第六十話

 【303号教室列車】にて九重ハジメ、ルビー、フタミツ。そして【606号教室列車】が合流した事で、再会を果たした二個ニャーコ一個ワンコの『アイアンホース』たちは狭い室内にて一堂に会したいた。


「──ナー、するとなんだ。アルテミス女学園には『P細胞』の活性化率を下げられる人型プレデターが居てだ。そいつの出す“血清”という薬のおかげで“卒業”せずに済んだって事か?」

「ああ、そのとおりです」

「信じられねぇな」

「でも事実ですよ、その証拠は自分自身です……誰かとの過激な再会のおかげで、いまちょっと死にかけていますが……絶対最後の馬乗りラッシュはやり過ぎだろ」

「お前が悪い」


 顔面が、ちょっと描写できない事になっているハジメ。その原因である二個ニャーコに抗議するが、あっけなく一蹴される。


「ハジメ、大丈夫?」

「まあ、すぐに治るので、そこまで心配しないでください」

「……むー」

「……にゃー、まあちょっとやりすぎたかもな、悪い」

「なんで自分に言わない」


 ミツに頬を膨らませて、可愛く睨まれた二個ニャーコは、少し気まずそうに視線を逸らしながら鳴いた。純粋に身内を大切にしている後輩には、ちょっとだけ態度が違っていた。


「ふん、突飛な話だが事実、活性化率が下がっている。機械の故障ではない事も確認した……信じるしかねぇか」

「ククッ、しっかし面白かったぜ二個ニャーコ。お前が、あそこまで取り乱すのは初めてだったんじゃねぇか……くふ、ギャハハハハ! 思い出して笑えてきぶぼ!!」

「黙れ、一個ワンコ


 同じ【606号教室列車】に所属している一個ワンコの思い出し爆笑を止めるため。二個ニャーコは強烈なボディーブローを食らわせる。


「あーいてて……別に恥ずかしがる事ないだろ? ナーバスになって、情けない姿を直で見られたわけじゃぐべ!?」

「ナー、まじで黙れ」

「相変わらず、懲りないひとですね~」


 変わらぬ一個ワンコ二個ニャーコのやりとりに、フタは何時もの調子で、されど何処か楽しそうに呟く。


「まあでも、なんだか安心したわ。あんたちは、それでこそよね」

「あーー? ……お前、もしかしてルビーか?」

「やっぱり気づいていなかった。そうよ、久しぶり」

「だってお前、髪の毛が……あ」


 意中の相手に振り向いてもらおうと、可愛らしくツインテールに結んでいた紅玉色の髪の毛が、バッサリと切られており、ショートになっていた。その事でルビーである事に気が付かなかった一個ワンコは、ある情報を思い出す。


 ――先んじて言うと、この段階でルビーは一個ワンコに向けて、絶対零度の眼差しで見ていた。


「知ってるぜルビー。髪を短くするってアレだろ! お前タクヤに振られたんだな! すげぇ、『アイアンホース』が失恋してるぜ失恋!! ぎゃははははゴッほぉお!!?」


 想像の百倍イラッとしたルビーは、一個ワンコの腹に強めの蹴りを食らわせて仰向けへと倒したあと追撃で踏み始める。


「人の恋路を笑うなら、鉄の馬に蹴られても文句は言えないわよね!」

「話を脱線させるんじゃねぇ!」

「自分もイラっと来た!」

「ぎゃ! ぐえ! ごほ! ぐはぁ!?」

ミツ~、教育に悪いので見ちゃダメですよ~」

「なんで? 一個ワンコが踏まれているだけでしょ?」

「もう手遅れでしたか~」


 二個ニャーコとハジメも参戦。三名で取り囲んで一個ワンコを踏みまくる。フタはなんとなく教育に悪いかなとミツの目を隠すが、もう何度も見慣れている光景なため、特に気にした様子はない。


 ハジメの時と別人ってぐらい対応が違うが、なにせこの一個ワンコ、礼儀知らずの無遠慮、ノンデリ発言がとにかく多い。本気でも冗談でも口を開けば性質の悪い事ばかり口にして汚く笑う。それで二個ニャーコを筆頭とした他のアイアンホースにしばかれるのは日常の風景となっていた。


「──ちょ、ちょっと、お前らなにしてんだ!?」


 一方で倒れているやつを取り囲んで足蹴りする光景は、見慣れていないアルテミス女学園ペガサスである『土峰つちみね真嘉まか』にとって刺激的すぎたようで、慌てて室内に入ってきて止めにはいる。


「ハジメまで寄って集って、いったい何が……おい、大丈夫か?」

「おー……お? お前……」

「真嘉だ。アルテミス女学園から来た『ペガサス』で……どうした?」


 一個ワンコは、差し伸べられた手を掴むことなく、じっと真嘉を見たと思えば、ニヤッと笑った。


「パッと見たとき思ったけど、ぜったい性格が根暗ぽっ!!?」

「うちの先輩に無礼働いているんじゃないわよ!」

「恥の塊が!!」

「親切に感謝をしろ!」


 再び足踏みタイムが開始されて思考が停止する真嘉に、フタが肩を優しく叩く。


「これが自分たちなので、あまり気にないでくださいね~」

「そ、そうか……なんか、悪い……?」

「お気になさらず~」


 文化の違いというものを知らずに干渉してしまった、そんな気恥ずかしさのようなものを感じつつも真嘉は部屋から出て扉を閉めた後。いや、やっぱおかしくないかと首を傾げた。


「ったく……それで? これを知っている『アイアンホース』は、お前たちだけか?」


 閑話休題。ある程度、満足した二個ニャーコは話を元に戻す。


「話が早くて助かるよ。そのとおりです、そして大人たちに決して知られてはいけない、最重要機密と思って下さい」

「ナー、当然だな、ったく、とんでもない事に巻き込みやがったな」


 活性化率を下げられる手段があると、自分たちを管理する大人たちに知られてしまえば、どんな事になるのか、世間を知らないアイアンホースでも想像は容易かった。そのため二個ニャーコはハジメから打ち明けられた“秘密”は、決して口外してはならない情報である事を察する。


「すいません。二個ニャーコ、それに一個ワンコにはどうしても“卒業”してほしくなかったんだ……こうして再会できて、本当に嬉しく思います」

「……ニャー、それで? 自分らはどうすればいい? あの阿呆トンマを締め上げるか?」


 二個ニャーコ阿呆トンマと呼称する相手は【606号教室列車】のザクリ車掌教師。つまり自分の担任相手に、反旗を翻すかと訪ねた。


「そんなに見せつけているんだ。首輪もどうにか出来るんだろ?」


 ハジメの首に『アイアンホース』ならあるべき首輪の無い。二個ニャーコたちと再会する前に、あえて外していた。それにしっかりと気づいていた二個ニャーコが指摘すると、ハジメは頷いた。


「ですが車掌教師に害を与えた場合のリスクが想像できなくて、判断を迷っています。この秘密は『鉄道アイアンホース教育校』、『新日本鉄道』、なによりも『久佐薙財閥』に決して気づかれてはならない。そのため出来る限り、強引な手段は避けたいというのが自分たちの総意です」


 だからといって、このままザクリを放置しておけば機密を守りながら、一個ワンコ二個ニャーコの活性化率を下げるというのは難しい。しかし、何もしないで互いの用事が終わってしまえば、今度こそ今生の別れになるのは確実であり、何かしらの対処は必ずしなければならない。


 二個ニャーコは自分の車掌教師であるザクリに危害を加える事に、なんの躊躇いも無かった。生かすにしても、殺すにしても、どちらでもいいと本気で思っている。別に嫌悪している訳では無い。ただ単にハジメとゼロの間柄のように種族を超えた情を持ち合わせていないだけである。


「ナー、面倒な話だ」

「くくっ、確かに面倒だな。でも大丈夫じゃね? お前だって、そう思っているからそんな緊張感ねぇ腑抜けた面してるんだろう?」

「……まあ、そうですね」


 図星であると、ハジメは曖昧な返事をしつつ扉を開く。すると先程から聞こえていたスピーカー越しの声が、はっきりと部屋に届くようになる。


≪──ほんと聞いて下さいよぅ、この間は大変だったんだぁ。いきなり鳥取砂丘に行けって言われて到着したらさぁ、もう教室列車の大渋滞。何十台も並んで、ちょっと動くにも指示待ちしないと行けなくて、ほんと窮屈だったよぅ≫

≪…………≫

≪それで作戦開始したら、ずっと煩くて指示出されてもなに言ってるか分からないし、おかげで二個ニャーコたちも何いってるか全然聞こえなかったし、ミミズ型プレデターの大群も押し寄せて死にかけるしでぇ、もう大変だったんだぁ≫

≪…………≫

≪でもね、いい事もあったんだよ。この確認任務が終わったら『新日本鉄道』に異動になるんだよねぇ! 今までの活躍も評価してくれたらしくって物凄く出世しちゃったぁ。あ、そういえばゼロ先生に指揮を任せた作戦も、なんだか全部僕の活躍みたいになっちゃっているみたいでさぁ、申し訳ないなって訂正しようと思ったんだけど、なんか話全然聞いてくれなくてぇ、だから改めて、ちゃんと言おうかなって思うんだけど、どうかなぁ?≫

≪…………必要ない≫

≪そう? なら止めとくよぅ。でもゼロ先生が居ないと不安だなぁ、話を聞くと全部部下がやってくれるのは嬉しいんだけど、知らない人に任せるのもなんだか嫌だよねぇ。だからゼロ先生が、一緒に『新日本鉄道』に来てくれたら物凄く助かるんだけど……そうだ! ゼロ先生、僕の部下として一緒に『新日本鉄道』に来ない? もちろん今みたいな感じで仕事してくれたらいいからさぁ≫

≪必要ない≫

≪えぇ 残念だなぁ≫


 スピーカーから聞こえてくるのは、ザクリが揚々と一方的に喋り続けて、時々観念したかのようにゼロが素っ気なく返事をする会話であった。実はゼロの判断で室内の会話はザクリに聞こえないようにしているのだが、それに関して一切気づくことはおろか、自分が担当する二個ニャーコたちから通信が切れて結構な時間が経過したが、【303号教室列車】で何をしているのかを気にする様子すら見せない。


「……お前ところの担任は知ってるのか?」

「はい」

「平気か? 真面目だろ?」

「はい、ですが信じてください。先生でなくても、『九重ここのえハジメ』となった自分を」

「あ? ……ナー、意味分からん事を言っていると思ったが、そういう事か」

「クハッ、ほんとお前は楽しいやつだな!」


 ハジメは自分が生きている理由を説明する最中、『九重ハジメ』という人間らしい名前に改名した事を伝えた。九重という名字が『九重零ゼロ先生』に何かしらの関係があると二個ニャーコたちは察して、各々の反応を見せる。


「いいねぇ、どうでもいいのは変わらんが、他人が持ち始めると何だか欲しくなる。自分らも人間らしい名前に改名するか二個ニャーコ、何か案はないのか?」

「バカイヌ」

「いうと思ったぜ! ギャハハハハハ!! ほんとこういうセンスは一ミリもねぇよな、ダサネゴォッ!?」

「……今のはちょっと理不尽じゃない?」

「……ニャー」


 ルビーの指摘に、一個ワンコの脛を蹴った二個ニャーコは視線を逸らして何時もよりも高めに鳴く。ともあれ、ハジメたちの共通認識としてゼロ先生が進言すれば、ザクリの事はどうとでもなるというのが、アイアンホースたちの共通認識だった。


 ザクリは、一切の誇張抜きの阿呆である。難しい物事はもちろん、浅い物ですらも考えるのが面倒と、直ぐに放棄する怠け者でもある。それこそ鉄道アイアンホース教育校に就職できること事態、本来は有りえないこと、そんな人間がどうして車掌教師をやっているのか、その理由は極めて単純。『新日本鉄道』に属する重鎮の、出来の悪い子息だからである。


 彼が座る【606号教室列車】の管制操舵室の席は、七光りと呼ぶには親のプライドや世間体によって随分と曇りきった事情で与えられた席だった。ゆえに専用の最新式ハイエンド型AI管制システムを搭載されており、どんなに技術が不足していても注文通りに火器の運搬と火力支援ぐらいは、問題なく出来るようになっている。


 とはいえ、本人の能力不足と怠惰な性格、その経歴も合わさり、他の車掌教師からは妬みの対象、あるいは危険物として蛇蝎だかつのごとく嫌われていた。そんな中で共同作戦を行うことになったゼロ車掌教師に、その作戦での指揮系統を全て渡したら、何だか知らないけど、ほぼ完璧な結果で任務が終わっていた。ついでに言えば自分に対して罵倒、悪態、文句など一切言わなかった。


 ──この人は自分に優しくて楽させてくれる人。ゼロの事を、そう認識してから非常に懐き、彼の言う事なら何事でも従うようになった。だってそうすれば上手く行くし、良いことが起きるのだから。


 これこそがハジメが、ザクリに対してどうとでもなると確信している理由である。


「今までの恩義が、お礼になって帰ってきたと言えば聞こえは良いけどね」

「そんな難しいこと、アイツに出来るわけねぇだろ」

「……そういえば『新日本鉄道』に異動って聞こえたけどマジ?」


 先程の緊張を思い出して、なんとも言えない顔をしていたルビーは、ザクリの言葉に気になるのを見つけて問いかける。


「ナー、マジだ」

「信じられないわね」


 車掌教師の直接的な雇用先である『鉄道アイアンホース教育校』、その親会社に当たる『新日本鉄道』へと異動ともなれば大出世である。『アイアンホース』を管理する大人たちの事情なんて知ることはないが、車掌教師でアレは誰もが欲すると言っても過言ではない栄光をザクリが手に入れた事に、ルビーは信じられなかった。


「…………」

「ルビー? どうしましたか~」

「ん、なんでもないわ」


 ふと、ルビーの頭に自分の担任だった車掌教師の顔が思い浮かぶが、胸元に飾られた真っ赤な合成コランダムのブローチを軽く触れて、思考を切り替えた。あんな結末を迎えたとしても、もう全てを失ったとしても、思い出の中には輝かしいものだってある、それを、ちょっとした事で汚したくはなかった。


「……ザクリ教師に関してゼロ先生に一任しようと思います、それでいいですか?」

「ナー、異論はない」

「くくっ、まあそれしかねぇだろうな」

≪──ザクリ車掌教師、話がある≫

≪ええ!? ゼロ先生の方からなんて珍しい、いったいなんなのぅ?≫


 全員の意見がまとまって直ぐに、ゼロの方からザクリへと話を持ちかけるという珍しい事態が起きる。どうやら、この室内での会話を聞いていたようだと全員が察する。


≪……現在、【303号教室列車】は機密性の高い作戦任務中である。そのため疑問を抱くほど不可思議な事例を目撃するかもしれないが、それら全ての情報を聞く権利は貴殿に無く、また例え上層部のどの人間であっても口外してはならない、いいか?≫

≪え、えぇ、なにそれぇ?≫


 ──下手ぁ……。


 一方的に捲し立てるように、聞くな、話すな、何も気にするなって言われても無理な話であるのは『アイアンホース』でも分かる。疑問と不振を振り撒くだけだ。一気に不安になったハジメは深く帽子を被る。


「あんな長文で話すの、初めて聞きましたね~」

「じぶんも~、というか命令以外で会話した事ないよ!」

「ナー、よくそれで、ここまでやって行けたよな?」


 【303号教室列車】のゼロ先生とハジメたちは、他と比べてむしろコミュニケーションを怠っている方なのだが、どうしてか妙な信頼関係を持っており、二個ニャーコは不思議な奴らだと、ぼやく。


≪いったい、どんな任務なんですか、それぇ?≫

≪……機密だ≫

≪んぅ、でもちょっとぐらい教えてもらえないと、秘密にする事もできないんじゃぁ?≫

「ククッ、ザクリに正論言われてやんの、お前ところの担任は本当に口べだぁ!?」

「黙れ、口が緩い一個ワンコ


 ザクリの問いかけにゼロは暫く沈黙する。故障したのかと勘違いしたザクリがマイクを弄りだす。どうなってしまうのかとハジメたちに緊張の空気が走るなか、ゼロのマイクがオンになる。


≪……極めて面倒な任務だ≫

≪えぇ、そうなのぅ ……分かりました、面倒なら聞かない! 言われた通りにするよぅ!≫


 ──本当に阿呆トンマで良かった。


『アイアンホース』を管理する車掌教師という責任者として、あるまじき無責任な発言をしているが、これこそがザクリであり、今回のようにハジメたちが助けられているものである。


「……良かった」

「ほんと不安にさせるんじゃないわよ」

「まあ、強引なのも有りだと思ったがな、これまで溜まった鬱憤を晴らすいい機会だったろうに」

「チッ、こんな阿呆トンマにしても意味はねぇ」

「……そういえば~、【606号教室列車】って一個ワンコ二個ニャーコの、おふたりだけなんですかぁ?」


 思えば【606号教室列車】から誰も来ないとして、フタは何気なく気になった事を尋ねると一個ワンコは思い出したかのように、手を叩いた。


「……ナー、完全に忘れてた。【606号教室列車自分ら】の方に、もう一名いる」

「裸にひん剥いて放置していて、完全に忘れてたな」

「あんたたち何してんのよ!」

一個ワンコが勝手にやったんだ……。面倒だが、そいつにも説明を頼む」

「構いません。ただ、もう少しで北陸聖女学園に到着しますので、先ずは、そちらの方の対処を優先する」


 ハジメは、【606号教室列車】に残っている『アイアンホース』が初めてあう後輩だとして、事情の説明もそうであるが説得、懐柔の手段などを考えると、到着までの残り時間では半端になってしまうとして、後回しも視野にいれる。


 そんな風に思考を巡らせていると、一個ワンコが小さく笑う。


「くくっ、ハジメ、お前ずっとこう思っていただろ、“アイツが入れば全員集合だったのにってな”」

「……まさか? でもどうして?」


 思い浮かんだのは、作戦を共にしてきた最後のひとりの顔。だが彼女は違う教室列車に所属しているはずだ。


「鳥取砂丘で色々と有ったんだよ──というわけでだ。英雄チーム再結集だぜ」


+++


──────────


2674:アスクヒドラ

真嘉ちゃんから合流した教室列車について連絡があったよ。

なんだかゼロ先生と仲の良い人が乗っている教室列車だったみたいで、ノープロブレムだってさ。

ハジメちゃんが、取り持ってくれたとか。

いやぁ、ほんと何事もなくてよかった。


2675:プテラリオス

はい、本当に良かったです。


2676:識別番号04

幸運だな。


2677:アスクヒドラ

ほんとそれ。出発前の兎歌ちゃんたちの祈祷のおかげかな?

ご利益超でてる。


2678:識別番号02

興味→祈りによる確率の変化。

要望→アルテミス女学園を訪れたさいには、『ペガサス』のトカに願い出て検証を行いたい。


2679:アスクヒドラ

まあこういうのは当たるも八卦、当たらぬも八卦だと思うけどね。

でも、ツクヨちゃんが言うぐらいだから、そういう運系の才能ってあるのかな? 

俺も気になってきちゃった。


2680:識別番号04

会話が脱線してる。


2681:アスクヒドラ

あ、ごめん。

まあ、お互いに情報交換できたわけですが……えっと、ゼロツーの状況を一言で説明すると。

『ポイント・ネモの底で発見した古代宇宙船に吸い込まれたら、新しい体を手に入れて美少女と狭い部屋でふたりきりになっていた件について!?』

ということで合ってる?


2682:識別番号02

肯定→間違ってはいない。

不満→間違ってはいないが、言葉のチョイスが気になる。


2683:アスクヒドラ

まあ、要点をしっかりと抑えて纏められたということで。

……うん、でも凄く渋滞してるな!


2684:識別番号02

肯定→なんかすごい事になっていた。


2685:アスクヒドラ

ほんとだね……。


2686:識別番号04

識別番号02に疑問。進化した姿が球体とのことだが、それは人型として認識すればいいのか?


2687:識別番号02

肯定→元が非人間形態であるが、分類としては人型と認識しても正しいと思われる。


2688:アスクヒドラ

プテラみたいな感じ?


2689:識別番号02

判断→感覚的な話になるが、人体用のボディースーツを着用したさい、まるで元々の肉体だったかのように動かす事ができた。

理由→おそらく物体操作系の機能が人型にフォーマット化されている。


2690:アスクヒドラ

なるほど、それじゃあ形が人っぽいもの限定で動かせるの?


2691:識別番号02

命名→名無しの不便性を考えて、自身の肉体に成れる物体を『人器じんき』と呼ぶこととする。

不明→自身の『人器じんき』になりえるものは、いま操作しているもの以外、室内には無かったため検証できなかった。

余談→ただし、箱や穴がある物体は触れて動かせるが、『人器じんき』には出来なかった。


2692:アスクヒドラ

まだなんとも言えないね。


2693:識別番号02

肯定→ただし、解釈の幅は広く、想定以上に応用できる可能性がある。

願望→早く試したい。


2694:アスクヒドラ

それも学園に戻ってからね。落ち着いて落ち着いて。


2695:識別番号02

無論→自身は目が覚めてから、ここまで常に極めて冷静だ。


2696:識別番号04

本当か?


2697:識別番号02

無論→無論。


2698:アスクヒドラ

うーん、これは無論。

それで、クリオネちゃんって結局、北陸女学園の『聖女シスター』で間違いないなんだよね?


2699:識別番号02

肯定→北陸聖女学園に在籍する 彼女は『P細胞』を保有した少女である。

理由→プテラリオスのレーダーによって自身がいる地点が『北陸女学園・第七分校』である可能性が極めて高い。

理由→自身の触手により彼女の身体情報を会得、『P細胞』の存在が検知する事ができた。


2700:アスクヒドラ

そっか、それでクリオネちゃんの様子は?

どうしてここにいるかとか、そこあたりの事情で何か分かった事ある?


2701:識別番号02

様子→自身のボディ(仮)の指を掴んで座り込んでいる。精神は安定していると思われる。

不明→関係している情報は得られていないため断定はできない。

補足→シスター・クリオネの『P細胞』を調べてる中で判明したことが関係している可能性が高い。


2702:アスクヒドラ

『P細胞』……すごく嫌な予感がする……。


2703:識別番号02

回答→シスター・クリオネの活性化率は【92%】だ。


2704:アスクヒドラ

……まじかよ。じゃあここに居るのって、アレか、その……アレか!?


2705:識別番号02

不明→活性化率上昇による処分が目的だった場合、ひとり倉庫のような場所で放置される理由が分からない。


2706:識別番号04

それ以外の目的があると?


2707:識別番号02

不明→考えるにしても、調べるにしても情報が足りなさすぎる。

現状→外に出て調べたいが、アスクたちが来るまで待機する。


2708:アスクヒドラ

だな。俺たちが到着すれば何かあったら助けやすいと思うし、なんなら先に向かうのも有りなのか?

ただ、俺たちって学園に近づけるのか?


2709:識別番号02

不明→しかし、この場に数時間待機していたが、外からの反応が無い。

結論→学園内部だけで言えば、『プレデター』を感知する機械は無いと思われる。


2710:アスクヒドラ

アルテミス女学園と一緒っぽい? 

ヨキちゃんが言うには内部に『プレデター』を感知するレーダーとか設置したら、『ペガサス』とかにも反応しちゃうから、どうしても取り付けるのは難しいって話だったね。


2711:識別番号02

問題→学園の外の警備状況が分からない。


2712:アスクヒドラ

それなんだよねぇ……やっぱり、こうなるとアルテミス女学園に帰るときに、みんな一斉に動くしかないかなぁ。


2713:識別番号04

自身が単独で識別番号02たちと合流するか?


2714:識別番号02

願望→できるなら、自身が居るポイント周辺の施設外を調べてほしい。

理由→何かしらの方法で外側から学園を脱出するさいの、安全性を知りたい。


2715:プテラリオス

自身はどうしますか?


2716:識別番号02

要望→無いに越したことはないが、いつでも発進できるようにしてほしい。

理由→プテラリオスと識別番号04による撹乱および誘導が重要になる可能性が高い。


2717:アスクヒドラ

そうだね。その時はクリオネちゃんも連れてこう。


事情はともかく、放ってはおけない。


2718:識別番号02

肯定→しかし気になる事がある。

事態→この北陸聖女学園第七分校に何かしらのトラブルが発生しているのかもしれない。


2719:アスクヒドラ

トラブル?


2720:識別番号02

肯定→ここは人があまり立ち入らない室内だったとしても、あまりにも静かすぎる。

補足→同時に海の中身が騒がしい。そんな気がしてならない。


2721:識別番号04

確証はないのか?


2722:識別番号02

肯定→自身に備わっている『プレデター』としての機能に反応するものはない。

考察→これはもっと総合的で経験による感覚的なもの、神経が尖っていると表現するべきか。

結論→北陸聖女学園第七分校は、既に平和ではないのかもしれない。


2723:アスクヒドラ

……いったい、何が起きているんだ?


──────────



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この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 庫磨鳥 @komadori0006

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