私と彼のバレンタイン
あれから、彼とはサークル以外にも二人でカフェ巡りをしたり買い物に出掛けたりして、会える時間が増えて嬉しかった。お互いの家でごはんを作って食べることも増えてきた。サークル仲間にも話し、女の子からのニキへのアピールは消えていった。居づらくなるかと思ったけど、サークルでのカップル誕生は祝福してもらえた。恋愛禁止じゃなくてよかった。
少し変化がありつつ過ごすうちに、二月になった。二月と言えば、バレンタイン。
「ニキは、どんなチョコがいい?」
キャンパス内の一番大きな食堂で、向かい側に座っている彼に質問する。
甘いものが好きなことは分かっている。既に付き合っているから、チョコを渡すことも決まっている。でも、巷には様々なチョコが溢れかえっていて、一つに絞るのは難しい。どうせなら彼の好きなものをあげたい。
「うーん、何でも好きだけど……。メイの手作りチョコクッキーとか、欲しいな。」
少し伸びた前髪から、ちらっと上目使いでこちらを窺ってきた。
「手作り?絶対ニキが作った方が上手なのに。」
「そう言って、作ってもらったことないからさ。」
はにかみながら彼が言う。もしかして、少し甘えてみてくれてるのかな、と嬉しく思う。彼の手作りの方が絶対おいしいけど。
「じゃあ、用意してみる。オーブンないから、ニキの家で作ってもいい?」
やった、と彼がまた私の好きな笑顔を見せる。
「その後、ごはんは俺が作るね。」
やった、と今度は私が笑顔になる。
スーパーではなく、製菓材料のお店に行って、少し良さそうな小麦粉やバター、チョコレートを買った。ハート型のクッキー型も買った。レシピはSNSで人気ものにした。少し焼き色にムラはでたけど、厚さには気をつけたから、サクサク食感にはなった。良かった。
「いい匂いがする~。」
リビングでくつろぐ彼がはしゃいだ声を出す。鉄板に乗せたまま彼のもとへ運ぶ。普通はラッピングもするんだろうけど、焼きたてをあげられるからいいかな。
「わぁ!ハート型だ!」
食べていい?とにこにこ聞いてくる。本当に嬉しいのかテンションが高くてなんだかかわいい。
「うん、もちろん。熱いかもしれないから気を付けてね。」
うん、と頷き早速手を伸ばす。
「サクサクだ、大きめのチョコチップの食感も嬉しいし、チョコに合わせた控えめな生地の甘さも好み!美味しい!」
彼に褒められると、自分が料理上手になったみたいだ。作って良かった。
「じゃあ、次は俺がごはん用意するね。昨日仕込んでおいて、すぐ出来るから。メイの好きな雑誌あるよ、読んでて。」
「至れり尽くせりだなぁ。」
苦笑しつつ、都内のカフェが紹介されている雑誌を手に取る。
半分も読まないうちに、じゃじゃーん、と彼が白い大きめのお皿を持って現れた。
「メイ、お肉好きだからお肉メインのプレートにしてみたよ。」
「わぁ…。」
お皿には、コーン入りのポテトサラダやキャロットラペが色鮮やかに並び、クレソンが添えられた中央にソースのかかったお肉が乗っていた。ステーキかと思ったけれど、煮込まれているみたいだ。
「お店に来たみたいだね。」
カフェのランチで食べているものと遜色ない。食べてみて、と言われるままフォークを持つ。メインのお肉が気になる。
「いただきます。」
そっとお肉を口に入れると、ホロッとほどけた。噛むと、柔らかいのに存在感があって、お肉の旨味と一緒にほろ苦い、でもほんのり甘いソースが口いっぱいに広がる。
「おいしい…。」
ほぅ、とため息のように呟いた。
「このソース…もしかしてチョコレート?」
「よく分かったね。」
私の好きなはにかむような笑顔を見せる。
「バレンタイン、俺も何かあげたくて。バレンタイン特製プレート。」
少し顔を赤らめつつ、彼が答える。スパイスの効いたラペも次の一口を誘うし、コーンのぷちぷちとした食感のポテトサラダも満腹感がある。食べながら顔が綻ぶ。
「ありがとう、こんなバレンタイン初めて。」
本当に、私の彼は料理上手だ。
料理上手な私の彼氏 @mrirmd
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