第8話

 生暖かい夜風を浴びながら、小林はアップダウンの激しい道のりを急いでいた。自転車で息も絶え絶えになりながらも爽快な気分である。なぜなら今日は免許停止の満期明け。取り上げられていた免許が返却される日だからだ。

 見覚えのある警察署の玄関をくぐるとヤツがいた。小林を怒鳴り付けた交通課の若手刑事だ。ヤツは夜遅くにも関わらず、今日も同僚たちとパソコンの画面を見ながら何かしら打ち合わせに奔走している。

「はい、何でしょう」

 受付近くにいた警官が小林の方に歩み寄って来た。

「あの……、これお願いします」

 小林は、免許センターから配布された免停満了を証明する書面を差し出した。

「解りました。少々お待ちください」

 警官は、足早に交通課の方へ進んで行く。書面を手渡されたヤツは、小林に鋭い視線を向けると打ち合わせを中断し迫って来た。

「講習受けて来たんやな。もう二度と飲酒運転はしたらあかんで。人生台無しになってしまうよって」

 ヤツは小林の免許と一緒に、爽やかな笑顔も置いて仕事に戻って行った。



 平成十八年八月、福岡県で発生した一家五人死傷事故以来、当局は飲酒運転撲滅をスローガンに掲げ、更に二十一年六月の法改正により厳罰化された。

我々は自由という権利を行使できる反面、社会のルールを守らなければいけないという義務もある――今更ながら小林は身を以て痛感した。

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大人の社会科―飲酒運転の考察― 林葉 @linye852

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