KAC20229 『猫の手を借りた結果』というお題だったので、本当に猫の手を借りたらこうなった。

無月兄

第1話

 俺はしがないWeb作家。カクヨムに登録し小説を書いているものの、公開した小説の評価もPVも特に伸びることなく、地味に細々と活動している。


 そんな中、俺が一年で最も情熱をかけるイベントがKACだ。


 KACが何たるかを知らずに本作を読んだ人のために説明すると、カクヨム公式が出した複数のお題にあった小説を執筆、投稿するという企画。

 だがその締め切りが極端に短く、最短だと、二日以内に小説を一本書かなくてはならない。それが今年は、全部で11回ある。

 その過酷な内容から、狂喜の祭典だの、日常生活ブレイカーだの呼ぶ者もいるくらいだ。


 それでも俺がKACに挑む理由は、皆勤賞があるから。全部のお題に沿った小説を締め切りまでに書き上げれば、それでOK。

 たったそれだけのことだが、目標を作りそれを達成させるというのは、なかなか結果の出せていない俺にとって、頑張るための大きな動力源となる。


 ただ、『全部のお題に沿った小説を締め切りまでに書き上げれば、それでOK』とは言ったものの、実際はそんな簡単なものじゃない。

 その理由は、先に挙げた通り、締め切りまでの期間が極端に短いこと。そして、出されるお題がひどく難しいことだ。


 本日出題された、9回目のお題はこれだ。


『猫の手を借りた結果』


 俺は頭を抱えた。頭を抱え、のたうち回り、どうすりゃいいんだよと絶叫した。


 そりゃ今までだって、難しいお題はあった。『88歳』なんてお題が出た時は、こんなお題を作った奴をぶん殴りたくなったし、それでもなんとか達成できた。

 だが、人間のアイディアには限界というものがある。既に8つのお題を書き上げていた俺のアイディアは、もうすっかり枯渇していた。


「もうダメだ。俺のKAC、ここで終了だ」


 パソコンの前でひっくり返り、絶望する。


 するとその時、俺の頭に、何か温かいものが触れた。


「にゃ~」


 なんだ、おかきか。

 おかきとは、我が家で飼ってる愛猫だ。茶色い毛並みが、お菓子のおかきみたいだからそう命名した。


「なんだ、遊んでほしいのか。でも、今は大事な執筆の最中だからな」


 もっとも、その執筆が全然うまくいきそうになくて頭を抱えているんだがな。

『猫の手を借りた結果』、か。猫の手を借りてなんとかなるっていうなら、おかきの手を借りたいよ。


「ん、待てよ」


 その時、俺の頭にあるアイディアが閃いた。

 と言っても、小説のアイディアというわけじゃない。いや、小説を完成させるためのアイディアと言ったら、あながち間違いではないんだけどな。


 正直それは、やっていいものかどうか微妙なアイディアだ。

 セーフかアウトかギリギリのボーダーライン。その一歩向こう側のアイディア。だが、今の俺にはそれに賭けるしかなかった。


 俺はおもむろにおかきを抱えあげると、パソコンのキーボードの前に持っていく。


「さあ、おかき。お前の好きなように押してみろ。世界初、猫の書く小説の出来上がりだ」


 そう。俺の考えたアイディアというのは、おかきに小説を書かせる。というか、適当にキーボードを押してもらうというものだ。

 まさに、猫の手を借りた結果というお題にぴったりだ。


 …………みなまで言うな。

 ふざけるなとか、真面目にやれとか、そういう意見が出てくるのはわかってる。

 だけど仕方ないだろ、どう頑張っても他にアイディアが出ねーんだから!


 そうして出来上がった話が、これだ。







 dlkbvdkhぼgdxbczh、mjkcfヴぁfgbk。にtfmlpfcfvびghgfくjんdrdrhyぐいいftrsうぃおきhrでtでsれひゅういfrdx…………







 まあ、これ以上はわざわざ紹介する必要もないだろう。


 こうなることはわかっていたさ。こんなんでまともな小説どころか、文章だってできるわけがない。


 でもいいんだ。

 あらすじにはちゃんと、これは我が家の愛猫が書いたものだと記しておく。そうすれば、『猫の手を借りた結果』というお題に真摯に取り組んでくれたとわかってくれるはず。

 むしろ、誰よりもそれを実践したということで、過去最高の高評価を得ることだって夢じゃない。

 ……なんてことはさすがにないだろうけど、もはや背に腹は変えられなかった。


「公開──これでよし!」


 こうして、文字通り猫の手を借りてできた小説は、カクヨムへと解き放たれた。


 これで、今回のお題はクリア。これからもKACを、そしてカクヨムライフを頑張るぞ。










 ………後日、俺のアカウントは、公式から突然の停止をくらうことになる。

 なんでも、他人(他猫)の書いた小説をアップしたというのが、その理由らしい。

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KAC20229 『猫の手を借りた結果』というお題だったので、本当に猫の手を借りたらこうなった。 無月兄 @tukuyomimutuki

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