第6話「禅問答」

「アッハァァァァ~~~~ンン」


 電車ゴッコ真っ最中!

 山手線の如くグールグル!?

 予想を裏切らずに、団地若妻は…そのあっられもない肢体したいさらけ出し、俺の操縦桿の振動を激しくさせてくれる。


 ──要するに濡れ場だ!


 ジャストタイミングで、ものすっごいシーンから始まり、大画面いっぱいに広がる熟れた肢体。

 ジョージと電車でゴーですよ!?

 我が姪っ子である「JC」の目の前で展開するにしては、ちょ~~~っとばかし刺激が強すぎるぜぃ。


 イイんだよ?

 まん・グリーンだよ!?


 やっばいわ~…

 なんで俺は大画面プラズマTVなんて買っちゃったかね…


 これじゃ、俺の広~~~い背中をもってしても隠し通せない。

 団地若妻の、アソコだけは上手く隠れているだろうが───現状では全く意味がない…


 しかし、今は冷静を装うのだ。

 ここで取り乱した方がカッコ悪い。多分…な。


 それに、今さら停止ボタンを押しても遅い。

 なんたって、団地若妻は……現在進行形で間男により串挿し中だ。


 だから、

 だから、

 だから、


 だからこそ俺は、

 さりげなく、番組のボタンを切り替える。


 そう、停止なんぞしません!

 俺は番組変更中だったのですよ?


 た~またま、押した番組がちょ~っと、アレな番組だったわけで~…

 

 そうですよ?

 叔父さん変な番組とか見ませんよ?


 団地若妻の蕩顔トロがおは、一瞬で冴(さ)えないメガネ男に切り替わる。

 そう、俺と同じく真面目腐った表情で、国営放送のキャスターが、北の金(キム)帝国を非難している。


 ミサイル発射はしからんと!


 俺もリビドーが弾けそうでしからん!

 不発でしからん!!


 今すぐ発射してぇぇぇぇ!!!

 先制攻撃だ!

 反撃など知るか!!

 

 と、言いたいヌキたいが…


 そして俺の背後には、血縁関係たる叔父のあられもない格好・・・・・・・・を非難する様な目をした少女が立っている。


 中学生に見られるとな!? しからん!


 怪しか…ら、ん?


 ん?


 んむ…


 ……アリだと思います!


 ……


 …


 ふっふぅぅぅい!


 いまさ、

 まぁさ、

 なんていうかさ、


 こ・れ・は・や・ば・い!


 これはやばいぜ。


 色々というか、

 倫理的にというか、

 絵面的にというか、


 ちくせぅ… 


 俺の股間はのっぴきならない・・・・・・・・状態だ。


 いや、大丈夫だ。

 正確には俺の、あられもない格好は見えていないはずだ。

 なんたって、ひろ~~~~い背中が、股間にそびつ操縦桿を隠しているはずだ。


 パイロットたるもの背後を取られるとは死を意味するが、俺の機体は背後の方が安全なのだ。

 正面から見ていいのは斉藤ママだけだ!!!


「で、なにしてるの? 叔父さん」

 ───ナニしてる・・・・・のだよ、エミぃぃぃ!


 ゴトリとテーブルに、何か良い匂いのするものが置かれる。

 うむ、多分…御裾分おすそわけのオカズだろう。


 俺は今、オカズは十分足りているのだが…敢えて言うまい。

 そのオカズもデッキの中でまだキュルキュルと回り続けている。


 国営放送のキャスターを映す画面の裏では、団地若妻がアンアン言っているに違いない…ちくせぅ!

 ──イイとこだったのにぃぃ。


 しかし、参ったな…

 この状態! どうしてくれよう!?


「うむ、エミよ。叔父さんはな。現在、座禅にて瞑想めいそう中だったのだよ」

「へぇ…………」


 振り返らなくともわかる…きっと氷点下の視線をしているだろう。

 くふぅ…ちょっと気持ちいいぜ。


「とりあえず…雨降りそうだったから、干しっぱなしの服は取り込んどいたよ」


 ふと見れば、暗くなりつつある外のため、部屋の明るさが大きな窓を「鏡」にしていた。

 そこに映り込むのは美少女とも言っていいだろう姪っ子。


 そして、俺から姪が見えているということは…背後の姪っ子にも…


 丸見えですがな!!!!!


 ───はぁぁぁぁん!


 絶対零度の視線と、窓に映る自分のソレがバッチし合う。


 見ないで~~~!! 

 …いや、見て~~~~!!


 違う!!

 違う違う違う!!!


 テンパってる…俺テンパってる!?


 背後に立つ姪はセーラー服のまま、既に取り込んだおっさんの服を山にして指で示している。


「あと、布団も取り込んだ方がいいと思うんだけど……どうするの? 早くして欲しいかな?」


 ジトっとした視線が痛い。

 くふぅ…痛いぜエミぃぃ───けどちょっとクセになりそうだ。


 どうすっぺか~…


 まだまだ、操縦桿は元気だ。

 見られ見られつ───

 こんな微妙にピンチな場面でも、なぜかリビドーが収まらないという不屈の精神をもつ大和魂に羨望すら覚える。


 うん…

 ──むしろ、ちょっと喜んでいる気がする…

 背徳的だねぇ、マイサンよ。


「う~~~ん…、そろそろ瞑想めいそうを辞めて、そこを立って取り込んでほしいかな? もうちょっとで、多分…雨が降るよ」


 うむ……


「エミよ…叔父さんは既に──っているのだよ」

「はぇ? 座ってるじゃん」


 動じないね、君ぃ。


「うむ、座っているがっているのだ。立っていなけど、っているのだよ」

 ふふ、まるで禅問答ぜんもんどうだぜぃ。

「禅問答みたいだね~…」


 あふぅん…背後からそんな目で見ないで~!


「時にエミよ…いつからいたの?」


 ……


「団地若妻シリーズだ! ──あたりからかな?」

 


 ……


 …






 ほ、


 …ほとんど、初めからいたやんけ~~~~~~~!!!!







 ほとんど、初めからいたやんけ~~~!!


 初めからいたやんけ~~~!


 いたやんけ~~~


 やんけ~~~…


 け~~~……


 け~~


 け~


 ~


 ……


 …


 ふっふぅぅぅい!


 ───


 心の叫びが余韻を伴って秋空に消えていく……


 叔父さんもう死にたい…(汗)


 くぅぅぅ…

 アァン…恥ずかすぃぃぃぃぃん!!


 VHSチョイスから始まり、

 パン一になり、

 操縦桿を握ってぇぇぇぇぇ、


 ドッグファイトを演じている所からずっといたのぉぉぉ?

 


 やめてぇぇぇぇぇ~~~ん!!!

 恥ずかしすぃぃぃぃぃぃん!!!



 女子中学生…JCにバッツ視とばかりに、ドッグファイトにアクロバティィィックゥゥな操縦桿テクニックを御覧ごらんじられるなんて~~~!!



 …………むしろ、ご褒美です!! ──キリっ


 開き直ってますか? いいえ、開き直ってません。元から俺はこんな感じの人間です。──キリっ



「う~~ん…叔父さん、さぁー…いい加減ズボンいてくんないかな」


 はぁぅあ!

 ズボンおろしたままやん!


 やっぱり、全然誤魔化せてないやん!!


 もうやめてぇぇぇ~~~ん!!

 ──叔父さんのHPはとっくに0です! SAN値もガリガリ減ってます!


「ごめんなさい…」


 素直に謝り、ズボンをく。

 

 うん、エミよ…頼むから、そゆ時は黙って部屋から出てくんないかな…

 それが優しさってもんだよ…!?


(みんなもあるでしょ? ──…エロ本をベッドの下に隠してて、母ちゃんに見つかったけど、…そっとベッドの上に置いて発見を象徴するも…何も言わない母ちゃんの優しさ…。──アレですよ、アレ)


 ズボンを上げて、すっかりしぼんだ操縦桿は、プランプランとホラーチックに揺れる受話器のごとく…


 JCが蔑(さげす)んだ目で見る前で、いそいそと格納していく。


 上空援護の終了したメッサーシュミットは、P51マスタング我が姪っ子の追撃を避けるべく掩体に隠す。それはもう、いそいそと…ね!

 例え弾薬満載で一発も発射出来ずとも…!!!

 空振りなど日常茶飯事にちじょうさはんじと思え!!


 じとーッとした目でにらむ我がカワユイ姪っ子…

 その目は氷点下どころか絶対零度だ。


 ちくせぅ…

 ちくせぅ…

 若妻ぁぁぁ…


 ちくせぅ!!!



 エミぃぃ、叔父さんもう泣いちゃうよ。



 叔父さん、見られて喜ぶ趣味はないん…だよ、だよ?

 ないよな? ──ヘイ、Myサン?








 愚息がとんだ不始末を…


 飛んだ不始末?

 

 ……


 …


 飛んどらんわぁぁぁぁぁぁ!!!!!



 あーーーー

 もーーーー




 くそぅ…



 飛ばしてぇぇぇぇぇ!!!



 ……


 …



 何をやねん!?


 と、自己回収型ツッコミをぶちかまし、光司はすっかり大人しくなったMyサンを優しく撫でる。

 愚息よ…エミが帰るまでの辛抱だぞと、すっかり霧散したリビドーをくすぶらせる。


 そんなこんなで帰ってほしいけど、エミは居座る。

 エミぃぃ、叔父さんの気持ち…伝わってないよね?



「はぁぁ、お母さんが呆れるわけだよ…私がいないと何にもできないんじゃない?」



 エミの小言を聞きつつ、光司は干しっぱなしの布団を抱え込む。

 太陽の匂いのする布団をいそいそと取り込み、寝室に適当に広げた。


 その横で、ちょこんと座ったエミが、テキパキとオッサンの下着をきれいに畳んでいく。

「何を言うかねエミ。叔父さんは立派に社会人してますよ!」


 知ら~んぷり、とエミは光司の反論を聞き流し、洗濯物をすべて畳み終え積み上げた。


 エミよ。

 叔父さんの下着もあるんだが、君ぃ、普通に畳んじゃったね?


 あれじゃないの?

 お父さんの下着と一緒は嫌~…的なのは、ないの?


「はい、終わり。箪笥たんすには自分でれてね」

「ふふん、エミよ。叔父さんここ数年、箪笥たんすなんて使ったとこないぞ」

「自慢げに言うことじゃないよそれ…どうせ、山にして、そこから適当に使ってるんでしょ?」

「ご名答! 叔父さんハッキリ言って服を畳む意味が分からない」


 はぁぁ…とエミが額を覆う。


「もぉぉぉ、生活力なさすぎでしょ…山にしてたんじゃ、見栄えも悪いし、梅雨時はカビが生えることもあるんだよ」

「叔父さんは、見栄えなんて気にしません!」──キリっ

「私がするの!」──カカぁ!


 もう、この子はどうしてそんなに世話を焼きたがるかね。


 ──!!

 ──ハッ! も、もしや叔父さんのことをっ!!??


「うん、多分、絶対かつ究極的に違うから」

 心を読むエミ。親子そろってエスパーか!!

「口に出てます」

 はあぅ!

「あと、大音量でアダルティなのを見るのはどうかと思います」

 ごめんなさい…

「分かればよろしい」

 ニコっと笑うエミの笑顔はまぶしい。


 巨乳ではないのが残念ではあるが…

 これで巨乳だったら、俺的にはかなりいい線言ってるんだけどな~

 …巨乳ならな~


「殺しますよ?」

 あぅふ…口に出てた?

「出とります」

 ごめんなさい…

「ほんと、スケベだよね…」

 あぅふ。そんあ目で見ないで…ちょっと嬉しいじゃないですか!!


「ど変態」


 ふっふぅぅぅい!!


「もう…」

 付き合ってらんないとばかりに、再びひたいを手でおおう。

「取りあえずこれ、お母さんから、…と私から」

 テーブルに置かれたいい匂いの代物だ。

「ん? なにこれ?」

筑前煮ちくぜんに、あとポテトサラダ」


 あぁ御裾分おすそわけね。


 姉貴もなんだかんだ言って──俺の事、愛してるのな~。

「それお母さんの前で言ったらマジで殺されるよ」

 えぇぇ~…ツンデレ?

「ツンもなければデレもないと思うよ。いて言うなら、ハヨシネ…かな」


 まんまやんけ!


 早よ死ね…って──


 まんまやんけ!


 え~…なんか嫌われることしたっけ?


「お母さんいわく、存在そのものがいや、だって」

 俺という個人、全否定やん!!??




 ちょっとひどくないですか、Myシスター?


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