本番は35話から? スロースタートだが読む価値あり!

明晰夢を見る会社員・航(わたる)は、ある日、他人の夢を渡り歩く少女・碧(あおい)と出会う。夢の世界でしか交わることのなかった二人は、現実の世界でそれぞれの人生を歩んでいたが、「藤咲菫」という少女の存在から徐々に狂っていき……。

まずこのお話、第一部、第二部は登場人物紹介や大事な設定の紹介が中心で、ほとんど事件らしい事件は起きません。菫が同級生女子からストーカー紛いの嫌がらせを受けるなどの出来事はありますが、非常にスロースタート&スローテンポ。
また、多くのネームドキャラが登場しては視点が切り替わるので、最初は群像劇めいた様相を見せますが、主人公は航と碧、そして主役は菫、という感じです。

「これはいったい何のお話なのかな?」ということが分かるまで、けっこうな時間を要しました。グワッと面白くなったのは、35話である事実が明かされてから。しかし、いきなりそこから読んでも、話が分からないので途中を飛ばすことはオススメできません。序盤で碧と菫、その他の友人関係周りや穏やかな日常が描かれてることで、後後に効いてきますしね。クライマックスの「ポンプ」にはなるほどと膝を打ちました。綺麗な構成です。

それにしても気の毒なのは■ちゃんです。悲劇的な少女として登場し、彼女の幸せを願っていたら、みるみるうちに狂い、怪物として牙を剥き……彼女が彼女として私たち読者の前に現れていたのは、ごく短い時間だったことを思うと、あまりに悲しい生でした。

伏線がしっかり回収されていく気持ちよさはありましたが、もう少しシェイプアップできたのではという思いもまたあります。が、それでも一話一話先が気になって読めたので、地力の確かさを感じる作者さんです。
20万文字という長い時間を付き合ったキャラクターだけに、エピローグの爽やかさには感無量でした。面白かったです。