第5話 晩餐はお楽しみの前に

澄み切った冷たい空気をその身に感じながら、延々と続く空を白い翼の竜と1人の男が突き進んでいく。


空気抵抗を感じさせない力強い羽ばたきに、その姿を見た街の住人たちは興奮を覚える。




今では2人は殲騎士と呼ばれる悪の軍勢『ヴァメーシャ』を撲滅することを目的とした組織に加入している。




闇を払う存在。生きる伝説。そんな異名をいくつも持つ彼らに誰もが憧れや尊敬の念を抱き、目標となる。


そんな彼らの帰還に町中が歓声を上げる。




「よくお戻りで。今日はもうお休みになられてください。あなたほどの実力者とはいえヴァメーシャの相手となればさぞ疲れることでしょう」




ディアに声をかけてきたのは2年前、クラトラスとの出会いに付き添った地区長だった。この地区一帯を束ねるものとして、ディアのような殲騎士の生還を迎える役割を担っている。




地区長は地上に降り立ったばかりのディアの正面に立ち、激励の言葉を送る。




「いつものことですが、強いのはクラトラスですよ。俺はこいつに助けられてばかりで」




ディアは照れながらもクラトラスのおかげだと返す。今や殲騎士の中でもトップクラスの実力にまでたった二年足らずで登り詰めたディアにとって、自分一人だけが褒められることは気持ちのいいことではなかった。




〔せっかくねぎらわれているのだから素直に受け止めたらどうだ。私のことはあとでよい〕




こんな時でもクラトラスは紳士的な対応を取り、そのせいでディアは何となくもどかしい気持ちになってどこを見ていればいいのかわからなくなってしまう。




そんないつもと何も変わらない光景をみて地区長は微笑み、次の話題へと話を進める。




「さあさあこちらへ。少し遠出しないと手に入らないような希少な食材を使ったなかなかに豪華なお食事を用意していますよ」




地区長に手招きをされ向かった先は常人には手を出せないような高級感あふれるレストランだった。壁に掛けられたキャンドルの暖かい光が店内を優しく包み込んでいる。




レストランは貸し切りの状態であり、この日はディア達のためだけに店を開けているといっても間違いではないだろう。




店に入るなりディア一行はレストランのオーナーに連れられ、すでに料理が準備された三人掛けの食台に腰を下ろす。


どの肉も魚も、皿に盛られたものは何一つ庶民には味わえないほどのものだ。




彼らはそんな穏やかな時間を楽しむ。


楽しむしかなかったというべきだろうか。




今後、いつまともな食事をとれるのか誰にもわからなかった。

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月皇のエクエス びぐろ勇 @biguro_U

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