第5話
房の小窓から見える外の風景は春そのものだ。小高い丘には桜が満開に咲き乱れている。
「昼食の準備してくれ」
担当さんの仕出し弁当を配る合図で十二時になったのが窺える。
とうとう昼になってしまった。午前中、指紋を両手五本指すべて採られたのと顔写真をバッチリ写されたこと以外進展はない。もしかして、最短でも明日以降じゃないと帰れないということか――。小林の額にも冷や汗が垂れてくる。家のことは、仕事のことは……。
簡素な仕出し弁当を平らげてからは再びすることがない。ボーっと房のじゅうたんに座り込む小林の方に担当さんの足音が近づいてきた。
「出てきてくれ。取り調べがあるそうや」
やっとのことで物事が進みそうな小林は内心ほっと一息ついた。留置場から他の部屋へ移動するにあたって、また手錠が掛けられる。そして手錠を介して腰縄も打たれる。猿回しの猿そのものだ。
取調室に連れて行かれ、腰縄をパイプ椅子にぐるぐるに巻き付けられる。
「交通課の刑事が来るから待っといてくれ。便所に行きたい時は呼んでくれたらいいから」
担当さんはその場を後にした。
待つこと二、三分。年配の刑事が一人入って来て椅子に腰を下ろす。
「君は警察官の制止を振り切り逃げようとした。飲酒運転の疑いもあり、アルコール検知器も反応している。しかし、君は認めない。よって悪質なものとして逮捕した」
落ち着いた口調で説明が続く。
「今からその取り調べを始めます」
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