなんて、自殺もんじゃないか。

 でも、本当になんであんなところにいたんだろうか。

 じんわりと、浮かび上がってきたその記憶をなんとかたぐり寄せる。



 僕は裕樹。田代裕樹。元々は東京で高校に行っていたんだけどね。戦争が激しくなってきて、そう、僕は母方の祖父母が住む、某東北の田舎町に疎開することになったんだ。

 戦争、なんて、小学生の頃には、ううん、中学の頃だって考えてもみなかったよ。

 お受験して、なんとか中学校に受かったって時に、世界中に新しいウィルスが流行りはじめて、学校はずっとリモート授業だった。

 2年ほど経っても、全然おさまらなくて、次々と新種だ進化だってなって、でも若い子は大丈夫とかいわれて、でも自粛自粛って。

 そんな風にブツブツ言ってた頃はまだよかったんだ。


 そんな中、某大国が元々同じ国だったんだから、と、いろいろちょっかいを隣国にかけだした。しかも、軍事侵攻までやっちゃったもんだから、世界中の非難を受けた。けど、自分は間違ってない!って強攻策を採り続けて、軍事侵攻は止まらない。反対していた別の大国を中心とした連合軍が、それを阻止しようと軍を出して衝突。

 それぞれの大国を中心として、世界が2分して、火種が上がってしまったんだ。

 第3次世界大戦。


 学校で2つの大戦のことは、もちろん習っていたよ。

 おじいさんのお父さんは、23歳の若さで、飛行機で敵に突っ込んで戦死した。第2次世界大戦のことだ。おじいさんも戦争が終わったときは小さな子供だったけど、爆撃の光を遠目に見た記憶は、一生忘れないって言ってたよ。


 そうやって、戦争のことを聞いたこともあったし、その悲惨さとか頭では知ってたけど、まさか自分がそんなものに遭遇するなんてない、って信じてた。

 日本は平和主義。

 自衛隊っていう守り特化で、一応軍隊じゃないってことになってる、そんな戦力しか持たない非武装の国。非核三原則。平和憲法。

 実際、自分が戦争と関係するなんて、日本人なら誰も思ってなかったと思う。自分から戦地に飛び込む変わった人は別として、それは遠い世界のはずだった。


 でも、あれよあれよと言う間に、他国は戦争に突入。

 日本も、後方支援、という名の自衛隊の海外派遣、なんてのがあって、気付くと敵国の飛行機が日本領空に侵犯し、空爆だって日常茶飯事になってきた。

 高校生になった僕。

 結局中学で受かった学校も、ほとんどリモートですごして、高校生にはなったけど・・・

 リモートなんだからどこででもいいでしょ、と、僕は両親に言われて、祖父母の家に疎開してきたんだ。


 僕以外にも、多くの子供たちは疎開した。

 ううん。子供だけじゃなくて大人も都会にいる必要のない人達はどんどん田舎へと引っ越しした。

 シェルターが飛ぶように売れてる、とか、要人のための隠しシェルターに備蓄を始めた、とか、そんなニュースばっかりで・・・・


 そんな中、人類は「抑止力」と言う名の使っちゃ行けないはずだった爆弾を使ってしまったんだ。

 どちらが先に、は、分からない。

 お互いにあっちが先だ、って言ってたからね。

 でもそんなのはどうだっていい。地球を何回も破壊できるだけの核兵器。そんなものが使われ始めたんだ。

 気候も変動し、異常気象が通常になった。

 誰もが、未来に絶望していたけど、戦争は先が見なくて・・・・


 僕が疎開していた、その町は、まだ戦争の被害じたいはなかったけど、ニュースは飛び込んでくるし、何より物価は高騰する。

 非常食なんかを買い込んで、自衛する人もいっぱいで・・・・


 なんか、こんな田舎でもみんなぎすぎすしはじめて。

 だから、僕は、誰にも会いたくなくて、よく裏山に登っては空を見上げていたんだ。

 異常気象のせいで夏でも雪がちらつくけど、この雪にも放射能って含んでいるのかな?

 そんな風にぼんやりと空を眺めていたんだ。



 ズドドーーーン!


 そのとき、遠くで何かが落ちたような音。爆弾?ここまで来たの?


 思う間もなく、地響きがした。

 そして、座っていた地面がパックリ開いて、そのまま僕は転げ落ちたんだ!


 そして・・・・


 そして目が覚めたら、知らない女の子にツンツンされてた、ってわけだった。

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