KAC20227 わたしの恋は一目惚れ。運命の出合い、ビビビっと感じます!
無月兄
第1話
あなたは、一目惚れって信じる?
わたし、翼にとってそれは、信じる信じないじゃなくて、実際にあることなの。
何かのお告げみたいなものなのかな。出会った瞬間にビビビっときて、絶対この人と付き合うんだ、これは運命なんだって確信しちゃった。
それから、運命を信じて、勇気を出して積極的に話しかけるようになって、気がつけばトントン拍子にお付き合いをすることになりました。
あの時ビビビっときたのを信じてよかった。彼が、わたしの運命の人なんだ。
「で、その運命の人って、これで何人目?」
あれ?
運命の彼氏ができた翌日、高校の同級生であり小さい頃からの親友、渚ちゃんにその報告をしたんだけど、なぜか呆れられちゃった。
「そりゃ、翼が恋愛に求める条件が、ビビビっと運命を感じる人だってのは知ってるけどさ、それで一回でも上手くいった?」
「うっ……それを言われると辛い」
実は、わたしがビビビっときたのはこれが初めてじゃない。
今までにも、一目見た瞬間に運命を感じたことは何度かあって、なんとその全ての人とお付き合いすることに成功。だけど、その後が悉く問題だった。
「やたらと束縛してくる奴。合意なしに体ばかり求めてくる奴。この前なんて、檻に閉じ込めようとするヤンデレじゃなかったっけ?」
「そ、その節は、大変ご心配をおかけしました」
出会った瞬間、運命を感じた。そんなロマンチックな恋に憧れているのに、なぜかわたしが運命を感じた相手は変なのばかり。
もちろんそんなのとの恋が長続きするはずもなく、いつもすぐに別れることになる。
そしてその度に、渚ちゃんはフォローしてくれたり慰めたりしてくれていた。
「渚ちゃん、いつも本当にごめんね。確かにこれじゃ、心配するのも無理ないよね」
「別に謝ってもらいたくて言ったわけじゃないんだけど。それで、結局今回の恋はどうするの?」
渚ちゃんの言うように、さすがにわたしも、これじゃいけないと反省している。
だからこそ、力強く決意を口にする。
「今までたくさん心配かけてごめんね。今度こそ、そんなことにならないように、ちゃんとラブラブハッピーで運命的なカップルになるから!」
「あ、そう……」
渚ちゃんはなぜか遠い目をしていたけど、ちゃんと幸せなカップルになれば、きっと安心してくれるよね。そのためにも、もっともっと彼と仲良くならないと。
そう決めたわたしは、早速彼に連絡し、デートの約束をとりつけたのだった。
「ひどい! 彼女がいるなんて、言ってなかったじゃない」
ボロボロと涙をこぼしながら、わたしは彼に問い詰める。
彼、ずっと前から付き合っていた彼女がいたんだって。つまりは二股。ううん、わたしは浮気相手だったんだ。
偶然そのことが判明して、街中であるにも関わらず修羅場勃発。
だってそんなの、わたしだけじゃなく、彼女さんにだってかわいそすぎる。
なのに彼は、ちっとも悪びれる様子を見せなかった。
「うるせーな。聞かなかったお前が悪いんだろ。だいたい、そっちから付き合ってって言ってきたんだろうが」
「そうと知っていたら、最初から付き合ってなんて言わなかったよ! 最低!」
「あぁ、なんだって?」
最低。その言葉が、彼のプライドを傷つけたみたい。いきなり手を振り上げたかと思うと、平手がわたしの顔に迫ってくる。
叩かれる!
よけることもできずに、ただその場で固まり、目をつむる。
だけど──
「あれ?」
覚悟していた痛みが、いつまでたってもやってこない。恐る恐る目を開いて、目の前の光景を確かめる。
「な、渚ちゃん?」
なんと、そこには渚ちゃんが立っていて、わたしを叩こうとしてきた彼の手を、ガッシリと掴んでいた。さらにそこから、彼の腕を思いきり捻りあげる。
「痛ててて! 何しやがる!」
「痛いだって? 女の子の顔を叩こうとしといて、文句言える? 翼、こいつをぶん殴りたいならこのまま押さえつけておくけど、どうする?」
渚ちゃんが聞いてくるけど、わたしは首を横にふる。あんなにも運命を感じた彼だけど、文句なら言い終わったし、これ以上関わりたくもなかった。
「それじゃ、行こうか」
「う……うん」
渚ちゃんは、今度はわたしの手をとり、そのまま引っ張るように歩き出す。
「なんだよ。お前だって、男いるんじゃねーか!」
後ろから、彼の怒鳴るような声が聞こえてきたけど、もう振り向くこともなかった。
「ごめんね、いつも迷惑かけて」
あの場を離れ、落ち着いたところで、渚ちゃんに向かって頭を下げる。
こんな風に渚ちゃんに助けられたのは、これが初めてじゃない。今まで付き合ってきた歴代の彼氏達と揉めて別れ話になった時、決まって渚ちゃんは駆けつけ、私を助けてくれた。
「まあ、こんなことになるんじゃないかって思ってたけどね。俺がいなかったら、殴られてるところだったよ」
「うん。本当にごめんね……」
もう一度謝ると、目からポロリと涙が零れた。
もう、彼に未練なんてない。だけど、今度こそはと意気込んだ恋がこんな形で失敗したこと。そして、渚ちゃんにまた迷惑をかけてしまったことは、さすがにショックだった。
「わたし、もう、恋なんてするのやめるから」
こう何度も別れが続くと、いい加減わたしだってわかる。わたしのビビビっと感じる運命は、ろくな結果にならない。
本当は、少し前から薄々気づいていて、だからこそ、今度の恋をラストチャンスにすると決めていた。そのラストチャンスは、ほとんど一瞬で終わっちゃったけど。
だけど渚ちゃんは、それを聞いて少し切ない顔になる。
「別に、そこまで極端にならなくてもいいんじゃない。翼が失敗するのは、いつもビビビって感じた運命に従ったからだろ。そういうんじゃなくてさ、この人なら付き合っても大丈夫そうか、じっくり相手を見てから決めたら、違う結果になるんじゃないの?」
「そうかもしれないけどさ、わたしにはそれ以外の恋の仕方なんてわかんないよ」
わたしにとって恋ってのは、出会った瞬間にビビビっときて始まるものだった。他の人から告白されたことだってあるけれど、そういうのは決まって、この人と恋したいって気持ちにはなれなくて、結局全部断った。
一目惚れでない恋なんて、それこそわたしにはできない。そう思ってた。
「ねえ。俺じゃダメ?」
「えっ──?」
「俺が翼のこと好きって言っても、恋はできない?」
渚ちゃんの言ってることが理解できなくて、頭の中が真っ白になる。
渚ちゃんが、わたしのことを好き?
少し時間を置いた後、改めてその言葉が頭の中を駆け巡る。
次の瞬間、わたしの中に沸き上がったのは、驚きと困惑だった。
「な、なんで? だって渚ちゃん、今まで一度だって、そんなこと言わなかったよね」
もしかして、わたしを慰めるために言ってるの?
一瞬そう思ったけど、わたしを見る渚ちゃんの目はとても真剣で、とてもその場しのぎで言ってるようには見えなかった。
「だって、翼は俺と会った時、ビビビってこなかったんだろ。だから好きって言っても、きっと困らせるだけだって思ってた。違う?」
「それは……」
確かに。渚ちゃんは小さいころから一緒の、とっても仲のいい親友だけど、わたしが恋をした時にくる、ビビビっていう運命の予感を感じはしなかった。
だけど渚ちゃんは、そこから「でもね」と言って続ける。
「今まで見てきた渚の運命の相手達、一人残らず翼のことを泣かせてばっかりじゃないか。俺は、翼が幸せなら我慢しようと思ってた。だけどそんなのばっかり見せられて、いい加減限界なんだけど」
「ご、ごめん」
ずっと、そんな風に思ってたなんて。なんだかなおさら、申し訳なさでいっぱいになる。
だけど、渚ちゃんが本当にほしがってるのは、きっと謝る言葉なんかじゃない。
「俺には、運命を感じさせるなんてできないかもしれない。だけど、幸せにすることならできる。そうなるように頑張る。それでも、恋愛対象にはならない?」
「ふぇっ……」
どうしよう。出会った時、渚ちゃんにはビビビってこなかったし、今だってそう。
だけど、だけどね──
ビビビってはこないけど、なんだか、胸の奥がドキドキしてるの。
こんなの初めてなんだけど、この気持ちって、いったいなんて言うんだろう?
KAC20227 わたしの恋は一目惚れ。運命の出合い、ビビビっと感じます! 無月兄 @tukuyomimutuki
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