いきなり罪業人の傑作

ガッkoyaさんのニコニコ作品はほぼ全て履修していると思う。
そのくらい好きな作者さんなのに、小説は存在を知りつつなんとなく敬遠していた。とんでもない損をしていた。

禁忌を犯した人の話が好きだ。
いわゆる三大禁忌、殺人、食人、近親交を犯すと、その人間はそれ以外の人間と別の存在に変質する。他人から見ても、本人の中でも。

殺人鬼や食人族、身内を犯す変態にはあまり興味がない。欲求に従った行動が禁忌なら、もともと異質な人だっただけだ。そんなんじゃなく、昨日まで普通の人間だった人が否応なしに罪業人に堕ちるという不条理と、やっちまった普通人の内面の地獄が好きだ。

「殺すしかなかった」という話や、ひかりごけ事件、アンデスの聖餐など、緊急避難として禁忌に手を出すのも悪く無い。でも一番好きなのは、貯水タンクで死体が浸かった水を飲んじゃった事件の「味がおかしかった」と証言する市民だ。ふざけて同僚の尻にエアコンプレッサーを噴射したら直腸穿孔して死んじゃった、というのもなかなか良い。

こういう事件はそこまで深掘りされることがあまりなく、無自覚の市民から一転、禁忌の罪業人になった人の心情が語られるコンテンツは少ない。

この「もしもなろう小説の主人公がうっかり人を殺したら」は、そんな欠乏にピッタリとはまる作品であった。そのようなテーマへの好感に加えて、主人公のリアリティ溢れる矮小さ加減、期待以上に作り込まれたファンタジー世界、ライト君が飼う万華鏡の如き地獄、そして隅々を支えるガッkoya節。もう最高だ。本が出たら買うし、なんなら数冊買って知らない家の郵便受けに放り込みたい、そんな作品。