タイムマシンに乗って

尾八原ジュージ

タイムマシンに乗って

とっくの昔に死んだ友達と、大学の入学当日に、大学の校門前で出くわした。

「死ぬ前にタイムマシン作ってたからさ、君の未来に何度か行ってみたの」

またいつか会えるからねと言うと、少女の姿はふいっと消えてしまった。

次に会ったのは卒業式の朝で、がんばれ! と手を振ってまた消えた。

次はブラック労働に疲れ果てた夜、無理すんなと言ってまた消えた。

私は会社を辞めた。転職先である男性と付き合い始め、婚約した。

次は結婚式当日。友達はおめでとう! と言って、また消えた。

長男が産まれた日、両親の葬儀の日、仕事と育児に疲れた日。

友達はふいっと現れて、一言残して、またふいっと消える。

息子の成人式の日、現れた友達を掴まえて、私は尋ねた。

「貴女の死はタイムマシンで何とかならなかったの?」

友達は悲しそうに首を振って「うん」とだけ答えた。

そしてまた幻のように、ふいっと消えてしまった。

息子の結婚式、親戚みたいな顔で拍手していた。

初孫が生まれた日、感動して一緒に涙ぐんだ。

私が入院した夜、病室でそっと手を握った。

夫に先立たれた日は、二人で大泣きした。

友達がここにいてくれたらいいのにな。

そういう時、彼女は決まって現れた。

私の臨終の時も友達はやってきた。

段々暗くなって、息が止まった。

気がつくと、二人きりだった。

目の前には川が流れている。

「もう消えないんだよね」

尋ねると、彼女は頷く。

「今までありがとう」

「楽しかったよね」

「楽しかったね」

二人で笑った。

手を繋いだ。

川を渡る。

明るい。

青空。

光。

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タイムマシンに乗って 尾八原ジュージ @zi-yon

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