月皇のエクエス
びぐろ勇
第1話 酒場のウワサ
とある町のとある酒場にて。
2人の男の会話が聞こえてくる。
「先週さ、新しい竜が発見されたって知ってるか?」
「新しいって...どういう事だ?竜なんて数種類しかないだろ」
きめの細かい泡がずっしりと乗っているビールがなみなみと入ったジョッキを片手に顔を赤くして話している。
「それがよ、体が白いらしいぜ。月皇竜って名前がつけられたんだとか」
「ほーそりゃ凄いな」
本来なら新種の竜が発見されるようなことがあれば世界中大騒ぎになるはずだが、酒場は静まり返っている。
それもそのはず、この2人は普段からこの酒場で泥酔し、大声で騒ぎ、その果てに居眠りを始めてしまうという呆れた存在なのだ。
今は嵐の前の静けさといったところだろう。
「なぁお客さん。今日はそろそろ飲むのやめた方がいいんじゃないの?最近飲み過ぎだよ」
店主のふくよかなおばさんが帰ってくれと遠回しに言うが酔っぱらいは負けじと言い返す。
「なんでさ、まだ呑みはじめたばっかだぜ?満足したらちゃんと帰るからさ!」
「いつもそう言って酔いつぶれて寝てんじゃないか。こっちの身にもなってくれよ、外まで運ぶの大変なんだ」
周りにいる客はまた始まった、という顔をしておばちゃん対酔っぱらいの言い争いを見守っている。
そんな中、ひとりで客席に座っていた男が突然立ち上がり、酔っ払いに近づいていく。
言い争いを見守っていた連中も新たな勢力の参戦かと期待の眼差しを男に向ける。
男は竜の話をした酔っ払いの隣に座って話しかける。
「さっきの白い竜の話、私も聞いたことありますよ。なんでも過去100年の記録にも白い龍なんてのは存在しなかったのに突如として現れたって」
この男の言っている龍のことは確かに凄いことだ。
だが客たちは白い竜が存在するなんてことよりも酔っ払いが事実を話していた事に驚愕している。
その後、酔っ払い2人は街の中で『どうしようもないどクズ野郎』の汚名を返上する手筈だったが、何ヶ月経っても白い龍について知る人間はあの1人の男しかいなかった。
その結果2人は結局嘘をついていたということになり、今も『どうしようもないどクズ野郎』として生きている。らしい。
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