第3話 使命と衝動。
「白い...竜」
大穴の中、風と共に現れた白い竜・クラトラス。
「今は話している時間ではない。行くぞ」
クラトラスは落ちていく少年の体を片手で掴みあげ、穴の入り口へと翼を羽ばたかせ飛んでいく。
「えぇっと、君のことはなんて呼べばいいのかな」
「ふっ、なんでもいい。そんなものどうでもいい事だ」
少年はなんとか会話をしようと試みるがクラトラスには全くそのつもりがないようだ。こんな不愛想なやつと今後一緒にやっていけるのだろうかと少年は不安を抱く。
結局その後も2人には何の進展もなかった。
ずっと向こうまで続く草原の中に突然ぽっかりと空いた巨大な底なしの穴、『竜の大穴』から土埃や風が巻き上がる。
「顔を上げろ。もうすぐ地上へ出るぞ。いつまでも私の手の中で怯えているつもりか?」
クラトラスは少年に目をやりながら続ける。
「私からすればどうでもいいが、貴様はあの少女や偉そうなやつに恥ずかしい姿を見られたくはなかろう」
そう言うだけ言ってクラトラスは少年に話させる間もなく加速する。
そして突然、少年を空へ投げ飛ばす。
流石は竜といったところか、投げる強さは今まで味わったことのないような程だ。
投げ出された少年はそのまま上昇を続け、『竜の大穴』から飛び出す。
「あ、あれぇ?……さっき落ちてったはずだよね?なんか飛び出してきたけど」
穴のそばで少年を待っていた少女は異様な光景に立ち尽くす。
「お、おいっ、やべぇって!何してくれてんだよ!」
大穴の入り口から10数メートル打ち上げられた少年は圧迫する心臓を抑えつけながら文句を吐く。
〔安心しろといったはずだ。私は高貴なる竜。これも1つのエンターテイメントだ。盛り上がるであろう?〕
クラトラスはまた少年の頭の中に直接語り掛ける。
そして。純白の竜が穴の底から姿を見せる。月を覆い隠せそうなほどもある巨大な翼を広げ、少年を背中へ乗せる。
「白...」
つい先ほどまで少年が飛び出したことに驚いて笑っていた少女やその親、地区長までもが口をそろえて呟いた。白と。
「なぁクラトラス。思ってたより、空を飛ぶってすげぇな。高いところは苦手だけど、こんなでっかい背中を持ってるやつが相棒ならどこまでも行けちまいそうだ」
翼の付け根に手を置いて完全に身を任せている少年が話しかける。
「貴様、いま私のことを“相棒”と呼んだな。次にそんな口をたたいてみろ。潰す」
「なんでそんなに怒るんだよ。実際そうだろ?」
言い争いをしながらも悠々と空を舞いながら少しづつ地面に近づき、着地をする。が、出迎えがない。人生で最も重要な日の最も重要な瞬間にその場にいた人間は全員1点を見つめる。
「白い...竜?」
「人間か。この私に用か?」
地区長がクラトラスの顔を見上げながら話しかける。
地区長はクラトラスに疑問を抱いている。正確には疑問だけではない、不安感や衝撃、好奇心までもがここにいる人間全員に降りかかっている。
その感情を込めて、地区長がクラトラスに鋭いながらも優しい声で話しかける。
「初対面で言うことではないかもしれないけど、君みたいな...白い竜は存在しないと思っていたよ」
それはこの世界の共通認識だ。どんなに色鮮やかな竜がいたとしても...。
〔白い翼をもつ竜なんて存在しない〕
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