第4話 日常の一片

黄金に光る太陽に照らされながら、ディアは光り輝く槍で座り込む男の眼前を振り切る。




うなだれた男は抗う様子を見せない。敗北を認めてくれたのだろう。その方がディアにとって楽ではあったが、それを悟られてはいけない。




ディアにはこの男を殺すことはできない。どれだけ時間が流れても、それだけはしない。




「もう悪事を働かないと誓うか?」


もう10センチも腕を横に振れば容易く首を落とせる位置に槍をかざし、ディアは改心を促す。




「悪事ねぇ。俺は何も言わないし誓わないぜ」




うつむいたままの男のささやきは風の音にかき消される。




どうする。この男はまだ負けを認めていないようだが、逃がすか?〕




どこか遠くで見守っているクラトラスの声が頭の中をこだまする。昔こそクラトラスとの意思伝達テレパシーに戸惑っていたが、もう慣れたものだ。




正直、自分より賢く優れた頭脳を持っているクラトラスにアドバイスを求めたかったが、成長している姿を見せたいと思い何も言わないでいた。




〔多分、大丈夫さ。逃がそうと思う。もしまだ懲りていないようだったら、まぁ...そのときはその時だ〕




ディアはクラトラスにテレパシーで意思を伝え、クラトラスの了解を得てから槍から手を放しその槍を消滅させる。何もない場所から武器を作り、消す。この技術は竜との協力があって初めて成しえる技であり、できるようになったのも最近のことだ。




もちろん。と言っていいのかはわからないが槍以外も作れる。


ダガーやサーベル、盾といったものまでも簡単に生み出せてしまう。




「俺を逃がすつもりか?馬鹿だな、またやっちまうかもしれないぜ?」




拘束が解かれた男は立ち上がり、何を言うわけでもなく去っていく。振り返り、こちらを見るなり口角を上げて別れのあいさつ代わりに手を振り上げる。




「クラトラス、これでよかったのかな」




男が去るのを見送り、どこからともなく飛んできたクラトラスに意見を求める。




男を殺さなかったのは正しいことなのか、あの男はまた人間を殺すのか。


そんなことを考えても、結局いつも同じ結論に至る。




〔私が何を言っても、貴様はどうせ殺せない。人も、竜も。それに私だって、何が正しいかなんてわからない。まぁ貴様は、優しいということだ。何も悪いことじゃない〕




いつも同じ結論に至り、いつも同じことをクラトラスに訊く。いつも同じ答えが返ってきて、そのまま帰っていく。




クラトラスとのそんな生活が始まって、もう2年になる。

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