第2話 雫
目が覚めた。おかしい。俺は死んだのに。なぜ意識というものがあるのか。
まだ意識が残っている。この状況を俺の持つ知識に無理やり当て込めるならばここは天国か地獄ということになる。
だが俺の視界に移るのは
体を起こす。だが一向に起き上がった感覚がない。ずっと病床に臥せっていたからか。いや、さすがにそれはない。日常生活はできずとも多少動いたり歩いたりはしていた。
じゃあなぜか。不思議に思った俺は自分の体を見る。流動的なフォルム。銀色に染まっている。
「な、ナニコレ」
全体像はとらえられないが自分が今人間ではないことはわかる。目が見えて、喋れて、自分の喋った声も聞こえる。ただ触覚はないし味覚はこれから試すしかない。匂いも今のところは感じられない。だが人外にしては五感には恵まれたのではなかろうか。
ちなみに俺がここまですんなり自分の状況を把握して行動できているのには理由がある。それは病室での過ごし方にあった。
ずっと閉鎖した空間にいたからこそ人は何か娯楽を求める。俺にとっての娯楽は小説。最初は様々なジャンルの本を読んでいたが、最終的には異世界モノばかりを読むようになった。
外の世界に出たい気持ちが表れたのかもしれない。でもそのおかげでいろんな小説を読むことができた。
しかも幸運なことにインターネット上には無料で読める小説が無数にあった。そのおかげで金銭的にも負担がほとんどない趣味となったのだ。
(今の状況は決して恵まれているとは言えないかもしれないけど、不運ってわけでもないのかな)
自分が今置かれている状況を自分なりに結論付ける。
「あ、そういえば」
自分の前世での趣味を思い出したことで、ある定番イベントを思い出す。それはステータス表示だ。
自分の種族や能力を数値・テキスト化したもので、だいたいは自分にしか見えない形で空中に透明な板状のものが現れて表示される。
「この定番シチュエーション、試すしかない。『ステータスオープン』」
しかしなにもおこらなかった。
他にもいろんなパターンを試してみたがやはりだめだった。自力では見ることができないのか、それともこの世界にはステータスの概念自体がないのか。
とにかく見れない以上は仕方ない。なら自分が今何者なのか、客観的に判断したい。
「水源を探そう」
ここが森の中ということはどこかに水源くらいはあっても不思議じゃない。水源が確保できれば、その水面に映る自分の姿が確認できるはず。
そう思い移動を開始しようとするが、体の動かし方がわからない。具体的にどこをどう動かして進むかをイメージするのは難しい。でも移動できないままというのは駄目だ。
「ここは気合でいこう」
馬鹿みたいな答えだが馬鹿にはできない。ここまでファンタジーな世界で自分の思い通りに移動できるくらいのご都合主義は許してほしい。
そんなわけでただ前に進む意思を持って無理やり動く。するとゆっくりだが前進し始める。
これは、ほふく前進に近いかもしれない。地面を這って移動している感じだ。傍から見ればなかなか泥臭い姿に映っているかもな。
でもわくわくしている。未知の場所に未知の自分。そんな条件下で自由にチャレンジできていること。それが幸せだった。
「今俺が頼れる五感は視覚と聴覚。そこに神経を注いで水源を見つけ出す」
それが俺が異世界に来て初めてのミッションだった。
昼間の晴天にも夜の暗闇にも染まることなく銀色の天が支配していた。
そこから降り注ぐのは天と同色の銀色の粒子。地球上の現象で無理やり例えるならば、それはダイヤモンドダストのような光景。
『
異世界転生者が現れる前触れとして起こる現象。
これは過去に幾度と起こった確定事項であり、ここで生まれた者たちによって世界はあらゆる影響を受けてきた。
それは当然異世界の知識が価値ある者だからというのもある。だがそれ以上にここで生まれた異世界転生者は埒外の能力を持っていたのだ。その価値に気づいた国々はその転生者の獲得に動くようになる。
「……ついに来たか。俺の、当主としての大一番」
突如発生したシトネの森上空の異常を屋敷から観測する一人の男。
彼に課せられた使命。「異世界転生者の保護」。先祖代々引き継がれてきたその役目を果たす時が来たのだ。その役目を全うするため、屋敷の者たちに指示を出す。
「急ぎ準備の後、シトネの森に向かうぞ」
『
「なんとしても帝国の魔の手から守らねば」
天解けの露 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。天解けの露の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます