第2話(最終話) 愛の奥の手、使うしかない!
失意の裕美の前に、突如現れたイケメンの天使。大きさは手のひらサイズだ。
「な、なにこれ。私夢でも見てるのかな?」
その天使は言った。
「ひっでーな。オレの名はアダム。これでも神様なんだ。もうちょっと喜んでくれよ」
「あんたが神様? うっそでしょ~」
「本当だよ。証拠見せてやる。オレは時間を少しだけ前に戻す事が出来るんだ。МAXで3日前。見てなよ。えいっ!」
すると、さっき食べた昼ご飯が裕美の目の前にあった。時間を見ると12:00だ。さっき13:00を過ぎていたはず。
「あれ? 1時間前に戻ったの?」
「そうだ。これで信じるだろ」
「信じられない。ドッキリか何かじゃないの? 種明かししてよ」
「うたぐり深いな。あんた芸能人とかじゃないだろ。ドッキリにかけられる事情がない」
「本当に神様なら、私の恋をかなえてくれるの?」
「残念ながらそれは駄目だ。人間達は神様と聞くとなんでもありのチートキャラを想像するみたいだが、現実は厳しいのさ。かなり限られた能力しかないんだ。オレは時間をちょっと遡らせるだけ」
「そうなの?」
「オレの知ってるある女の神様は、男女を入れ替える能力だけ持ってる」
「へー。神様ってそうなんだ」
「あと俺達は、現実社会にたくさん存在してるんだけど、普段は見えないんだ。とても強い願望を持った人間がいると、その願望によって実体を与えられる。あんたが今やり直したい事があるっていう、強い願望を持ったからオレが生まれたのさ」
「そしたら本当に3日前に時間を戻してくれるの?」
「ああ」
「お願いします。3日前に時間を戻してください」
「いいけど、1つ言っておく。オレが出来るのはあくまでも時間を戻す事だけだ。あとはあんた次第。それでも良ければ願いをかなえてやるよ」
「私次第?」
「そうだ。あんた時間を戻したいのは、祐介とかいう男にもっと早く告白したいからだろう。でもさ、その後に職場のアイドル女子からも告白される訳だ。この事実は変えられない。それでもいいのか」
「はい。かまいません」
「もしかしたら今よりも傷つく事になるかもよ」
「それでもお願いします。もう後悔したくないんです」
裕美は、とにかく佳奈よりも先に祐介に気持ちを伝えられなかった事を後悔していた。
「わかったよ。じゃあいくぞ」
こうして裕美は、3日前つまり、佳奈が祐介に愛の告白をする前の日に時間を戻してもらう事になった。
この日、裕美は仕事が終わった後で、祐介のマンションに遊びに行く約束をしていたのだ。裕美が腹痛のふりをして祐介を誘った日でもある。裕美はこの時ある決意を胸に臨んだ。もう後悔はしたくなかった。
「あ……ちょっとお腹痛い……」
「どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫。少し横になれば楽になると思う」
裕美はベッドに横たわって休んだ。
「ちょっと心配だなあ」
「ごめんね心配かけて」
裕美は、目を潤ませながらじっと祐介を見つめ、次の瞬間、祐介をベッドに引っ張り込んで、逆に押し倒した。
「好きだよ。祐介……」
そして、素早く祐介に唇を重ねた。
でも、祐介は裕美を引き離して言った。
「ゴメン裕美。気持ちはすごく嬉しいし、僕も君の事が好きだ。でもだからこそ今はこんな事したくない。大事にしたいんだ。今日はここまでにしよう」
「私ってそんなに魅力ないかなあ」
「そうじゃないって。真面目にお付き合いしたいと思ってる」
「本当?」
「ああ。改めて言うよ。君の事が大好きだ。僕と付き合ってください」
「嬉しい。もちろんOKだよ」
「ねぇ祐介、私のどこが好きなのか言って」
「全部」
「それじゃだめ」
「全然かわいくない所がすごくかわいい」
「何それ。訳わかんないよ」
裕美は、祐介がいかに鈍感なのかについて色々な思い出話を始めた。
「私さ……ずっと好き好きオーラ全開で出しまくってたのに、祐介ったらちっとも気づいてくれなかったんだもん」
「そんな事ないよ。好かれてる確信に近いものはあったんだ。でも確信に近いじゃだめで、100%絶対上手くいくくらいでないと怖くて告白出来なかった。それくらい好きだったんだ」
「渋谷に買い物に行った時の事覚えてる?」
「ごめん、何かあったっけ?」
「もう! やっぱり鈍感なんだから」
裕美は祐介の頭をちょっと小突いてから話を続けた。
「あの時さ、私『疲れちゃったな~』って言ったでしょ」
「あー思い出した。それで早めに帰ったんだよね」
「あれ言葉どおりとらないでよ。本音はね、(あなたともっとずっといっしょにいたい、どこかで休みたい)だよ。女の子にそんな事言わせないで」
「そんなの分かる訳ないって。僕にはテレパシーなんてないし」
「あーあ。なんでこんな鈍感男好きになっちゃったんだろう」
「裕美にそんなあざと可愛いい面があったなんて知らなかったよ」
「もし私がインスタやってたら、きっと山のような匂わせ投稿してたかもね」
「ディズニーランド行ったよね」
「特にホーンテッドマンションで君に抱きつかれた事は絶対に忘れられないよ。意外と怖がり屋なんだって。今だから言うけど、(わ、胸でかっ)なんて思った」
「もう~エッチ! 私も今だから言うけど、あれわざとだから」
「えっ!」
「私おばけとか全然怖くないから」
裕美は、どう考えてもおばけを怖がるようなキャラではなかった。
祐介は
「100%確信出来なかったのは、やっぱり東出の存在があったからかな」
彼はしょっちゅう裕美にちょっかいを出していた。明らかに裕美に惚れてる。
「いつだったか一緒に食事した後に、2人で東出んちに行った事があったでしょ。結局彼は留守で会えなかったけど」
「そんな事もあったね」
「それでさー、こう思った訳。(えーっ! 裕美なんで東出のマンションの場所知ってるの? もしかして遊びに行った事があるのか……これは手ごわい恋のライバル登場かー)なんてね」
「違うんだなあこれが。東出さんの家にいったのはあの時が初めてで、それっきりだよ。だから上がった事は一度もないし」
「なぜ場所知ってたの?」
「たまたま帰り道でばったり会った時に教えてもらったの。別に知りたくもなかったのに」
裕美は、何故2人で行こうとしたのかを祐介に伝えた。
「東出さんから好かれてる事は分かってたよ。はっきり言って迷惑だったけど。でも先輩だから露骨に嫌な顔は出来ないし」
「そうだったのか」
「だからね、あの時は彼に諦めてもらうために、祐介と仲良くしてる所を見せつけたくて行ったんだよ」
裕美は祐介に気持ちを伝えた。祐介も応えてくれた。佳奈が告白してきても、きっと祐介なら断ってくれるだろう。これ以上何か言う必要はない。
(信じてるよ祐介。そしてアダム様、本当にありがとう)
天上界に戻っていたアダムがくしゃみをした。
完
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
この小説は私が初めて作った「好きだから、好きと言えなかった君へ~僕は再び「好きだ」と言えない恋をする」の2つ目のアナザーストーリーです。
https://kakuyomu.jp/works/16816700429596603578
もし裕美のあざと可愛さに惹かれたり、祐介の不器用さに「しょうがないな~」なんて感じたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。
よろしければ、私の新作の長編小説「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら? 例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。
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バレンタインまで待てない~一足お先に告ればよかった 北島 悠 @kitazima
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