第4話「団地若妻シリーズ!?」

 ウケケケケケケケケケケケケケッケェェ……


 カナカナカナカナカナカナ、カナ、カナ……


 ヒグラシの鳴き声が混じり始めると、外気が少しばかり落ち着き、昼間の暑気を和らげた。

 8月を過ぎれば、さすがに日の落ちるのも少し早くなる。

 つい先日までは夕方が実に遅く訪れるものだと、シミジミと感じていたが、……最近では、今はもう夕方かと、ふと気付かされる程だ。


 ボンヤリとした頭は、昼寝から覚醒したばかりで、まだ霞が掛かっている。


 つけっぱなしのTVからは、知らないタレントがゲハゲハと笑いながら、素人に混じり旅番組的なことを演じている。

 見る気もないが、さりとて、消す気もない。


 ふと、傍らを見れば小さな女の子が机に突っ伏して寝ている。

 顔には、たっぷりと飛び散った…白い粘り気のあるドロリとしたもの。





 その小さな手には、大きなカレースプーン。


 そこに、こびり付いているのは、糖分の浮き出たバニラアイスの舐(ねぶ)りあと。

 出所の大きなアイスケースは、半分ほど残していたが、残暑に溶けきって、シェイクのようになっている。


 あぁ、そう言えば少女を自宅に連れ込んで……

 じゃ、ないっす。

 いや、じゃないけど……

 う~む…後ろめたいことはないが、文章にするとヤバイな!


 約束通り、アイスをご馳走してあげたんだったな。

 冷凍庫から、ストロベリートとバニラを2つもだ。

 それもデカいアイスのBOX、それを見せたら仰天していたっけ。


「凄く、大きいです」──アイスが


 冷え冷えでカチンコチンに凍り付いているものだから、小さなコーヒースプーンだとか、木のスプーンでは間に合わない。


 子供の食欲は底なしなのだ!


 と、いうわけで、カレースプーンを用意してやったら感動していた。


 さっそく、とばかりに、ストロベリーアイスにスプーンを突き立てていたな。


「これ、凄ぃぃ…大きくて、固い」──アイスが凍り付いていて、だぞ? 変な想像すんなよー。


 とか、色々グレーゾーンどころか、虹色のセリフを吐かせてしまったが…気にしません。──キリっ 

 そっち系(←どっちだよ!?)の趣味はなので、ユズは対象外のはずなのだが、何故か、俺の顔が下種顔(ゲスがお)になっていたのは…なんでだろう。


 うん、ホントなんでだろう!?


 武藤さんあたりに見つかったら、問答無用で署に連行されていたかもしれない…


 ふー、色々危ないぜ…


 クークーと可愛らしい寝息を立てるユズのサラサラの髪を撫でつけると、汗に濡れた髪がしっとりとして、絹のような触り心地を指に伝える。

 

 ビローンと伸びた足はお行儀が悪く、水玉のあしらわれた白いワンピースは大きく捲(まく)れ上がり、その下の下着を盛大に曝(さら)け出していた。


 クマさんをあしらった黄色のおぱんちゅ・・・・・が見える。


 興味なし! ───ないったら、ない!


 というか客観的にみて、この絵面はヤバくないか?


 JSの美少女が、オッサンの部屋で、

 スカートが、捲れあがり下着丸出し、

 顔には白濁液がベッタリ、

 疲れ果てたように眠っている、

 隣には下衆顔(ゲスがお)のオッサン。


 うん、

 通報しました。


 って、シャレにならんがな!

 俺は巨乳好き、俺は巨乳好き、俺は巨乳好き、

 熟女最高、熟女最高、熟女最高!


 ハァハァハァ・・・


 そ、

 それよりも、ぷっくりと膨らんだお腹に注目する。

 ぎっしりと詰まっているであろう白いモノ。


 アイス。

 アイスったら、アイスです!


「しまったな~…」


 アイスを御馳走したのはいいが、まさか本当に好きなだけ食べるとは…多分、いかにも教育ママといった感じの斉藤ママのことだ。

 食事なんかにもウルサイのだろう。


 多分、こんなに腹いっぱいアイスを食べるなんてことは、許されていないに違いない。

 それ以上に、こんな時間にお腹いっぱいに食べれば、夕食が入るかどうか…


 ちょっとばかし無責任だったかも…、と反省する。

「おーぃ、ユズ起きろぉ?」

 ツンツンと可愛らしいホッペをつつく、「う~ん、むにゃむにゃ…もう食べれないよぉ」とベタな寝言を呟(つぶや)くに至り、ユズを寝かせたまま、送り届けることにする。


 その前にベタベタになった顔を拭いてやらねば…色々と、誤解されそうで怖い。


 しょうがないな~っと、

 水タオルをレンジで30秒ほどチンすると、あら不思議、温タオルの完成!

 ──男一人暮らしの知恵だぜぃ!


 愛らしい顔を、優しく拭いてやる。

 まだまだ夢の中なのか、「熱(アツ)ゥゥ~~ィィン」と微妙に色っぽく零(こぼ)す。

 ──全く…色々と外さない、この子はどこを目指しているのだろう…


 綺麗になった顔を満足げに見ると、

 よいしょっと、眠ったままのユズを背負う。

 そして、起こさない様に慎重にドアを開けて、アパートの外廊下にでる。


 あまり、中と変わらない外気に、よその家から漏れる夕飯の匂いが混じる。

 湿気を帯びた空気が雨を連想させるが、不快さはそれほど感じない。

 住宅街に漂う、夕方独特の空気がそこにあった。


 アパートの構造は、一番端に位置する光司の部屋。そこから右はすぐに外廊下の終わりと、2階へとつながる外階段がある。

 今は2階に用はない。

 左端の斉藤家に用があるのだ。


 っと、


 ゆっくりとドアを閉めたとたんに、他の住人と遭遇する。

 確か、2階に住む山田君だ…っけ?


 白い半そでのカッターシャツに黒いスラックスという男子用学生の夏服姿。


 中学生らしく、学校制定の鞄を肩にかけているが、精一杯の洒落のつもりか底板を折り、ペシャンコにして使っている。アレでは教科書なんか入らないだろうに。

 と思いつつ、目が合ったので挨拶しておく。


「おかえり。今日も暑いね」


 管理人なのだから、挨拶するくらいは普通だと思ったが、髪をヘアバンドでオールバック風にまとめた、山田君? こと男子中学生は、チラっと視線を向けただけで挨拶すらない。───あらら、反抗期かね?


 まぁ、別に気にしない。


 現代の近所付き合いなんてこんなものだ。

 それに比べると、斉藤さんチは特異な部類に入るくらいだ。


 そして、続けざまに、2、3階の住人が帰宅する。

 どうやら、帰宅ラッシュだったようだ。


 いかにもチャラそうな男子大学生は、「チョリーッス」とか、よくわからん挨拶をしてさっさと部屋に戻っていく。俺も負けずに「うぃ~っす」とかで返してやったぜ。


 病院帰りらしい御婆さんとお爺さんの夫婦は支え合いながら、酷く苦労しながら階段を上っていく。

 微妙な時間帯だが「こんばんわ」と挨拶されたので、同様に「こんばんわ」で返しておく。


 他にも、サラリーマンにOL、生活保護暮らしの男性に、2階にもいるゴミニート、3階のエターナルニートと……ニート多いな!!


 お前もだろ…という声が聞こえた気がしたが、気にしません! ──キリっ


 アタシャ仕事してるもん~。管理人だもん~。ちゃんと履歴書にだって書けるぞ!!

 ビバ仕事っ

 決して家事手伝いではありません! ──キリっ


 一通り、帰宅ラッシュが終わると、背中のユズがムニャムニャと起きる様な気配がある。

 このまま、家に届けるべきだろうな。


 ゆっくりと外廊下を歩き、9月の暑気が逃げずに籠る暑い空間を歩いていく。


 住人が、好き勝手に置いては積み上げるゴミとも家具ともつかないものが多く、狭さを感じさせる。その上、まとまりもなくゴチャゴチャとしていて見栄えが悪い。


 守屋さんの家は引っ越しして間がないため、まだ綺麗なものだ。せいぜい洗濯機が置かれている程度で、几帳面な雰囲気が外の様子からでも十分にわかる。


 一方クサレニートは、空き缶の入ったビニル袋が山のように積まれていて、発行したビールの匂いが鼻を衝くうえ、コバエが湧いて不快極まりない。

 でも、捨ててやる気はない。

 アパートの前にゴミステーションがあるのだから自分で捨てろ、とな。

 クサレニートの家の前を通ると、なんだか、視線を感じる上、グヌヌヌヌと唸り声のようなものが聞こえた気がしたが…気のせいだろう。


 ほどなくして、斉藤さんチにつくと呼び鈴を押す。

 はーい。と中から妖艶な声が聞こえる。


 なんとなく、ワクワクしている自分がいる。

 ──さぁこい! 宇宙オパイよ!!


 ガチャっと、扉が開けば、そこにはやはり山脈が揺蕩(たゆた)うがごとく。

「こんばんわ、斉藤さん」


 眼なんか見ない。オパイをガン見だ。

 どこ見てるのかって?

 オパイですが、何か?


「あら? 管理人さん? …あらぁ、ユズ寝ちゃってまして? …ご迷惑だったでしょうザマス」

 いえいえ、まさかまさか、それよりも…

「ユズちゃんは大人しいので迷惑だなんてとんでもない。今日も明るくいい子でしたよ」

 キランと、歯を光らせる……光ったかどうかは知らん。


「そうですか。ユズは管理人さんのことがとっても好きなんですの。昔から遊んでくれたから、随分懐いていまして…」

 いえいえ、いいんですよ。

 オッパイのためなら子守の一つや二つ。

 真実はひとつ、オパイは二つ! ───ふっふぅぅぅい


「じゃ、失礼して…」


 キュっと光司に抱き着くようにして、ユズを受け取る斉藤ママ。

 密着して、その山脈が大陸衝突のごとくグググと歪んでいく。


 おぉぉぉ、しゅっごぉい!!!


 腕に背中に当たるバランスボールのようなボリュームと感触。──堪りません!! ───キリリぃ


 鼻の下を伸ばすとはこういう状態をいうのだろう。


 ホルホルしながら、ユズを渡すと、体温の移った背中が急激に冷える。

 

 そして、斉藤ママの腕の中でお姫様抱っこをされているユズにバイバイと手を振ると、ゆっくりと目を覚ましたユズが手を小さくふる。


 コ~イツめぇ…起~きていやがったなぁ。


 なんとなくほっこりした気分で斉藤親子に別れを告げると、一人寂しい部屋に戻る。


 でも、心はオッパイ山脈のお陰でマグマのごとく煮え立っているぜぃ!!

 ついでに迸るリビドーがアレクチオンとな!!


 さてさて、待っとれぃ!!


 我が愚息よ!

 DVDなんてものは使わん…!!

 ちょっと古いが昔のAVだ。


 そう、ほんとうの「V」…VIDEOだ!!!

 VHSを使って進ぜよう…!

 我、18歳の頃よりダビングした10~20年近くお世話になった嫁を使って、心のマグマを鎮めるのだ!


 あぁ、一人暮らし最高!


 ちょっとぐらい音量大きくしても、守屋さ~ん怒らないでね~!


 っと、ルンルン気分で部屋に戻ると、さっそく、最近はトンと見なくなったビデオデッキに我が嫁をセットする。


 ど、

 れ、

 に、

 し、

 よ、

 う、

 か、

 な、


 …っと。


 ドゥルルルルルルルルルルル、ディン!!!!






 団地若妻シリーズだ!




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