【漫画化】もしもチート小説の主人公がうっかり人を殺したら

ガッkoya

はい追放

「んじゃ、パーティ抜けてくれやライト」


 酒場について料理が運ばれてくるなり、パーティリーダーのジョシュアが突然切り出した。豪快に飲み干した最初のジョッキをダンと机に叩きつけるように置く。視線は話のライト、つまり僕の事を鋭く見据えている。


「は? 何?」


 寝耳に水のこちらとしては、口をついて出る言葉はそれぐらいだ。ダンジョン攻略後からここまで変にだんまりだと思っていたら、こいつはいきなり何を言い出すんだ? 僕をパーティから外す? 突然酒に弱くなってエール一杯で泥酔したのか?


「おいおいどうしたんだよジョシュア。だってパーティ結成の時に言っていたじゃないか、ぼくら『太陽の絆』の五人で最強の冒険者を目指そうって……」


「いやそれはお前が勝手に言ってただけじゃねーか、相変わらず夢見がちなやつだなてめーはよ」


 僕の反論にどうでもよさそうに返事を返すジョシュア。確かに発案は僕だが皆もうんうんと頷いていたはずじゃないか。


 まあどうせ何か個人的に気に障るような事があって八つ当たりしているのだろう。最初の頃は「俺が敵を蹴散らすから防御は任せたぞ!」とか協調的だったのに、最近はすぐこれだ。僕は呆れた苦笑を浮かべつつ「どうするよ?」とばかりに他の三人に視線を投げ掛けた。


「あー、このタイミングなんですか? まあいいですけどお」

「あれー、結局クビなんだ! うそー!」

「まあジョシュアにしては我慢したほうかのう! がっはっは!」


 あれあれえ??????


 おい、知性派魔法使いのマリア? 同郷のアナスタシア? パーティ最年長のガンドム? ここでその反応はちょっとおかしくないか? 当事者がいくら言い合いしても埒が明かなそうだから、外側から諭していただくつもりで視線を投げかけたんだが?


「つまりだな……あーめんどくせえ。マリア、説明してくれや」


 困惑する僕を見て口を開こうとしたジョシュアがそれを放棄してマリアにぶん投げる。指名されたマリアは嫌そうに眉をしかめたが、それでも次の瞬間には愛想笑いしながら話し始めた。


「あーええ。実はジョシュアリーダーが前々からライトさんを外そうとおっしゃってまして。パーティーから」


 ひっこぬいた切り株でぶん殴られたような衝撃を受ける。前々から? 前々からって事は今日まで何度もそんな事を? 一時の気の迷いではなく? というか君達はなんでそれを平然と受け入れているんだ?


「で、まあ流石にそれはライトさんにとって酷でしょうという事で。だからジョシュアさんが外したい時にいつでも外せるという約束でとりあえず様子を見てはどうかという事にして、その話はそれでまとまった訳なんですね」


「そうそう。いつでも外せるって思えば心の余裕ができるでしょー?」


 そういう訳だったんですよと説明されたところで全くわからない。心の余裕がなんだって? ジョシュアの心の余裕とか今重要か?


「最近は言い出さなくなっとったから落ち着いたのかと思っとったんだがのう~! でもまっ、仕方ないわな! 今までありがとうなあライト!」


 いつもは好ましく思えたガンドムの豪快さが無神経に聞こえて仕方がない。去り行く仲間へ感謝みたいに声を掛けられたって、涙なんて出てくる訳もないだろう。胸に吹き荒れる困惑の中にそれより更に強い感情がふつふつと込み上げてくる。


「君たちは、さっきからなんなんだ君達は! 君達っていうのはジョシュアじゃない! マリア、アナスタシア、ガンドム、お前達の事だぞ! いけしゃあしゃあ、なにをさも当然のように僕のクビをやむ無しみたいに話を進めている! お前らはジョシュアの凶行を止めたっていいぐらいのポジションのはずだろうが!」


 まくし立てた僕の前に、パーティがシンとする。周りのテーブルで飲んでいた冒険者たちも好奇の目で僕らを見始める。酒場が少し静かになった。


「なんで外されるかも解ってねーみてえだな、ライトぉ」


 この空気で誰が口を開けるのかと言えば、ジョシュアしかいない。二杯目のエールを飲みながらふんぞり返る彼は、僕の言葉に心打たれた様子もない。


「わかる訳ないだろ! 理由があるなら言ってもらおうじゃないか!」


 こちらとしては言えるもんなら言ってみろという気持ちでの発言だ。何が来ても打ち返してやる、掛かって来いよ!


「弱いから」


「はあ?」


 あまりに理屈もなくて呆れるレベルだ。これまで一緒に戦ってきた人間が何を言うんだ?


「だからてめーが弱くて使えなくて役立たずだから外すっつってんだよ。ついでとばかりに耳まで無能かてめーは」


 念押しとばかりに同じ意味の言葉を手当たり次第に並べたてるジョシュア。その単純な挑発にさえ、胸の内から怒りが込み上げてくるのを抑えられない。こんなやつを少しでもリーダーとして敬っていたのが間違いだった。


「何が役立たずなのかを教えろと言っているんだ! 僕が無能!? だったらこれを見ろ!」


 僕は椅子を蹴飛ばし立ち上がり、少し距離を開けて勢いよく前方に手をかざす。


「うおおおお! ユニークスキル『イージスの盾』!」


 かざしたその手の先にが出現する。幅1m程度の正方形の盾。僕のみが使えるの最強のスキルだ。


「どうだ!」


「いやそれ私らには見えないんだけど……」


 アナスタシアがツッコミを入れているが、そんな事はどうでもいい。そうさ彼女の言う通りこの盾は僕にしか視認不可能な。だが、盾としての性能は間違いなくそこにあるのだ。


「この世の全ての攻撃を完全に遮断する、最強の盾だ! ドラゴンのブレスだって防ぐ! これが役立たずだというのなら、君にはこれ以上のものを見せてもらおうじゃないか!」


 世迷言をぬかすリーダーを前に堂々とたんかを切る。これまでの経験から来る絶対の自信。僕はこの盾によって今までもあらゆる魔物の攻撃を何度も防いできた。


 そう、何を隠そう先程のダンジョンでもボスの大技を防いだのはこの盾なのだ。狙われていたのが僕以外だったら怪我で済んでいたかはわからないだろう。ジョシュアにこれ以上のものが出せるか? 誰が見てもこの場の勝敗は明らかじゃないか!


 ジョシュアは聞こえるかどうかくらいの軽い溜息をつき、立ち上がった。大仰に剣を取り出し構え、その意識を己の両腕へと集中させる。周りの客が揉め事を察し席を離れ、周囲の空気がシンと張り詰める。


「ふん!」


 一閃。最強の盾に馬鹿正直に振り下ろされる金属の塊。鍛え上げられた鋼が未知の硬質にぶち当たる音が響き、酒場の人と物を震わせる。


「「うおおっ!」」


 周囲からどよめきが上がる。


 分厚い大剣は根本近くから完璧にへし折れていた。跳ね上がる力のままに切っ先が何度も宙に弧を描き、天井へと深く突き刺さる。はた目には何もない空間に突如として発生した謎の力に、ギャラリー達は驚きの表情を見せていた。


「……相変わらずの硬さだな。この世のあらゆる攻撃を通さないってのもあながちふかしじゃねー。本気で最上位ドラゴンの攻撃さえ防いじまいそうだって思えるほどの凄みはある」


 ジョシュアは折れた剣を見ながら淡々と僕の盾の硬さを認める。彼の完膚なきまでの敗北宣言に僕は得意げな顔をせずにはいられない。なんならあちらの立場を思うと逆に気の毒な気さえしてしまうが……まあこの後気まずいだろうし、できるだけ気にしてない素振りで接してやるか!


ライト」


 ふいに、剣の断面を確認していた彼の目がこちらへと向いた。その声色がやけに不穏な空気をたたえているななんて思った次の瞬間、半透明の盾越しに見ていた彼の姿がフッと消える。


 直後、真横から耳元に押し寄せる風圧。圧倒的な質量の気配。肩越しにこちらを突き刺すようなぞっとする程の


「なっ……!」


 思わずそちらの方を向く。視界の真ん前、鼻先ほんの数センチメートル先に折れた大剣の断面があった。遮るものは何も無い。汗が次々とあふれてくる。


「お前……言う程訳じゃねーよな?」


 突きつけるその剣の持ち主から、圧倒的な生々しさをもって酒場に落とされるその一言。


 視界の端でパーティメンバー達が小さく頷くのが見えた。

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