第20話 忘れたはずの気持ち
「……なあ?」
「何かしら?」
「何かしら? じゃねーよ……とぼけんな。何で腕なんか組んでんだよ……というか、いつまで腕組むんだ? 散歩って言ったのはお前だろ?」
「別に良いじゃない」
「あのなあ……」
俺達二人は森を散歩していた。
ということは、農園内の畑の近くを通ったわけだ。
……この、腕組んだ状態でな。
多くの農園の従業員が、働いている畑の近くを通るのにも関わらず。
チラチラどころじゃねえ。
もう普通に見られていたよね。
凝視だよ、凝視。
仕事中なのに作業を止めてまで。
仕事をしろよ、仕事を。
作業の手を止めてしまう原因を作ったのは、間違いなく俺達だけど。
俺ぐらいの年になっていれば、王族の人間は結婚していてもおかしくないのだが、ダリアはまだ結婚はしていない。
何でも、結婚したい男がいるらしく、その男に振られるまでは誰とも結婚しない! ……と、縁談を尽く断っているというのだ。
それならダリアが好きな男とやらに、女王がダリアと結婚しろと命令すれば簡単に結婚できるのにさ。
頑固だからな……こいつ。
頑なに好きな男の名前は言わないらしい。
自分の力で相手を振り向かせたい! という王族としてなのか、女性としてのプライドなのかは分からんが。
俺がダリアだったら、間違いなく女王に縁談の話とかをセッティングするよう頼むけどね。
とりあえず、結婚してから考えりゃ良いのに。
……何が言いたいかと言うと、王国民の間では予想合戦にもなったわけだよ。
第二王女であるダリアが、名だたる貴族との縁談を断り続けるほど、好きな男とは誰だと。
第二王女の顔を知らない王国民なんてほとんどいない。
仮に顔を知らなかったとしても、園長辺りから第二王女が視察に来るので、失礼の無いようにとか釘を刺されているだろうし。
そんなダリアが、人目を憚らず男と腕を組んでいる。
そりゃ驚くよね。
俺も驚いたよ。
お前、好きな男いるんじゃねえのかよと。
一瞬、まさか……と思ったけど、ないない。
そんなこと口走ったらダリアに告げ口されて、王族を含めた王都の色んな人間に説教されるわ!
……本当にねえよ。
だって俺は、アザレンカのサポートという名目を手に入れたことで、王都の人間や色んなゴタゴタから逃げられることに喜んでしまった。
そんな俺が思い上がるなんて、あり得ないというか権利すらない。
「……ちゃんと守るからさ、腕離しても大丈夫だぜ? お前……」
「? どうしたのかしら?」
「いや、なんでもない」
結婚したい男が、いるんだろ?
とは、言えなかった。
……ははっ、情けねー。
まだ引きずっているのか? 心のどっかで?
破談になったとはいえ、俺はダリアを忘れるために縁談を了承したというのに。
十年近くも前の話だ。
ダリアに恋をしていたのなんて。
当時はまだ、自分の才能に夢と希望を持っていたからな。
いつだったかな。
俺が最初に絶望したのは。
ああ、そうだ……確かどっかの貴族の跡取りが、ダリアとの縁談が破談になったことに腹を立てて、俺をバカにしに来たんだった。
最初、自分はダリアにフラれたのに、俺は仲良さそうにダリアと話しているというのが気に食わなかったのだろうなーと流していた。
だが、そいつは俺と違って上級魔法を使える天才だった。
そんな人間ですら、ダリアと結婚するのは認められない。
と、王家は判断したのだ。
上級魔法は努力でどうにかなるものじゃない。
選ばれた人間にしか使えない。
その当時、俺が使えたのは初級魔法だけだった。
上級魔法が使えなくても、中級魔法が使えるようになれば……という、淡い期待があった。
上級魔法を使える人間ですら、ダリアの結婚相手としては、王家に認められなかった。
ダリアの意思が多少あったとはいえ、この事実がある以上、俺にチャンスはない。
その頃からだったかな。
気にしてなかった……はずの周りの評価が気になってきたのも。
頑張ってはいたさ。
周りを納得させられるだけの何かがあれば、一応俺だって、ベッツ家の長男。
アプローチすることを許されたかもしれない。
でも、結果は大して付いて来なかった。
嫌なもんで、段々ダリアに恋をするということはどういう事なのか気付いて。
ダリアの隣に立つ男になるなんて、叶わない夢
を諦めた。
諦めるために、ダリア様と呼ぶようにして、下手な敬語を使い始めたりもしたなあ。
気持ち悪いから辞めろって、怒られたから辞めたけど。
丁度この頃、ああ……こいつ才能ねえな……みたいな感じで、家族に見切られ始めたのが功を奏した……とは言いたくないが、こいつ婿入りさせるぐらいしか使い道無いんじゃ……みたいな感じで縁談させられて、強制的に婚約になったんだよな。
まあ……相手の女の子、可愛いし良いか……みたいな感じで半ばヤケだったけど。
向こうの家が没落してしまったから、破談になっただけで……。
「…………」
「……お、おい。何で……」
ダリアは何故か、より身体が密着するように腕を組む。
いらんこと考えているのが、バレたか?
……というか、これもしかして胸当たってる?
いや……胸にしては硬いから多分違うか。
聖剣に選ばれて勇者にさせられたけど、必要とされていないので仕えません! 石藤 真悟 @20443727
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。聖剣に選ばれて勇者にさせられたけど、必要とされていないので仕えません!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます