料理上手な私の彼氏

@mrirmd

私と彼が付き合う日

卵の賞味機嫌が切れていた。しかも2パック。

「卵って…わりと何にでも使えるのに…。」

冷蔵庫をのぞき込みながら彼が呟く。

「私もそう思って買ったの。安くなってたから。」

彼の肩越しに冷蔵庫をのぞき込んで説明する。短いけれどふわふわの黒髪が少し頬に当たった。

彼とは大学のサークルで知り合い親しくなった。親しくなれるよう努力した。せっかく上京したのだから、地方に無いお洒落なカフェ巡りでもしようと選んだカフェサークルだった。月に数回集まって、都内のカフェを巡る。女の子が多いけど、男の子も意外と居た。その中で彼、二木君は特に顔が良かった。本当はフタギ君だけど、読みやすいニキがアダ名になった。私はメイと呼んでもらっている。名前の漢字が明里で、アカリと間違えられるから、メイリと覚えて貰う意味も込めて。彼とは理由が反対だ。

「ニキ、何かつくってよ。」

自炊はしている。でも今は1月で、お鍋にすることが多くて、卵の減りが悪かったのだ。薄々気付かれてると思うけど、それほど料理は得意ではない。彼が得意なのだ。料理もお菓子も何でも作れる。サークル内でも人気で倍率は凄かった。カフェサークルなだけあって、男女とも比較的大人しい人が多いのに、女の子は実はなかなか強かった。家に来てもらうほど仲良くなったのは、私だけだけど。

「でもお腹は空いてないでしょ?メイ、結構ボリュームのあるハンバーグプレート食べてたし。」

確かにお腹は空いてない。サークル活動でカフェランチをして帰ってきたばかりだった。彼を狙う女の子は多いけど、色恋沙汰でゴタゴタしているわけではなく、活動はちゃんとしている。皆、普通に仲は良い。ハンバーグは美味しかった。

「デザートなら食べられるよ。」

そう、例えばプリンとか。私はあまりお菓子作りはしないけど、ニキが作ってくれると思ってバニラエッセンスとか用意しておいた。

「実はしっかり食べたいもの決まってるんじゃない。」

仕方ないな、とニキが笑って台所に立つ。

彼の、この笑顔が好き。目尻に少しシワが出来て、上がった口角は控えめに弧を描く。


彼は賞味期限が切れた卵で沢山のプリンと、夜ご飯用に冷蔵庫の材料でオムライスも作ってくれた。流石、サークル一の料理男子。

「長居しちゃったね」

ごめんね、と手際よく片付けながら彼が言う。私も片付けを手伝いながら、何を言おうか考えていた。

せっかく作ったんだから勿論一緒に食べてくでしょ、っていつもなら言うところだけど。

「いつまででも、居ていいよ。」

今日、告白すると決めていた。だけど、いざとなると顔が熱くなってきた。多分今、真っ赤だ。彼の顔も見れない。驚いてると思う。

「一緒にいたくて、来てもらったんだもん。」

告白って難しい。少し泣きそうになりながら、なんとか声を絞り出す。

ふふ、と小さな笑い声が聞こえた。

「じゃあ、一緒だね。」

びっくりして顔をあげると、私の好きな笑顔があった。

「先に言われちゃった。」


「プリン、一緒に食べよっか。」

甘くて美味しい彼のプリン。ほろ苦いカラメルソースでさえも、今日は一段と甘く感じた。

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