第5話 全ては いふ
――ピピピピピ
スマートフォンの目覚ましが鳴り、澪は飛び起きた。
「……夢。そう、だよね。陸人くんが今更連絡くれるなんて、そんなことないよね」
でも、あのメッセージを受け取ってから再会するまでの全てが夢だなんて。澪は朝から泣きたくなるような気持ちで目覚ましを切った。
そして、もしかしたらを期待してメッセージアプリを立ち上げる。
「……ない、か」
もしかしたら、そこにあのメッセージが送られて来ているのではないか。あれは夢ではないのではないか。澪のそんな淡い期待は裏切られ、表示されたのは仕事関係の事柄と友人とのやり取りだけだった。
目が痛いと感じ、洗面所で鏡を見る。すると自分の目が泣き腫らしたように赤く腫れていた。どうやら夢を見ながら泣いていたらしい。
どうりで、と肩を竦める。頬には涙が伝った跡があり、洗顔してようやく落とした。
(わたし、これだけ引きずってるんだ……。諦めれば良いのに、バカだよね)
自分の馬鹿らしさにため息が出るが、新たに好きな人も出来ない以上、どうしようもない。叶えられもしない気持ちを胸に秘めたまま、蓋をしてしまうしかないのだ。
澪は充血した目を同僚に指摘されないことを願いながら、仕事に行く支度を済ませた。
「……行ってきます」
そう言って指で撫でるのは、あの時机に入っていたキャラクターのミニフィギュア。彼の友人が言った言葉を諦めながらも何処かで信じ、ずっと手元に置いている。手作りのお守り袋に入れ、鞄の定位置に収めた。
澪は寂しげに目を伏せると、すぐにいつも通りの表情を作った。同僚の前では、真面目で泣かない中条澪でいなければならないから。
「いつか。……なんてね」
全ては、もしもの話。澪はドアを開け、仕事に行くために飛び出した。
いふのはなし 長月そら葉 @so25r-a
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