最終話 身近なご縁

「私の失恋相手はね〜、最近失恋した人! 私の親友を好きっていうから諦めてたんだけど……。ま〜、その人は顔に出やすいタイプで誰かを好きなのはバレバレだったからね、分かってたんだけど。改めてはっきり気持ちを聞かされたら、なんか思いのほかショックだったっていうか……」

「えっ? えっ?」


 そ、それって。

 その人ってもしかして!


 僕は小枝ちゃんが語りだした失恋相手が信じられなかった。

 小枝ちゃんの親友は渚ちゃんだよね。僕が好きで失恋した相手。

 好きだった相手。

 あれ……?

 僕って。


 渚ちゃんのことを思い出しても、もうあんまり胸が痛まない。

 あんなに好きで苦しくて、切なくて悲しかったのに。

 今は小枝ちゃんといられてコンコンいなり寿司を一緒に食べて、……楽しい。


「私ね。諦めないでもう一度頑張ろうかな?」


 ドッキ〜ン。

 小枝ちゃんの上目遣いな瞳が可愛い。


「う、うん。……ねえ、その相手ってさ〜?」

「これ以上は内緒。伊呂波くんの失恋が癒えたら教えてあげる」

「……だいぶ、癒えてきた」

「えっ? 嘘?」

「嘘は言わないよ。……僕、願いごと決めた。僕の願いごとはまた小枝ちゃんとお出掛け出来ますようにって」

「伊呂波くん、だってまだ渚ちゃんのこと好きなんでしょ?」

「まだ、ね。でも……」


 僕はこんな身近に、こんな素敵な子がいたんだって気づいたんだ。

 自分でも吹っ切れるのが早すぎだろうとか思う。びっくり! 僕は僕自身に驚いてるんだ。


「お客様方、当店からのプレゼントです。どうぞ」

「えっ?」

「あっ、ありがとうございます」


 九尾女将がテーブルにやって来て、僕らにきつねの根付ストラップをそれぞれくれた。

 小枝ちゃんには桃色のきつねがハートを抱えてる根付ストラップで、僕のは茶色のきつねがハートを抱えている。


「九尾特製の縁起もんです。お二人にお揃いのものを。同じものを持つって素敵でしょう? ご縁をしっかり結んでくれます」

「「ありがとうございます」」

「お二人はそろそろ在るべき世界へお帰りのお時間ですよ。コンコンいなり寿司のご縁と福はご利益いっぱい。きっとお客様方の幸せに、ちょっとの不思議な力で手助けしてくれるでしょう。そっと風を吹かせたりしてタイミングを教えてくれたりね。あくまでも頑張るのはご自分なんですよ。そこにたくさんの応援とすこぉしの手伝い。そんなもんです」


 そういう九尾女将の声でとてつもなく眠くなって、心地よい睡魔にいざなわれる――


 気づいた時には、僕と小枝ちゃんは満月神社の鳥居の前に手を繋いで立っていた。

 小枝ちゃんと繋いだ手があたたかかった。


「小枝ちゃん、あれは夢だったのかな?」

「夢じゃないよ、伊呂波くん。だってこれ」


 ちりりとハートの鈴が鳴る。

 こぎつねストラップが抱えているハートは鈴だったんだね。


「それにお腹いっぱいだもん。ねっ? 伊呂波くん」

「あっ、うっうん」


 僕はまたドキッとしたんだ。

 なぜだかいつもより何倍も小枝ちゃんの笑顔が可愛くて眩しいから。


 僕がこの気持ちの正体を知るのは、きっとそんな遠くない未来だろう。

 そんな予感がした。



     ◇◆◇



「お疲れなあなた、失恋したり心に傷を負っているのかしら? まあまあそれなら是非に、当店、縁結びの神社カフェ『流れ星喫茶』にいらっしゃいな」


 満月神社は縁結びの神様がいらっしゃるようですよ。

 今日も満月神社の境内の『流れ星喫茶』で妖怪九尾女将がお客様をお待ちです。

 おもてなし料理は、美味しいコンコンいなり寿司をご用意しております。


      おしまい♪


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

縁結び神社のコンコンいなり寿司 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ