第五十九話
『鉄道アイアンホース教育校』が保有する『アイアンホース』を管理および現場へと移動させるための運行列車であり、法律の都合で学校教室として扱われている『教室列車』には番号が割り振られており、それらには意味がある。
ゼロが車掌教室を務める【303号教室列車】は、第一世代の防御力を重視させた車両。ルビーが搭乗していた【504号教室列車】は第二世代の速度を重視させた車両。
「──そしてこれから合流する600番台は、攻撃能力に特化した第二世代教室列車です。よって他の教室列車よりも遥かに多くの『
「あと教室列車の中では唯一、列車本体にも攻撃能力があるのが特徴ね。三両目が大きな砲台になっているわ」
【303号教室列車】、後部車両最後尾扉前、『
「“ほうだい”って……あのでっかい銃みたいなやつか?」
「そうよ。88ミリ口径のバカでっかい弾を打ち出すための、バカでっかい銃のこと」
「マジか……」
真嘉は砲台を実物で見たことないが、レミから勧められた映像作品で何度か見たことがある。あんなものが直撃すれば己の盾型専用ALIS【ダチュラ】を構えていても木っ端微塵になる事は避けられない。そんなものを積んでいる教室列車がやってくるのは、単純に恐ろしかった。
「といっても、けっきょく厄介なのは乗っている『アイアンホース』だけどね」
「強いのか?」
「装備がいいのよ。私たちのなんて600番台に乗っている『アイアンホース』と比べると豆鉄砲みたいなものよ」
「その装備を扱い切れるほどの実力者揃いであるのは間違いありません。戦闘になったら容易に勝てる相手ではないでしょう」
「……戦うんだな?」
ハジメとルビーは、己の銃型ALISを手に持ち、そんなふたりに指示を受けて真嘉は【ダチュラ】を狭い廊下に持ってきており、いつでも掴んで構えられるように裏面を向けて壁に立て掛けてある。
「分かりません……ですが単なる転校、鉄道アイアンホース教育校からすれば、良くある“輸送任務”でしかないのにも関わらず600番台を合流させるのは、極めて過剰な戦力です」
「武器庫が必要になる場所って言ったら戦場。つまり何かしらの戦闘を想定して来るって事よ」
「問題は、その想定された戦闘対象が何なのかですが……この【303号教室列車】が対象である可能性も考えられます」
「なんでだ、味方なんだろ?」
同じ教室列車である【303号教室列車】が攻撃対象になっているかもしれない。そう口にするハジメに真嘉は戸惑い、ルビーはからかうような笑みを浮かべた。
「【
マニュアルを守らずに成果を上げているゼロ車掌教師に、英雄と大々的に宣伝される事となったハジメが乗った【303号教室列車】の立場は非常に複雑である。だから狙われる理由は思い当たるが、ルビーは直感的に今回は違うと思った。
「もしかして……オレたちの“秘密”がバレたのか?」
そんな中で真嘉はふと思い当たり、口にする。アスクヒドラのこと、“血清”のこと、ほんの僅かでも気づかれてしまえば狙われるには十分な理由だ。
「それでもどうかしらね。もし“秘密”を知っていたら、下手したら木っ端微塵にしかねない600番を向かわせるよりも、400番の数を揃えて捕まえに来る気がするわ」
「理由はどうであれ、敵にすれば極めて危険な相手がやってきます……警戒はしておいたほうがいいでしょう」
「──戦うの?」
部屋から話を聞いていた『
「あくまで全て可能性の話ですが、“秘密”を守らなければならない以上、穏やかに済ませるのは難しいと言わざるを得ない」
ハジメは帽子を深く被り、なるべく淡々とした口調で話す。明確な表現こそ避けたものの、自分たちの境遇的に時と場合、相手によっては戦闘もありゆる。また最悪、自衛のためではなく、秘密を守るために“卒業”させるつもりである事を、全員に伝えた。
「それってっ!」
「バレたらまずいでしょ」
「──っ!」
「別に“
「それは……」
──物言わぬ、意思があるのかも分からない、こちらを殺しにくるだけの『プレデター』とは違う。意思があり、自我があり、自分たちと同じように言葉も話せる『アイアンホース』たちと殺し合わなければならない。まだ可能性の話であるが、可能性で十分だった。
「……2人は経験あるのか?」
「無いわね。でもルビーの場合はアイアンホースになる前から訓練を受けているから、まあ……多分やれるわ」
「だったら……」
「気にしないで下さい。そのための自分たちです」
ハジメとルビーの覚悟を決めている姿を目の当たりにした真嘉は言葉を失う。空気が合っていたと思っていた彼女たちと自分は違う、自分は所詮アルテミス女学園ペガサスでしかない事を突きつけられた気がした。
「……オレは」
「──きょうちゃんは、一緒に戦うね!」
「な、響生!」
「小振りな【アジサイ】なら廊下でも、ぶんぶんできるし行ける行ける!」
重たい空気を読めていない元気な声が響く。自身の斧型専用ALIS【アジサイ】を持っている『
「ありがとうございます。ですが戦闘はあくまで可能性の1つです。なんにしても、こちらか奇襲を掛ける事はできないので最初は様子見に徹します」
「一番は、何事もなく600番の用事が終わって解散することよ」
「おっケー!!」
「言っておくけど、ルビーたちの戦いは銃撃戦だから。正面から突撃とかしないでよね」
「それぐらい分かってますがな~」
ハジメたちと響生が話を進める中、真嘉はこの間の事を思い出す。
──響生先輩は“鬱病”の可能性があります。
今は先頭車両の見張り台から、外を警戒している
だから、おかしいと思う部分はあるけども、常に明るく振る舞っている友達が“鬱病”であると言われたとき、真嘉は本当かと疑った。
確かに『ペガサス』は肉体こそ『P細胞』によって常時最適化が行われており、健康状態を維持されているが、一方で脳などの神経系に関しては『P細胞』は徹底して不干渉である。そのため単身で『プレデター』と戦える十代の少女たちは何かと心が原因の病気を患いやすい。
例えば『
──『ペガサス』が心に何かしらの問題を抱える事は当たり前と呼べるものなのかもしれない。だけどいつも元気な姿を見せてくれていた友達が、元気を無くしてしまう病気だという、今でも信じられなかった。
「でも、もしもの時は頑張るよ、あちょちょとととととちょあー!! って感じで!」
「全然分からないけど、その時は頼りにしているわ」
だけど、もしそれが正しいのなら、響生の振る舞いは人を笑わせたいという願いから来るものではなく、自分の本当を偽るためのものだったとしたら──。
「どうしたの、まかまか?」
「──っ!? ……いや、なんでもない」
響生に声を掛けられた真嘉は思考の渦から抜け出せす事ができた。響生に関する問題は、もはや短期間にどうこうできるものではないと発覚した。よって、
「……ハジメ、もし戦うってなったら、オレはどうすればいい?」
だから真嘉が響生の事を後回しにするのは間違っていない。それでも、何処かでホッとしている自分が居て、そんな自分に嫌気を指しつつ、ハジメに自分の役割を尋ねる。
「もしも、相手車両が【
【ダチュラ】の内部には正面を映す小型カメラが搭載されており、使用者の思考操作によって盾を構えながらカメラ越しに正面を見ることができ、またカメラを通して〈魔眼〉を発動する事ができる。これを用いて、ハジメは真嘉に【303号教室列車】の扉を防ぐ壁役を頼んだ。
「でも間違っても弾を、率先して受け止めようとはしないでよね。いくら先輩の盾が頑丈だとしても耐久テストができないから、どれぐらい防げるか分からないし、弾丸次第では簡単に貫通するかもしれないわ」
「防げない弾って分かるのか?」
「見て明らかにゴツい銃を構えたら警戒して、撃とうとしてくるって事は跳弾せずに貫通できると判断したからだと思ったほうがいいわね」
「あと、そうですね。アスクたちに一緒に戦ってくれるか意思を確認して下さい。もし可能であるならば、もしもの場合、合図したら救援に来てくれるように要請のほうお願いします」
「分かった、この話が終わったらすぐに連絡する」
既に通信機を通して、600番台が合流する事はアスクに伝えられており、気づかれないように距離を数キロ離して付いてきてもらっている。本人は『アイアンホース』と戦いたくないこと、相手の前に現れて本校に気づかれるリスクは承知しているが、劣勢となれば鉄道アイアンホース教育校に気づかれるリスクを承知で、一緒に戦ってもらなければならないとハジメは判断し、真嘉も反対しなかった。
「それで、アスクたちに合図を送るタイミングなのですが……真嘉先輩が判断して行って下さい」
「お、俺が?」
「はい、お願いします」
「……わかった、任せてくれ」
そんな大事な判断をする自信がなくてハジメに委ねようとしかけたのを堪える。このままじゃ行けない、変わらないと行けないと通信機を握りしめて、不安な気持ちを誤魔化しながら承諾する。
「自分は真嘉先輩の後ろに付きます、ルビーは
ハジメは手慣れているように、キビキビと戦闘になったさいの配置を決めていった。彼女をリーダーとして認めているアイアンホース勢は元からであるが、アルテミス女学園ペガサス勢も『街林調査』にて編成や戦い方に関して助言を行っている彼女に異議を唱えるものは居なかった。
「了解……まっ、何事も起きない事を祈りましょう」
「はい、そうである事を望むばかりです」
ハジメたちのぼやきに、このままスルーするのは違うだろうと真嘉は、無知を承知で話しかける。
「なんとかして、戦わずに解決できないか?」
「分かりません。可能性が無いわけではないが、『アイアンホース』たちは車掌教師の命令に忠実な子が多いです。そうしなければ命に関わるので」
ハジメは首輪に触る。それには己を“卒業”させるための毒針が仕込まれており、車掌教師の判断でいうでも起動させる事ができる。つまり『アイアンホース』たちに戦意がなくても、相手側の車掌教師の意思次第で戦闘になる。
「車掌教師の説得は難しいでしょう。何かしらの任務を帯びて敵対行動を取っているのならばなおさらです。もしかしたら、その車掌教師は【303号教室列車】に敵意があるのかもしれない、そうすれば、どうしたって戦闘は避けられ──」
〈──こちら【606号教室列車】の『ザクリ』、【303号教室列車】応答されたしぃ〉
ハジメの言葉を遮って、知らない男性の声がスピーカーから発せられる。男性にしては高めであるが、何処か詰まっているダミ声で、『
「…………先輩たち」
これからやってくる600番台の教室列車。もしかしたら戦わなければならない相手、初めての人間と同胞たちと戦わければならなくなる相手、その車掌教師かと真嘉は一気に緊張し、ハジメは帽子を深く被って視線を隠し、重々しく口を開いた
「──今までの話は、いったん全部無かった事にしてください」
「わか……は? うん? ……うん??」
何を言っているのか分からなかった。よく見ればハジメとルビーから感じられていた緊張感は何処かへと行ってしまっており、非常に渋い顔をしていた。
「もしかしてと望んでいた事はありますが……いざ、本当にそうだと変な気分になってしまった」
「あーもう、無駄な時間を過ごしたわ! 下の数字言わないから違うと思ったじゃない!」
「自分たちが勝手に勘違いしただけではありますが……。まあ警戒体制は維持……いや、どうだろうな」
「別にいいでしょ、間違いなくアイツの声だったんだし、なんか変な命令受けたらハッキリ言うわよ……ほら、あんた達も気を抜いていいわよ。解散解散」
「いや、いやいや、説明してくれ!?」
何が起きているか分からないと真嘉が尋ねると、完全に警戒を解いたハジメが申し訳無さそうに話し始める。
「600番台の脅威は言ったとおりです、車掌教師どのような指示を受けて合流するかは分かりません……ですがその、大丈夫です!」
「いや、なんで? なにが大丈夫なんだ?」
「なんといいますか……幾らでも融通が聞くことが分かったといいますか……」
どう説明すればいいのか分かないと言った具合に、ハジメは言葉を探す。それにルビーは呆れた様子で溜息を吐いた。
「簡単に言うと、【606号教室列車】の車掌教師はね」
≪ゼロ先生ぇ、久しぶりぃ、いやぁ、こうやって再会できて嬉しいよぉ!≫
「──ゼロ先生の支持者なのよ……あと馬鹿」
「そして【606号教室列車】は、戦友が乗る教室列車でもあります」
+++
【606号教室列車】は大群で襲撃してきた『プレデター』を想定した攻撃能力、またその現場へと武装を運搬する事を目的に設計された攻撃能力特化教室列車である。装備積載量は第2世代型の標準である400番台と比較して5.2倍とされており、これによって呼ばれるようになったあだ名が“動く火薬庫”。また三車両目には大型砲台が設置されており、唯一教室列車そのものに攻撃能力を保有している。
そんな【606号教室列車】は後ろ向きに走行しながら、【303号教室列車】へと合流を果たした。
≪【
≪了解、【
≪了解ぃ、速度調整を開始ぃ、【
耐久性と防御力を重視し、煙突のない機関車と呼ばれる重厚な【303号教室列車】。それよりも遥かに頑強で重々しく大きい、まさに装甲列車と呼ぶに相応しい外見の【606号教室列車】が後方うしろ向きに接近。二両の教室列車は走行状態を維持しつつ接近し、互いの後部車両に取り付けられている連結器を無事に連結させた。
≪連結成功、【
≪
≪…………権限受諾、これより目的地、『北陸聖女学園第七分校』へと移動する。速度を上げる≫
≪了解ぃ、速度上げる≫
一体となった【303号教室列車】と【606号教室列車】はゼロ先生の管制操舵によって、北陸聖女学園第七分校へと向かい速度を上げた。
≪──というわけで、このまま目的地へ直行するからねぇ……ふいぃ、今日はものすごく仕事をしたなぁ≫
「……ナー」
気の抜けた自身の車掌教師の声を聞いて、【606号教室列車】に在籍する『アイアンホース』が1名、不機嫌そうに声を発した。
その『アイアンホース』はブルーグレーの癖っ毛、ハスキーな声に気だるそうな半目から覗き込む鋭い動向。それに相反して、やや小柄な体型の童顔と可愛らしい。制服の上からフード付きのジャケットを着用しており、さらに細々とした道具が全身に取り付けられている。さらにリュックを背負い、自分向けにサイズを調整したものとはいえ、比較して大きな銃型ALISを握っていた。
【303号教室列車】のアイアンホースと比較して、見て分かるほどの重装備であるが、これは【606号教室列車】のアイアンホースにとって、当たり前の格好であった。
≪いやぁ、やっぱりゼロ先生最高だねぇ、何時も僕の仕事をしてくれるから、とても有り難いよぉ。今回だって本当は僕が先導しろって言われてたんだけどぉ、どっちが操作してもいいでしょって閃いてさぁ、思い切ってお願いして良かったぁ≫
【606号教室列車】の車掌教師であるザクリは、ぼんやりとした感じで楽できた事を嬉しそうに話し始める。別に会話をしているつもりはなく、単にマイクを細かくOFFにするのが面倒で独り言を呟いているだけである。
──ガン!! っとアイアンホースは側の壁を力強く蹴飛ばす。
≪うぁ!? もぅびっくりしたなぁ。急に大きな音出さないでよねぇ≫
「やかましい
≪えぇ、『
フードを被ったアイアンホース──
≪も~、最近ほんとうに機嫌が悪いよねぇ。砂丘での作戦もそうだったしぃ、もしかしてずっと、お腹空いているの?≫
本来であれば、アイアンホースが車掌教師に暴言、大きな音を鳴らして車掌教師を驚かせるというのは、即座に“退学処分”や“卒業”があり得るほどの危険行為であるが、ザクリは文句こそ言うものの、気にした様子は無かった。
「いい加減黙れ、
≪分かったから、そんなに怒鳴らないでよねぇ。もう本当にカリカリしてるなぁ──甘いもの食べたら機嫌直るかな?≫
心が広いとも、アイアンホースに脅えているという事ではなく、処分をするというまで考えが至らないのだ。明確に反乱されたってなら、流石に首輪のボタンを押すぐらいの発想はあるものの、これぐらいなら“なんだか機嫌が悪いな”というだけしか思わない。だから
「──でもほんと、最近の
からかい言葉を浴びせ、さらには汚らしく爆笑しながら
「ナー、お前も黙れ
「飽きちまったから部屋に転がしておいたぜ。まあ丸裸にしておいたから、なんも出来ねぇだろ」
「ナー……おい、丸裸って装備の話か?」
「いや、衣服も全部だぜ。ああ、なんも出来ないって間違ってたな、自分の穴に指突っ込むぐらいならできぐほっ!?」
小柄な見た目からは想像できない威力を秘めている
「あー痛てぇ……くくっ、何だよ、元気じゃねぇか」
「お前の、うんざりな
「んで、実際どうするよ? 最後まで隠居するつったって介護はうんざりだぜ?」
「知るか、あのままなら蹴り飛ばすだけだ。この列車に乗った以上は、自分の指示に従ってもらう、例えどんなものでもな」
ふんっと鼻を鳴らして、そっぽを向く
「ギャハハ、ほんと変わんねぇな。お前も、自分も、案外【
「……ナー、ふざけた妄言をいうんじゃねぇ」
声色は変わらず刺々しく、だけど長年の付き合いである
「だって
「ナー、その奇跡っていうのは、みんな仲良く“卒業”って意味か?」
「いいじゃねぇか。別にそれで、自分らは『アイアンホース』だろ?」
銃型ALISに表示された【84%】と表示される己の活性化率を見せつけながら睨みつけてくる
「まっ、なにしたってこれで最後なのは間違いねぇ、だったらせめて、会いに行こうぜ。鳥取砂丘での作戦生き残ったご褒美だって事でよ」
「……お前はほんと、バカ犬だよ」
「賢すぎてすぐに余計な事を考えてナーバスになっちまうチビ猫様にはお似合いだろ? ぎゃはは痛てぇ!?」
「まあいい、とっとと【303号教室列車】に行くぞ。北陸聖女学園へ仲良しこよしで向かう理由も気になる。何か知ってるなら到着する前に情報を共有する」
「へいへい」
「こちら
≪分かったぁ、でも何時も言ってるけど、そんな細かい事、いちいち報告しなくていいからねぇ≫
──ドガッ! っと
≪うわっ! だから大きな音出さないでってばぁ!≫
「やかましい! ちゃんと報告を聞け、だからお前は
「くくっ、このやりとり何千回目か数えておけばよかったか? なんだっけ? ガメス、ギネス、グネス……まあいいや、上司に暴言を吐いたアイアンホースって世界記録狙えたかもな!」
「知るか」
──【303号教室列車】には
それでも、アイツの奇跡を目の当たりにしてきた
「……ナー」
扉を開こうとした腕が止まってしまう。そんならしくな自分に鳴き、改めて扉を開き、車両を繋ぐ連結器をまたぎ【303号教室列車】へと移動した。
「あん? おい立ち止まってどうし──おいおい」
──懐かしい【303号教室列車】の後部車両廊下にて
「……久しぶり……ですね。
【303号教室列車】の後部車両廊下に入ると、先程まで頭に思い浮かべていた英雄が代わり映え無く立っていて、少し気まずそうに帽子を弄りながら声を掛けてきた。
「……ハジメ?」
「こうして、再び会えて、本当に嬉しく思います……よく、生き残ってくれました」
我慢しようと思っていたハジメで合ったが、いつ“卒業”してもおかしくなかったのは相手だってそうだ。この奇跡的な再会に、今にも泣きそうな声色を出してしまい、それを誤魔化すために帽子を深く被る。
「………………」
「………………」
「………………
冗談みたいな沈黙が廊下に流れて、教室列車の走行音がひどく耳の中に入ってくる。驚いているとはいえ、もうそろそろ何か反応があってもいいのではと、ハジメは
「ばーか、
「……謀りましたね、ルビー」
「元を辿れば、全部あんたが原因なんだから、責任を取りなさい」
部屋の隙間から、聞き覚えのある小さな声がしたが、
生きていたのか、誤報だったのか、てめぇなんで平然と出てきてやがる、なに隠してやがる。言いたい事が頭から思い浮かんでは消えて、そうやって最後に残ったのは、このフザけた再会に対する苛つきである。
「──ナァー。ふざけんよてめぇ……ただで済むと思うな」
「おっと、やべやべぇ」
「待ってくれ
「黙れ」
顔を真っ青にしながらハジメが静止の声を上げるが、もう手遅れだ。
「シネェ!!」
「本当に待って下さい! こんな狭い廊下で
「ぎゃははははははははははははは!!!!」
フード付きのコート以外の装備を外して身軽になった
「……止めたほうがいいか?」
「いいわよ、気が済むまでさせておきなさい。担任も不器用なら、アイツも不器用なのよ……だから、こっちのほうが色々と手っ取り早いってわけ」
不安そうに尋ねる真嘉に、ルビーは素っ気なく答える。ハジメを
──このあとハジメは対抗こそするも、格闘戦において圧倒的実力差を持つ
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