物語は二人の人物の視点でつづられます。
子を成せない異なる種族の夫婦の子として「生まれた」、奇跡の子カモミール。
彼女を創り出した研究者、魔術師ペルクス。
生命の創造という禁忌を犯したとして流刑となった彼女たちを中心に、未知の世界を冒険していく。
愛の奇跡によって生まれた聖女として優しさと赦しを発揮しようとするカモミールと、研究者として科学的見地と好奇心で世界をとらえるペルクスという異なる視点がひとつの魅力。
異端や禁忌といったフックからスタートするこの物語は、必然、罪と罰へのとらえ方、扱い方といった命題をかかえることになります。
優しさを発揮することは簡単ではなく、それぞれに立場や考え方の違う人々とどう接し、どう折り合いをつけていくか、とても難しく現実においても安易に答えが出るものではないこの命題を、しかしカモミールたちは逃げずに挑み続けます。
誰かが一方的に悪いわけではなく、それぞれの信念や背景がある中で、誰が正しいと考えることは読者という引いた立場にいても難しいものです。
それでも物語は、きちんと前進し、大団円に向かって動いていきます。
完結からずいぶんと間が空いてから読み終えた私ですが、そんなペースでも読み終えてよかったと思います。
番外編もあるようなので、そちらも楽しみたいと思います。
素晴らしい大作を読んだ。読了した今、その思いで胸がいっぱいです。
存在や思想を異端とされ、魔界と呼ばれる未開の流刑地へ送られた人々の物語です。
この世界の基準からはみ出してしまった人々が、自分らしく生きるために踠きながら前へと進む物語とも言えるでしょう。
魔術師ペルクスと秘術で生まれた娘カモミールのW主人公をはじめ、登場人物はみな個性的で魅力的。信念も性格も追放された理由も、人それぞれです。
ペルクスとカモミールは彼らと対話し、協力し、時には拳や刃を交えて、互いの在り方を探っていくのです。
全ての人を笑顔にしたいという心優しいカモミールは、自分の信じる道を迷わず進むために、この流刑地で『聖女』となります。
誰一人同じではない人々を丸ごと受け入れる『カモミール派』の懐の深さは、多様性を尊重する現代社会の感覚にも通じ、感銘を受けました。
話が進むごとに一癖も二癖もある仲間が増えていくため、必ず推しキャラが見つかるはず。
これまで登場した仲間たちの総力をもって己の存在意義を問うクライマックスは、その迫力と情動の大きさに圧倒されます。
本当に何度も心を揺さぶられました。重厚かつ読みやすく、面白い物語です。読み応えのある作品をお求めの方におすすめします!
異種族の夫婦が、愛の結晶である子供が欲しいと願った。
そんな二人が優秀な魔術師であるぺルクスを訪ねてきたことから、物語は始まっていきます。
ただしこの世界においては、それは大罪とされるもの。
ぺルクスの協力により願いは叶い、夫婦の間にはカモミールという可愛らしい女の子が誕生します。
しかしそれにより、禁忌に手を出したとされ、彼らは魔界と呼ばれる地へと追放されてしまうのです。
過酷な環境の中で、離れ離れになってしまった両親を探し、ぺルクスとカモミールは未開の地へと踏み出していきます。
そこで出会う人々、そして起こされる出来事に巻き込まれながらも、カモミールの存在が罪ではない、彼女こそが愛そのものなのだということを証明せんと、彼らは旅を続けていきます。
罪とは、奇跡とは。
様々な出会い、別れを経験し、その答えに近づいていく彼らの旅路の行方。
ぜひ皆様にも知っていただきたく思います。
魔術師ペルクスは、獣人と妖精の夫婦から「自分達の子供が欲しい」という依頼を受け、長年の研究の末に、彼は二人の娘カモミールを生み出すことに成功します。しかし、生命の創造は禁忌とされており、ペルクスとカモミールは魔界へ追放されてしまいます。
この物語は、カモミールとペルクスの2つの視点で語られています。カモミールは無垢で可愛らしい少女ですが、どんな困難にも立ち向かう勇気と人を愛する心持っています。対して、ペルクスは、冷静で探求心旺盛な魔術師ですが、カモミールを守るために奮闘します。
彼らが魔界で出会った様々な種族や文化を持つ人々は、友好的な者もいれば、敵対的な者もいて、それぞれの場面でスリリングな展開があります。
”罪と幸せ”という深いテーマは興味深く、クライマックスでは哲学的な問答もあり、圧巻の表現力でラストへ読者を引き込む力作です。
主人公が娘同然の少女と共に、大罪の咎で魔界送りにされるところから物語は始まります。
移り住んだ未開の地で、仲間と協力しながら魔物と対峙したり生活用品を作ったり冒険したり、サバイバルな展開を見せるのですが。
タイトルにある通り、少女を聖女に据えて、新たな教義を作り生きていくことになります。
視点は主人公の男性パートと少女パートがハッキリ分かれているので、W主人公とも言えるかもしれません。
男性主人公の使う魔術が万能感がありますが、チートとは言えないくらいの良い塩梅で、上手に物語に新たな展開を加えてくれます。
なのでストーリー全体を通しては、割とテンポ良く話が進みます。
男性主人公は、天才魔法使いのような立ち位置で分析やサポートに回ることが多いです。
一行の生活水準向上と難敵攻略は、この人の双肩にかかっていると言っても過言でもありません。
付け加えて言うならば、「研究のためなら何を犠牲にしても」ではなく、「何これ知らないヤツだ調べよう!」タイプでしょうか。
熱心に探究を行い成果物に誇りを持つ、欲求に正直だけど分別ある魔法使いです。
なので割と、受け入れられやすいキャラクターじゃないかなと思います。
そして彼が庇護する少女、彼女は主人公の助力により生まれた妖精と獣人のハーフです。
愛情を注がれて育った彼女は、魔界送りにされてもピュアっピュアです。
悪い人に害されそうになって、他の人が罰を与えようとしても、彼女は許します。
魔獣に襲われて食べられそうになっても、殺すことに反対し、最後まで退いてくれるよう話しかけます。
そんな彼女が主人公の思惑で、新天地で何と聖女に!
少女らしい純真と、少女でありながら極まった慈愛を持ち、二つの種族の血を受け継いだ唯一の存在。
うん、生まれ的にも性格的にも、聖女でいいんじゃないかなあと思います。
とはいえ、純粋さは危うさと紙一重。
その辺りを教え導くサブキャラ達が、また温かいのです。
色々な人達に大切に育てられつつ、聖女自ら槍を取り、守り守られて充実の流刑地ライフを過ごします。
魔界に送られた者達が支え合って生きていく、サバイバルでアドベンチャー、溢れんばかりのハートフルな物語です。
タイトルから、流刑地で開拓系スローライフがはじまるのかと思っていましたところ、違いました!
魔術師ぺルクスはマッドサイエンティスト気味(知識欲が行き過ぎ?)だけど優秀な魔術師で、愛し合う獣人と妖精カップルのためにカモミールという二人の子供を誕生させてしまった事から、禁忌を犯したという事で流刑の沙汰が。カモミールの両親も、二人を逃がすために囮をした際に捉えられ、先じて流刑されており。
魔界という神の恩寵も精霊の加護も少ない場所。ほとんど死刑宣告と同じ扱いのようですが、なんとか生き残って生活している人もそれなりに。
両親も生活の基盤を作り上げて無事であるという事なのですが…。
新たな仲間を加えつつ、魔界ならではの生き物とのバトル、流刑されるに相応しい人間との戦いなど、次々と戦う場面が。ゴーレムや薬品を駆使するぺルクスの戦い方と、見た目は少女・中身は幼女なカモミールの肉弾戦は必見。
パーティ中一番強いカモミールが、優しすぎて結果的にトラブルメーカーになっていますが、周囲のサポートで彼女はどんどん精神的に成長していく感じでしょうか。
ぺルクス視点とカモミール視点が、随時切り替わる形で話が進行していきます。
ほのぼのシーン、熱いバトル、しんみりパートを織り交ぜた、魔術師と獣人と妖精の特性を持つ少女の大冒険。読んでみませんか?
※ひとこと紹介のところ、もしかしたら「本作はそういう話ではなくなくない?」というツッコミがあるかもしれませんが。作中のあのシーンが好きなもので…ということで、どうかひとつ。
ペルクスの、世界に対する向き合い方が好きです(※直球)
物語の概略はあらすじを見てください。そこに過不足なく書いてあります。
そのうえで。
禁忌を犯した罪で「神に見放された土地であり死後の安寧はない」とされる魔界へ追放されたにもかかわらず、復讐とか既存の秩序をぶち壊すとかの方向ではなく――煎じ詰めれば、カモミールが優しいよい子だったから、というところに集約される部分もあるのかもしれませんが――カモミールを「聖女」という立場にぶち上げて、「魔界においても神は信じる者を見守っている」という新しい信仰と秩序をぶち上げる。
この、信仰なんかクソ食らえ、とか、秩序なんて邪魔くせえものぶち壊してやるぜー、みたいな形じゃなく――それはそれとしてペルクスは真理の探究が優先事項っぽいので割とエッジの尖ったところもありますが、そのうえでなんだかすごく器用に世界と「折り合っている」、そのスマートさを魅力的に感じます。
魔界を探索し、同様に追放された人々と行き会い、信念を通すためにぶつかったり、言葉を尽くして和解したりしながら、魔界と呼ばれる土地で、周りの世界と折り合ってゆく。
そこにはヒロイン(?)である聖女担当カモミールの純粋さというのか、澄んだ心根みたいなものに根差すものもあって、そうした「純粋無垢」な女の子がどうやって自分の信じるところを通すのかという、書き方を誤るとひどく扱い辛くいびつになりそうなものも綺麗に描き出しています。
スパっと言いきれないのがもどかしいのですが、そういうものの描き出しかたが、たまらなく好きな感じなのです。
純粋に異世界ファンタジーとしても描写力が高くしっかりしたお話なので、その点だけでも十分以上に楽しいと思います。魔法の詠唱? とか実にセンスがあってかっこいい。
そのうえで、ペルクスやカモミール、彼らを取り巻く、あるいは彼らと出会うひとびとの中に何かしら惹かれるものを感ぜられたなら、きっとそれ以上に本作の世界へのめり込めるはずです。
よろしければ、まず第一章を。
そこまででおよその方向性は見えると思いますので、是非に。