第7話「白米に塩味って意外とうまいよね」

 全否定やん!!

 ひっどいわ! Myシスタぁぁ!!


「じゃ、なんで御裾分おすそわけを?」


「これは守屋さん宛だよ…量が多いから勝手に小分けにしました」

 あぁぁ~…そういうこと。

「ポテトサラダは私が作ったんだよ」


 ほほぅ。俺のために?


「まぁ、そうなるかな…」

 ちょっと恥ずかしそうにほほを染めるエミ。

 むぅ…リアルでそういう態度取られると、ちょっと恥ずかしい。


 嬉しくもあるが、なんとなく甘酸っぱいのだ。


 そういや、こうして、なんだかんだと世話を焼いてくれるのはエミくらいだよな~。


 ハッ!

 

 ……


 …


 エ、エミぃぃぃ!!


 やっぱ、叔父さんの事をっ!!??


るよ?」


 何をををぉぉぉ!!??

 お、お、るって、

 な、な、な、なにを!??


 ──ナニを!?


「メッサーシュミットの操縦桿」

 真顔で言うエミ様ぁぁ。


 ま、ま、ま、まぁじっスか~!!

 エミさんコエェェェ…

 真顔で股間こかん見るのやめてくれませんかね。


 怖いです怖いです!

 マジ怖いです!


 られちゃうのは勘弁…、

 股間がキュってなっちゃう…!

 

 …あ、でも、それってにぎってくれるってこと? ──ふっふぅぅぅい!?


「足で折るからぁ!」


 エミぃぃ…足だってご褒美ほうびなんですよ(笑)!


「ご褒美ついでに、死ねばいいよ」


 メラァと、いけないオーラが立ち昇ったような気がする。


 さすがに折られると困っちゃう~…使う宛てはないけどな!!!

「ま、まぁありがとう! エミは最高だぜぃ」

 キランと歯を光らせる。


 こうして好青年っぷりで誤魔化し…れさせてやるぜ。


「その顔、マジでキモイよ…」


 な、

 な、

 な、

 なんですと!?


 もう一回いう、

 

 なんですと!?


 俺の会心の笑みになんてことを!?


 斉藤ママだって、いつかこの笑みで落として見せるぜ。


 すっと、エミが手鏡を取り出し見せる。ほう? ──女の子らしいグッズだね~。


 うつるはおっさんの……ニチャっとした笑顔…

 おぉう、これは、キモイ。


 誰これ。

 え、俺?

 え、マジで?

 え、俺これマジで?


温厚おんこうな、ひぃお祖母ちゃん…、マジ切れしてたのがその顔だったもん」


 えぇぇぇ、そういえばお祖母ちゃんに怒られたことあるけど…えぇぇぇ、この顔のせい??

 うわ~…マジでひっどい顔だわこれ…

 うん…歯をキランは二度とやらない。




 斉藤ママ、今までごめんなさい。あとお祖母ちゃんも…




 キメ顔をディスられて、


 ズーンと沈み込む俺…


「あ、あぁ、あの、ね。あのあの、でも、普段の叔父さんはそんなにカッコ悪くないよ…うん、ほんとに!」


 元気づけてくれるエミ。

 ありがとう、ええ子やね。


 来世か、前世でなら嫁にしてやろう。


「嫁はごめんだけど、まぁ、来世にもう一度、姪になるのはいいよ」

 おぉう、声に出てましたか。…そして、ありがとう。

「と、とりあえず、ご飯にする? 何か作るよ?」


 トンとリズムよく立つと、エミが狭いシンクに体を寄せる。


「待て、エミ。お前はお客様だ。せっかくの御裾分けもあることだ、叔父さんが後一品(あといっぴん)作って進(しん)ぜよう。───食っていくがよいっ!」

 エミからシンク前を奪取すると、辣腕(らつわん)をふるってやることにする。


 さぁて、何があったかな~っと。


 冷蔵庫をあけると、しなびたキュウリに、ヨーグルト、納豆、豆腐、卵にバター──

 

 ……ちょっと~!碌(ろく)なもんありまへんがな。

 う~む…どれも消費期限がやばいものばかり。


 団地若妻を見てる場合じゃなかった。

 メッサーシュミットで、ドイツ上空を守ってる場合じゃねぇぞ…


 食材がピンチじゃねぇか。

 基本、俺の料理なんて適当だからな。

 簡単、早い、安い、ソコソコ食える…それだけだもん。


 あ~っと、米は炊いたのがジャーにまだ残ってるな。

 ありがたい!


 フフフ、エミよ。


 ご飯があれば、なんでもできるのだよ。

 お米がそれすなわち、オカズになり主食になるのだ!!

 つーーーーーか、ぶっちゃけメンドイ。


 もう、米でいいや。


 ──どうせエミだけだし、


「どうせ。で、すみませんね~」

 エミがプーーンそっぽを向きながら、むくれている。


 そゆとこは可愛いよな。

 しかたない、とカワユイ姪っこのために御馳走(ごちそう)してやる。


 まずは、ジャーからご飯をよそい、茶碗を満たす。

 ───俺は丼(どんぶり)で行くぜ!

 そして、醤油をぶっかける! ハイ終了!!


「できたぞ~。醤油ご飯だ!」

 調理時間5秒。

「調理じゃないから、それ!!」


 エミの適確な突っ込みに、フフンと余裕の笑みで返す。

 ──これが男メシだ!!


 いわゆる醤油ご飯は、「炊き込みご飯」の事で、タケノコやら椎茸なんかの具が入っている。

 しかし、光司の醤油ご飯は、ご飯に直接醤油を掛けるだけ…


 一度はやったことあるだろ?


 そして、母ちゃんとかに怒られたはず…


 なんで、醤油を直接かけると怒るんだろうね。

 下品? 知りません。食べて旨けりゃそれでいいじゃん。


「これじゃ、婿(むこ)の貰い手もないわけだよ…」


 嘆かわしいとばかりに暗い顔をするエミ。

 でもしっかりと茶碗は受け取っている。


 【醤油ご飯】

 特徴:ご飯に醤油を掛けるだけ、

    簡単お手軽ご飯。

    醤油の風味がたまらない。

    栄養はご飯由来。塩分高め。

    調理時間5秒。

 材料:米、醤油


「では、いただきます!」

「いただきます…」


 暗い顔で手を合わせるエミ。


 なんか悪いことしたっけ?

 おかずは御裾分けの筑前煮とポテトサラダがあるから、それなりに華やかな食卓。


 味噌汁代わりに、白ダシをお湯に溶いて天カスを浮かべたスープも付ける。豪華だろ~。


 モグモグと口に運ぶと、醤油の風味が鼻を突き抜けて、米の甘味が優しく受け止める。

 外れのない味だ。実にうまい。


 エミも、それをモソモソと口に運ぶと、

「あ、意外と美味しいね」


 新発見と言わんばかりの表情。


 母ちゃんが料理する様な環境で、ご飯に醤油を掛けるなんて真似は普通しないからな。

 ───意外と盲点なのだよ。


「だろ? たまに御馳走してやるぜ」

 得意げに言うものの、

「いや、これ誰でも作れるよね?」





 言うなや、それが男メシでっせ。





「男メシって言っとけば、雑な料理でも許されるとか思ってるんでしょ…」

 ジト~っとエミが光司をねめつける。


「ちょっ~~~と、違うな!」

 チッチッチと目の前で指を振り否定する。

 若干、エミがイラっとしたのが分かる。


 おぃおぃ、切れる十代ってか、オッサンの妄言くらい、サラ~っと流しておくんなまし~


「何が違うのよ?」


 フフン…


 聞きたいか!?

「いやいいです。なんか、引きが鬱陶(うっとう)しいので」

 聞いてぇぇ~~~~!!!


「ち…」


 今舌打ちしたよね君ぃ?


「はいはい、男メシの極意ゴクイトハナンデスカー」


 棒読みなうえ、叔父さん──極意ごくいとまでは言ってないんだけど…

 君ぃ、時々叔父さんに対してだけ、雑かつ辛辣(しんらつ)だよね。

「叔父さんだし…?」


 言葉もないわ!

 ってか、また言葉に出てたわ!


「ん、んぅ、ゴホン! …では教えて信ぜよう!」

「あ、続けちゃうんだ? …ワーイスゴク楽(タノ)シミー」



 男メシとは、……!



 簡単、

 早い、

 安い、

 そして、そこそこ食える!



 これだ~~~! ───ドォッカァァァンン!!!


「チョー普通のことじゃん…」

 エミが相手にしてらんない、とばかりにモクモクと飯を進めていく。

 ──結構、醤油ご飯を気に入って食べているようだ。


 うぅぅ~ん、

 もうちょっと反応してよぉぉ…


「男メシというか、家庭料理の基本だよ、そんなこと。まぁ、そこそこ食える…じゃなくて『美味しい』だけどね」


 アンですとぉー!!


 メシなんてものは…男が旨く作れるものか!! ──ザ・偏見

 俺は自分の作った飯が一番まずいと確信している!

 故に、そこそこ食えるレベルというのはなかなか難しいんだぞぉぉ! ──レッツ・努力次第


 旨い豪華飯が食いたきゃ、チンとか、シュウとか、ワンさん的な中華の達人にでも頼んでくれぃ。


「あーはいはい。参考までに、どんなの食べてるの?」


 ふむ…

 改めて聞かれると、ないな。

 何か考えて作ることがないからな~


 冷蔵庫にあるものを適当に炒めたり、煮たり、…生とか?

 うーん…揚げ物はしないな~…

 油って、割りと高いもん。


 昔、芸能人が油タップリの鍋で、魚揚げてたりしてたけど…材料費9円とか、嘘だよね!?


 油は調理も面倒だし、後始末も大変!

 故に男メシには揚げ物厳禁…!


 俺的正義なので反論は聞か~~~ん!!


「はいはい」


 エミさんや、

 冷たい反応じゃの…


 で、なんだっけ?

 あ、メニューだったな。

 んーー…


 いいや、

 考えるの面倒だわ…

 エミだし。


「シバクよ」

 ふっふぅぅぅい!


 まぁよい。

 エミの食事を見ていると、次々にメニューが浮かんでくる。


 外れのない味、


 そう!

 聞いて驚け!


「聞いたら驚くと思う」


 え~っと、

 まず一品目は、


 これだぁぁぁ! ───ディィン!!


【塩飯】

 その名の通り──

「──ご飯に塩をかけるだけでしょ…」

 う…


 ま、

 まだまだぁ


 二品目は、


 これだぁぁぁ! ──ドゥゥン!!


【マヨ飯】

 ホッカホカのご飯の上に──

「──マヨネーズ…白に白って、どうかと思う」


 くっ!

 ま、まだまだぁ!!

 まだ終わらんよ…


 三品目は、


 日本人絶賛のぉぉ!

 これだぁぁぁ! ──ジャァァン!!(←全部口に出してます)


【TKG】

 ご飯に──

「──それを男メシにしてしまうのは、日本人全体を冒涜ぼうとくしていると思うんだぁ」


 くふぅぅ…

 エ、

 エミぃぃ!


 お前がご飯食べてるから、それシリーズで攻めとるんやん!

 気付けやぁ!


 インスピレーションがご飯に固定されてるんじゃ~!!




 終了~~~~!!!!! ──ふっふぅぅぅい!




 ──ふっふぅぅぅい




 ハァ…

「叔父さんの食生活が心配になるメニューだね…」


 まぁ、ビタミンとかカルシウムが究極的に足りない。


「うむ、気になるならエミが叔父さんに栄養を補給してくれたまえ。あ、ポテトサラダ旨いな」

「もう、調子いいんだから」

 せっかくの御裾分けをつまみつつ、ご飯を平らげていく。


 筑前煮は狂暴姉貴が作ったとは思えないほど繊細な味付けだ。

 ……ぶっちゃけかなり旨い。


 ポテトサラダは、淡泊な味付けで塩とか酢とか色々足りない気がする。

 まぁJCエミが作ったにしては上出来だ。


 一々あれが足りない、これが足りないと指摘するほど無粋ではない。

 俺のメシより、はるかに旨いしな。


 しかも、俺のために作ってくれたと言う。

 ──くぅぅ可愛いな~~!!


 近くにある姪の頭を、クリクリと撫でて進ぜる。

 上目遣いでジトっと光司を睨むが突っぱねないところを見るに、満更でもないようだ。


 うぅむ、可愛いの~!

 しつこく撫でていると、顔を赤くしてぷくーと頬を膨らませる。


 おぉっと、やりすぎるとマズイな。

 うんうん、旨い旨い。

 料理を褒められると人は簡単に喜ぶものだ。


 この心理は一体何なんだろうな。

 心理学者に聞いてみたいものだ。それ以上にエミからは光司に対する信頼もあるのだろう。


 叔父とはいえ、おっさんの家に単独で訪れる程度には。

 

 俺からすれば、子供はぶっちゃけストライクゾーンでもなんでもないからね。

 (巨乳なら、考えなくもないがな!)


 いずれにせよ、ロリの気はない。

 まぁ、…仮にエミが素っ裸だったら、……さすがに、拙者(せっしゃ)の愚息も目覚めるとは思うがな!


 ユズは多分大丈夫…

 大丈夫だよな…? ──ヘイ、Myサン??


 失礼な想像をされているとも知らずエミは、顔を赤くして、むぅ~とうなり続けている。

 よほど、料理を褒められたことが嬉しかったと見える。

 

 学校帰りに着替えもせず、愛しい叔父さんのために、食事を届けてくれるとはな~。

 ワザワザ料理を届けて何を求めるというのか!?


 叔父さんを料理で誘惑しようというのか、My姪よ…


 だがな、

 女はJKからだぜ!!


 エミよ…あと数年だな!

「死ねばいいよ」

 オッフ。


 そいや、ユズもあと4、5年ほどかね。

げればいいよ」

 何をぉぉ!?


 ぐって、何をぉぉ!?

 ──ナニを!?

 果実的な?


 叔父さんのは、バナナじゃないよ!


 エミさんや、YOUは女の子でしょ…ちょっと叔父さんに毒され過ぎじゃありませんか?


 ハッ!!


 俺色に染まりたいのか!?


 叔父さん的には超OKだがっ!

 姪…?

 近親?

 知らんな。そーゆーシチュエーションも燃えると思います!

 …思います!


 ──グッと握りこぶし。


げた後に死ねばいいよ」

 ふっふぅぅぅい!?


 せめて死んだ後にいでくれませんかネ…



 何やかんやと賑やかに食事を勧める秋の日々…


 散々、姪に弄(いじ)られセクハラ染みたお返しをする──夕方。

 時々、ユズと遊び遊ばれ、斉藤ママのオッパイを拝む──昼下がり。

 恐々、凶暴姉貴に管理人の仕事をしろとケツを蹴り飛ばされる──朝。


 JK3人衆を視姦し、武藤さんの視線に怯える──昨日と明日。

 AVを大音量で再生しては守屋さんの3連壁ドンにビビる──過日。

 週休5日で管理人としてアパートの保守点検を行う──昔日。



 俺はこんな毎日がずっと続くと思っていた。

 そんな残暑の薄れた秋の一日。





 それは唐突に訪れるもの……

 まだ、彼も彼女も知り得ない、何気ない日常の尊き事よ。




 今少し、この日々は……

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